見出し画像

小説『ウミスズメ』:あとがき:薔薇の名前・モスキート・コースト・マタイの召命

 拙作『ウミスズメ』をお読みいただき、ありがとうございました。最後に、この作品について少し書かせて頂こうかと思います。

 まぁ、どうでも良い文章かも知れませんが、ここまでたどり着いてくださったわけですから、あと数十行の駄文にお付き合い頂けたら幸いです。

* * * * *

 このお話を書こうと思ったきっかけは、ハリソン・フォード主演の『モスキート・コースト』という映画です。

 この映画を見たのは随分昔になりますが、忘れられない作品のひとつです。ハリソン・フォードが出演しているとは言え、冒険もアクションもない、割と地味な作品ですが、主人公の男が家族と一緒に家を出て行く場面が印象的でした。

 そしてもう一つのトリガーは、言うまでもなく『マタイの召命』です。美術の市民講座のようなものを聞いた時に知った「〈マタイの召命〉というイベントのキモは、スピードです」という解説に衝撃を受けました。

 マタイは、とにかくキリストに会ったその瞬間に立ち上がり、周りの人間があれよあれよと言う間も無く、キリストに付き従いその場を後にしてしまった。そのスピードが大事なのだそうです。

 その時私の中で『マタイの召命』と『モスキート・コースト』の出発のシーンがぴったり合致しました。『モスキート・コースト』全体のテーマはともかく、家族の出発の部分は『マタイの召命』(絵じゃなくて、宗教的史実として)にインスパイアされていたのかなぁ、と思いました(ホントかどうかは分かりませんが)。

 さて、『ウミスズメ』のテーマである〈存在〉については、洋の東西を問わず、老いも若きも、誰でも一度は色々考えることですよね。

 私自身は別に哲学に詳しい人間ではないです。古くは〈普遍論争〉から〈実存主義〉〈現象学〉〈構造主義〉〈ポスト構造主義〉〈新実存主義〉などの解説本を興味本位で読む程度ですが、そんな中でも〈普遍論争〉は私の好きなテーマでした。ノーベル文学賞を受賞した『薔薇の名前』が大変面白かったこともあり〈名前〉をひとつのキーとして〈存在する〉とか〈存在しない〉とかについてのお話を書いてみたいと思いました。

 という訳で、今回〈ウミスズメ〉というお魚に託して、本作を書いてみました。『薔薇の名前』は世界的巨匠の文学作品ですから、インスパイアされたなどと言うつもりは毛頭なく、強いて言えば、本作は長い読書感想文のようなものかも知れません。

『薔薇の名前』で唯一名前が付いていなかったのは、主人公アドソが出会う「娘」だけでした。今回ちょっとしたオマージュとして、ユトにだけ固定した名前を付けて、それ以外の人には名前を付けず、属性名にしてみました(海宝悟は実際には名無しで、海宝佐智夫はいっぱい名前を持っているので除外(^-^;))。

 その他、あちこちに細かくオマージュ的な要素を入れてしまいましたが、他意は無いのでご容赦のほどを。

『ウミスズメ』は地味で拙い作品ですが、ほんのちょっとだけでも楽しんで頂けたら幸いです。

 お読み頂き、ありがとうございました。


あとがきを先に見て、興味を持っていただけましたら、どうぞ一話からご覧ください。


よろしければサポートお願いします!次の作品の励みになります!