見出し画像

20210416 if未来、if世界

 叶わないと分かっている内容の夢から醒めた時は虚しいものだけれど、無いと思っていたものが夢に出てきて現実味を持ってしまうことで、可能性がもしかしたらあるかも知れないと考えてしまうことの方がもっと虚しい。

 夢を見る。

 最近は悪夢ではなく幸せな夢を見るけれど、全て過去の世界に対するifであり、起きた瞬間に悪夢へと変質していく。一瞬で興醒めてしまう夢ほど凶悪なものはない。

 私は中学校に向かっていた。
 同窓会の為で、23歳という中途半端な年の設定だった。だから私は“なぜ20歳ではないのか”と夢の中で思うが、コロナの完全な終息を待ったのか、とすぐに納得する。
 でもその時、服装はセーラー服なので、気恥ずかしく思いながら靴箱の前に立つ。自分の靴箱どこだったっけな〜なんて考えていて、少しずつ“修学旅行や体育祭と同列に同窓会というイベントがある学校生活”にシフトチェンジしていく。非日常だった校舎や学校生活や制服、先生と同級生の他愛もない皮肉に馴染み始めるのだ。しかし前提としての同窓会というものは崩れない。
 みんなは今、どんな暮らしをしているのか、という問いかけに私はずっと口を噤んでいた。それでも、もう連絡を取ることは無いであろうかつての友人達の元気な姿に、夢の中で涙を流していた。

 場面は変わり武道館に居た。
 芸能人が突然教室に登場した時に起こる歓声が、私が登場した時にも起こった。
 先日街で偶然会ったけれど名前が思い出せなかった後輩の名前を夢の中でハッキリと思い出す。私のことをよく褒めてくれていた子だったけれど、剣道部という存在自体が消してしまいたい過去となっていたから思い出さないようにしていた。
 蓮、君はそういう名前だったね。
 引退試合のような、和気藹々とした稽古を終え、同輩達と身体が鈍ってるねなんて話をする。
 普段長い髪を後ろに括って、ほとんど笑うことの無かった顧問が途中から登場したけれど、髪はボブになっていて、驚いたけれどなんだかとても似合っていると思った。
 稽古終わりの武道館で、後輩達からのサプライズとしてピザが振る舞われる。不登校になって剣道部を避けるようになっていた肌の白い後輩が、正座して笑っている私の肩にまだアームカットで化膿していない手を置いていたりして、あぁ、本当に嬉しいと思った。

 色々あったけど、またみんなで普通に笑い合っていることが出来ているんだ。苦しいことも多かったけど、報われた。なんて考えながらまた少し感極まって、私はみんなのことを本当に嫌いなんかじゃ無かったから、結果的にでも嫌いにならずに済んで良かった、と。

 涙が出た。現実世界で。それは夢の目覚めで。

 目元の水分のせいで顔が少し冷ややかになり、夢が急速に温もりを失うのを感じた。
 私は20歳であり、もう取り返しのつかない程に剣道部というものを憎悪していて、後輩は私と会えば目を泳がせ、ボロボロの腕を隠すために長袖を着ている。

 夢の中の年齢が進んでいたことで、私は来るなどと思っていないifとして既にある未来を見ていて、後輩の手が白く綺麗だったことで、過去に対するifとしての世界も想定している。
 全てが願望の為に歪められたifであり、現実からはあまりにも乖離していた夢だったけれど、確かに私はそこに“ある”と感じた。質感、感情、音声、色、匂い、温度。全て存在する世界での出来事であり、私は一瞬もうひとりの自分の身体にワープしただけのように思う。それは夢としてしか感受できない現実世界だ、と思った。

 夢の中で幾度となく泣いていた私は、そこが目覚めた後の現実の未来の可能性の中に、夢の現在は絶対と言っていいほど存在しないと分かっていたからだった。夢だと分かっていたから泣いていた、そしてそれを分かった上で楽しんでいた。

 私が生きる現在では、夢で見たようなことは起こらない。夢の中の世界に生活する自分が居て、その喜びはその自分の為のものに過ぎ無い。でも、“ある”と確信してしまえるほど現実味を帯びたその夢が、そこにいる自分の幸せが、あるかも知れないと思ってしまっている。

 楽しいと感じている時、記憶が朦朧とする瞬間がある。
 もしかしたらそれは、if世界の私が夢として私に流入しているサインなのかも知れないと考えてみたけど、これを言ったらコイツはいよいよヤバいぞと思われてみんなに友達辞められそうなので現実世界では言わないでおく。