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オーストラリアのゴミ問題をまとめてみました

南半球ならではの豊かな自然と、カンガルーやコアラなど野生動物がいっぱいのオーストラリアに、私は移り住んで約20年になります。

スケールの大きい、南半球独自な自然のありかたに圧倒されつつも、その美しさに目を見張ることもしばしばで、この国に住んでいて本当に嬉しく思っているのです、が!

「オーストラリアって環境保護問題に関しても、やっぱり進んでいるんでしょ?自然がいっぱいなんだし。」って、よく友達から聞かれるのですが、実はこの辺り、かなり残念な状況なんです。

環境問題に関しては連邦政府の政策がない

自然保護や環境問題に関しては、州によって対応がまちまちで、連邦政府としてはこの20年ほど政策らしい政策もないまま放置されているのが実情です。

なぜそういうことになったのかサクッと言うと、与野党が政権争いを繰り返している中で環境対策案が立ち消えになり、経済成長が優先されてきた結果、ということになるのではないかと思います。

経済も環境も大事なんだし、政権争いよりどっちも早くどうにかして、と多くの国民は感じているはず。

一般ゴミはひたすら埋め立て

オーストラリアの一般ゴミは基本的に埋め立て処理されています。

日本では一般的な焼却処理を兼ねた火力発電施設は、現在西オーストラリア州で一か所稼働しているほか、クイーンズランド州でも新しく建設中です。

どちらも連邦政府の決定ではなく、州の決断で行われています。

これまでの経緯では、国自体が大気汚染への懸念から焼却処理には消極的だったということのようですが、EUにたくさんの処理施設を持つドイツの会社がオーストラリア国内にも今後展開する方向にあるようです。

一般ゴミの約1/3が残飯などの生ゴミで、温室効果ガスの原因となるメタンガスを大量に発生させるため、各家庭や仕事場から排出される一般ゴミの処理法には、国の法律や規制がないまま、各州と自治体が頭を悩ませつつ対応しているところでしょうか。

資源ごみは回収して積み上げるだけ

資源ゴミの処理はさらに厳しい状況で、2018年1月に中国がオーストラリアからの資源ゴミの輸入を禁止にしたことにより、問題がさらに表面化しました。

国内での再生ゴミ処理プラントを持たないオーストラリアは、金属や紙やプラスティックなどの資源ごみを、中国・東南アジア・インドに輸出し、現地での再生処理に依存していたためです。

アジア諸国が資源ごみの輸入規制を強化したのに伴い、オーストラリアから輸出された資源ごみが処理されないまま現地国を汚染している有様がメディアを通じて次々と露見し、昨年2019年8月、ついに連邦政府は資源ゴミの海外輸出禁止を決定しました。

資源ゴミ輸入国自体が受け入れ許容範囲を超えた現在、少しずつ再利用プロジェクトは進んでいるものの、どこの自治体も回収しても処理できない資源ごみが、埋立地にただ積み上げられるだけで放置されています。

オーストラリアの資源ごみの再生利用率

ガーディアン紙の調査によれば、資源ごみの再生利用率の国平均は55%でも州によってばらつきがあり、内訳は:
サウスオーストラリア州 78%
ビクトリア州 68%
ニューサウスウェールズ州 59%
西オーストラリア州 53%
タスマニア州 49%
オーストラリア首都特別地域 49%
クイーンズランド州 44%
ノーザンテリトリー 11%

アイテム別の再生利用率

金属 90%
石材 72%
紙 60%
ガラス 57%
プラスティック 12%

資源ゴミのいちばんの問題は、アイテムにもよりますが国内に再生処理施設が少なく、再利用には資源を一度輸出しなくてはならなかったことにあります。

海外への資源ゴミ輸出禁止以降、行き場のない資源ごみは埋立地に直行するか、ただ積み上げられてゆくばかりで、行き場所がありません。

州によって違う対策

南オーストラリア州では、小売価格に容器代を上乗せして容器回収を促すディポジットシステムを1970年代から導入しており、地球温暖化やゴミ対策も、現段階では国内でいちばんサステイナブルかつグリーンな州と言えます。

2000年代にはグリーンプロジェクトを発足させ、公共施設におけるソーラーパネル設置、太陽熱発電バスの導入、資源ごみの再生利用の実現化と、地道に取り組んできました。

ビクトリア州では州政府のリサイクル事業におけるインフラ投資促進により、プラスティック再生工場が昨年設立されているほか、アップサイクル(資源ゴミを別の品物に作り替える)や病院や飲食店での食品廃棄物の堆肥化プロジェクトが進められています。

私の住むNSW州では、インフラ投資自体は約8億オーストラリアドルも投入しているのに、工場建設まで大きな動きはなく、小規模事業者向けのアクションプラン提供、自治体ごとの食品廃棄物の堆肥化プロジェクト、州内の地方自治体や産業界への対策支援を地味に行うことにとどまっています。

シドニーのような経済都市を抱えていると、ゴミ問題とある程度の利益を伴うビジネスが結びつかないとプランが先に進まないのかもしれません。

でも、もっと早くに連邦政府が全州で南オーストラリア州と同じ取り組みをするように法規制を整えていたら、今抱えている問題は相当少なくなっていたはずですから、長期的目標の達成には目先の問題だけ追ってもダメというのはここでも当てはまると思うのです。

さらに政府としては、家庭よりも大きなゴミを排出する工場や施設、アグリビジネスにどののように政府が対応するのか、国として法も政策も方向性もない今の状態では、州間の対応がばらついたまま続行されるよりほかなく、いざ法施行の段になって頭を抱えることにもなりかねません。

3Rを加速させていく

各州、3R(Reduce, Reuse, Recycle)の徹底を各家庭に呼びかけて処理するゴミ自体を少なくする試みは共通しておこなわれています。

もっと大きいスケールで対応しないと、うちのゴミが少なくなったぐらいでは正直 “焼け石に水” のようにも感じなくもないです。

ただ、暮らしかた生きかたの方向転換が必要なのが、誰の目にも明らかになった今だから、自分の問題として捉え地味にやっていこうと思っています。

ここからどんな未来を作りたいのか、どんな生きかたをして個人の幸せを求めてゆきたいのか、それぞれが内に問いかけるなかで、答えを試行錯誤の中から見出していく。

できることなら、そのプロセスが新しい発見で溢れ、前向きに楽しんで取り組めていけるようなら嬉しいですよね。

本日は読んでいただき、大変ありがとうございました。

(文: 前田アンヌ)

写真:NSW州ニューキャッスル市の白い食品廃棄物回収箱。自治体が回収したのち堆肥化し地域に還元するプロジェクトが進行しています。シドニー在住のTDさんよりご提供いただきました。どうもありがとうございました。


参考文献:

https://www.abc.net.au/news/2018-09-20/queensland-plan-first-waste-to-energy-power-plant-swanbank/10285102

https://www.theguardian.com/environment/2019/aug/14/how-will-a-domestic-waste-recycling-industry-work-in-australia

https://www.smh.com.au/world/europe/waste-crisis-australia-isn-t-recycling-we-re-just-collecting-20180504-p4zdau.html



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