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蝉時雨の読書 ―『八月の御所グラウンド』によせて

図書館に予約して、待つこと半年。

「予約本が届きました」とやっと図書館から連絡がきたのは、「ぜひ8月前半中に読んで」と知人からアドバイスをもらった翌日のこと。

あまりにタイムリーだったので、読んでいた併読本をすべて脇に置き、届いたばかりの『八月の御所グラウンド』を読んだ。

あちらこちらで「おもしろかった」という感想を見聞きしていた直木賞受賞作。
お盆直前に読む『八月の御所グラウンド』は、率直に言って最高だった。

人生は有限で、生きている今という時間がどれほど貴重かということが、押しつけがましくなく伝わってくる。

少し切なく、それでもしんみりしすぎてしまわないのはきっと、生命に溢れたうるさいほどの蝉時雨が、物語の中からも外からも聞こえてきたからだろう。

読後、窓の外から聞こえてくる蝉たちの声の中に、時空を超えた遠い昔の蝉時雨も聞こえたような気がした。

賑やかさの中にほんの少しノルタルジーが混ざる、蝉時雨の夕暮れ。
それはガラス瓶に入ったソーダ水にも似て、今夜は梅酒のソーダ割りにしよう、とふと思いつく。

それにしても万城目学さんという人は、いつも実に軽やかにやすやすと「この世ならぬもの」をこちらの世界に連れてきてしまう。
才能だなあ、と感嘆の溜息が出るような受賞作だった。


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