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1219昨日の夜と新しい皮膚

12月18日金曜日夜

二十歳になってから初めて、1人で居酒屋に入った。

タクシーに乗ると家まで3000円近く取られるのでいつも家飲みで我慢していたのだけど、ずっと気になっていた居酒屋にどうしても行きたくなって入店した。出迎えてくれる人が居なくてテンパって、同じことを何度も聞きながらカウンターに着く。

個室に人が沢山、カウンターに私が1人、小学生の息子と無口な店主、目の前の皿。人が近くに居ないせいで寧ろ辛いし、個室からちょくちょく出てくる人にガン見される。

2000円ぐらいで軽く飲めたら良いな、という気持ちで、ハイボール1つと揚げだし豆腐。そして、にんにくをまるごと揚げたものが300円。想像がつかなかったけれど少し惹かれたのでそれも頼んでみる。

想像よりも濃いめのハイボールが届いて、本当は日本酒が良かったんだけどな~と思いながら、メニューにある豊富な焼酎の銘柄を見る。
日本酒が無くて焼酎が多くあるのは、鹿児島特有の現象かもな、と思いつつ、ハイボールの氷が溶けて薄まるように手のひらをグラスに当てた。

にんにくの丸揚げが届いた。

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なるほどルックスがよい。
鰹節入りの甘い味噌につけて食べる。芋のようなホクホク感と、にんにく特有の香りに味噌の甘み。美味しいから、家でも作ってみようかなと思いながら、なかなか届かない揚げだし豆腐を待つ。

個室の方からauは雑魚、みたいな話が聞こえてくる。WiMAXは都心に迎合してる、とか、SoftBankは良いけど島に店舗がないからな、とか、そんな話が、笑い声と共に届く。そんな笑える話か?と思いつつ、ハイボールを飲む。濃すぎて半分も減らない。

揚げだし豆腐が届いて、写真を撮ろうと思ってたのにたまらず1つ食べてしまった。上にスナップえんどうが乗ってて、歯ごたえ的な違いも良かった。

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美味しい。

揚げだし豆腐って家でやろうとしても上手く行かないのはなんでだろう。好きだから、家で作りたいのに。でもやっぱり店で食べるのがいいか、とか考えながら食べ進める。

なんとなくハイボールもいい感じに氷が溶けて来たので、少しずつ飲む。レモンの風味がもう少しほしい、と思いながら、そういえば家でハイボールを作ったこと無いなと思う。

豚足が気になったけど、揚げ物2つ食べてるし我慢するか~と思いながら、食べ切った皿とまだ半分あるハイボールを見る。もうちょっと頼みたい気持ちを抑え、のんびりハイボールを飲みながら三島由紀夫の憂国を読み返す。

ハイボールが無くなったところで、さっさと退散しようと会計に行くと、1200円しかかからなかった。豚足も頼んどきゃ良かったなと思う。山芋サラダとかも食べたかったかもな、とか、後から後から欲望が湧いて、壁に貼ってあるオリジナルメニューの文字をまじまじと見ながら出ていこうとして思いっきり柱にぶつかった。馬鹿馬鹿、完全な酔っ払いに見られるぞ。

暇だったのでツイキャスで配信をしながら酔い覚ましの散歩をする。

途中の神社に入って、年末だから悪いのが出ても大丈夫!と言いながら引いたものが吉で、聞いてる人たちに普通だなと言われる。そういうもんだろ、求めるな。

歩きながらまだ9時前だし、と本屋に向かう。惹かれる本が無くて、30分ぐらい居座ったけど結局何も買わず出て行く。中国語のテキストがあれば買おうと思ったのだけれど、狭い島だ。需要がなかったのか、一時期めちゃくちゃ積まれてた韓国語の本とともに消えていた。

ドラッグストアに行って、東京オリンピックデザインのポイフルが40円以下で値下げ棚に置いてあるのを見ながら笑って、可哀想だし買ってみた。通常の値段なら他のものを買うけど、安いなら買ってもいいか、みたいな感情ってあって、これが無駄遣いを産んでるんだなと知覚した。

歩きながら車を駐めてるところに向かう。その途中のコンビニで、ストゼロの林檎とミックスナッツを買って、帰ってからもやるか~という気持ちになる。

既に飲み終わってから3時間が過ぎてて、大量のアクエリアスのお陰もあり酒も完全に抜けていたしもう良いだろ、と思いながら車で自宅に帰る。

ストゼロとミックスナッツ片手に、髪の毛を染めるための準備をせこせこして、人と喋りながらブリーチをする。ブリーチってパッチテスト無いんだね~とか言いながら、お酒を飲む。

お風呂とドライヤーを済ませて、すぐ色を入れるための準備をする。結局、ピンクっぽい色になるはずだったのによく分からん緑っぽい金髪になって、薬剤が間違ってたんか表示はピンクやぞ???となりながらも眠る。



12月19日土曜日昼

買い物に行く車内で、成人式が無くなったという連絡が来てはしゃぐ。

私は親がお金を積み立てているから、使わざるを得なくて参加を決めただけだったので、会わなくて良い人たちと会わないのは嬉しい。でも、来るか来ないか分からないけれど、仲良くしていた中学の、連絡先も知らないまま別れた友人と連絡が取れる最後のチャンスかもしれなかったので少しだけ落ち込む。

ドラッグストアでボディ用のピーリングジェル的なものを買って、帰ってからすぐ使ってみる。古い皮膚と新しい皮膚が同じ場所にあって、世代交代の有様が小さな粒を作りながら落ちて見える。

分かりやすくていいな~と思いながらお風呂を上がると、姉が家族のライングループに腹部エコーの動画を送ってくる。妊娠中の姉の腹部に、まだ男か女かすら分からない8cmほどの生体が動いていた。

子宮に居る時から、人間の皮膚ってターンオーバーを繰り返しているのだろうか、とか考えながら、さっき磨き上げてつるつるしている腕を触る。出産予定日が私の誕生日が近く、赤子の新しい皮膚のことを考えながら自分もそろそろこの家族の中での最年少を卒業する日が近付いて居るのだなと思う。

古い皮膚として家族という共同体を脱ぎ去り、新しく生まれ変わる。