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犬が好きだ。

古来より、犬は人間の1番のパートナーだ。
あれほど純粋に喜びを表し、人に従順でいてくれる動物は他にいないだろう。
猫の方がフォトジェニックである事は認める。しかし、個人的に生き物としての存在を愛おしく感じるのは圧倒的に犬なのだ。

長年通う美容院では、犬好きのオーナーがいつも自身の相棒をお店に連れてきていた。犬嫌いなら他をどうぞと言わんばかりのマイペースなオーナーに似て、店内をウロウロしたり、寝転んでいる真っ黒で狼のような大型犬だ。彼は非常に気難しく、触られることを嫌がり、オーナー以外には懐かない。噛むことは無いが、無理矢理撫でようとすれば、犬歯を見せて威嚇してくる。何度も会っているオーナーの常連客である私に対しても、「フン、また来たな。」といった感じで、一瞬匂いを嗅ぎにきてはすぐに立ち去る。

我が家の愛犬が13年目で天国へ旅立った。小さな子供のように泣きじゃくった自分に驚き、初めて見る父の涙にこれまた驚き、「辛いから」という理由で、首輪を除いたケージやお皿など、全てを当日中に処分した母の潔さに1番驚いた。

間もなく、私はいつもの美容院に行った。椅子に座りオーナーとの会話の中で、愛犬を亡くした事を話すと、「そうかぁ。」と一言。きっとオーナー自身も何度も経験していることだけに、その言葉だけで共感してくれたことが伝わった。

オーナーが他のお客さんの接客のために一瞬席を外すと、私は一人になった。
すると今まで寝そべっていたパブロが、スルスルと椅子の間をすり抜け、私の膝に顔を乗せた。余りに意外な出来事に驚き、しかしすぐに彼からの弔いの気持ちを理解した。「ありがとうね。」と言って彼のおでこを撫でると、目を瞑ってじっとしていた。
オーナーが戻り、その光景を見て「お、珍しいな」と呟いたが、それ以上は何も言わず、私も黙っていた。そしてパブロは身を引き、元居た所に戻り、再び寝そべった。

犬は本当に賢い。人間が余計な知恵や欲を身につけるうちに弱まった、「相手の気持ちに寄り添う事」を言葉を持たずに行動で伝えてくれる。だから犬はたまらなく愛しい。


ちなみに次に美容院に訪れた際、試しに彼を撫でようとすると、いつものように犬歯を見せて威嚇してきた。「お前調子に乗るなよ。」と言われた気がした。

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