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kaidan 4夜目

ここ数年、自転車でツーリングをする事にはまり、輪行という手段を使って遠出をする事が多くなったんです。
これは、恐怖譚というよりは不思議な話なのかも知れません。
前日、修善寺から好天の中西伊豆スカイラインを走って天城峠を抜け、河津温泉にて宿を取り旅の疲れを癒してのリスタートからの話です。
東伊豆から南伊豆へ抜けるルートを、前日とは打って変わった曇天の中を走り、下田のとある神社へ詣でました。
伊豆急下田駅に近い下田富士の山頂にある神社です。
※京極夏彦氏の小説に出てきた神社です。
中腹のお社までは比較的お詣りし易い参道が在るのですが、奥社に続く参道は山道の様な険しさのあるあの神社です。
長距離の自転車走行にも関わらず、物語の舞台となったあの場所をこの目で見たい一心で歩を進めました。
数日前の台風の影響で道は、其処此処に泥濘があり気を抜くと足を滑らせそうな足元に加え、倒木等も転がり登頂は決してスムーズな状況ではありませんが、ファン心理という奴は全くもって始末が悪いもんです。
暫くすると、上の方から作業服を着たお爺さんが降りてきました。
下りの道すがらのせいなのか、登りで悪戦苦闘している自分とは対照的な涼やかな顔です。
こんにちは声をかけると品の良い笑顔で会釈を返しすれ違って降りて行きました。
そこから10mほど上がった所に、今日出会った中では最大級の倒木が転がっています。
この倒木を乗り越えて往き来するとは、80を超えていそうな風貌からは想像がつかないもんだなと思いつつ、倒木を乗り越えてさらに歩を進めます。
道もさらに急になり下を向きながら登る場面も出始めた時の事です。
山道にありがちな事ですが、蜘蛛の巣がわっと張り付いて来たのです。
や、しまった。下ばかり向いて歩いているからこんな事にと毒づいて、ハタと思いつきました。
上から降りてくる道は一本。
他に迂回する事は叶いそうにありません。
先程すれ違ったあの人は、一体どうやってこれを潜り抜けたのでしょうか?
そう言えば、泥濘んだ足元に人の歩いた跡を見ていません。
多量の水を含んだ山道を足跡一つ残さずに歩けるものでしょうか?
そう思った時、一気に冷気を感じました。
あのお爺さんは一体…
いや、そもそも人だったのでしょうか?

やはり聖域と呼ばれる場所には何かがあるものですね。


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