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締めくくりに参考文献|『アモールとプシュケー』あとがき

 6月後半から、note掲載という、個人的に大事業だったイベントを続けてきました。この記事で *ひとまず* 終了です。

(というのが、アフロディーテ&アレースの記事を書いても良かったかな? と思うので、いつか書くかも・・・ですが、8月には8月の記事を書かないと。)


 本の最後には、参考文献のページがあることも多いので、それにならって、このような形の締めくくりです。

 これまでお付き合いくださったみなさまのご厚意と忍耐力に、あらためて感謝申し上げます。



 今回の物語を書くにあたって、自分に深みがなさ過ぎることを痛感したので、いろんな本を読みました。

(シェイクスピアのハムレット、ロミ&ジュリもあらためて読んで、ところどころ参考にさせてもらいました☆)


 たとえば、古代ギリシャ期の花の種類。いちばん高級な大理石の産地、透光性。パピルス紙の巻物と文字の雰囲気。鳥の視力、蝋の温度、青い眼と黒い眼の暗視力の差、暦法、キトンの着用法の流行、喪のイメージは黒でよいのか、ギリシャ人女性のお化粧が薄いこと(ローマはわりと濃いらしい)、神殿の窓にはめられていた透明滑石パネル(22cm×16cm)、etc....

 資料としての本を読むというのは、ふだんの読書と感覚が違うものなのですね。
「あった」「見つけた」の連続。楽しかったです。


 この記事では、特に参考になった本や、基礎となる本のみに絞って掲載しておきます。

 絶版も多いので、もし気になるものがあったら、図書館に探しに行く方がよいかも?(◔‿◔)



ギリシャ神話・ローマ期叙事詩関連


▶ アプレイウス『黄金の驢馬』


まずはこちら。
アプレイウス(アープレイユース)が書いた原作。
プシュケーのおはなしは「巻の4」〜「巻の6」、岩波文庫版でpp.165-242です。


▶ 呉茂一『ギリシア神話』


ギリシャ神話を体系的・網羅的に編んだ名著。読みやすい上に言葉遣いも身近で品があり、とても好きです。尊敬♡
とはいえ大著なので、目次や索引を利用して、好きな神様、知りたい英雄などの章を読む、という利用の仕方がいいかもしれません。




▶ オウィディウス『変身物語』


オウィディウス『変身物語』。現在ギリシャ神話として語られる物語のおおもとになっている古典中の古典。ピュグマリオン、クリュティエ、アドーニス、アラクネー、ナルキッソスとエコー...などなど、みんな出てくる宝庫です。そして、描写が素晴らしい! かのボードレールも愛読したというオウィディウスさんでーす(^^)
 こちらも、気になる箇所を拾い読みするのがおすすめ。
なお、私が読んだのは松本克己さん訳です。


▶ ホメーロスの諸神讚歌

こちらは、やや中級編かもしれません。いわゆる古典の、ところどころテクストが欠けたところもあるような古い時代のもので、厳密には作者不詳。ギリシャ神話の世界に一通り慣れたあと、より古い時代の息吹に触れたい方にオススメ。「アフロディーテがいかにしてアンキーセースを籠絡したか」とか、「ペルセフォネーはそんなにハデスのことがイヤでたまらなかったのか...」「ディオニュソスって意外と苦労人よね...」などなど、読むとふつうに楽しめます。あと、原典より長い気のする《注釈》を読むといろんな発見があって、本当におもしろいんです。


▶ ヘシオドス『神統記』

世界史で習った気のするヘシオドスさん。格調が高い!の一言に尽きます。翻訳者のお手柄かなとも思いますが...あまり詳細な描写はないので小説的なおもしろさとは違いますが...。たとえるなら、神社でご祈祷をいただくときの祝詞のりとの雰囲気に似ているかもしれません。古代ギリシャの人たちはこういう悠久の世界に住んでおられたのですね。


▶ ウェルギリウス『アエネーイス』

良書ですがマニアックすぎるのでオススメはしません。
英文学科の先生が「西洋文学の祖はウェルギリウスです!!」と熱く語っておられたのが忘れられず、いい機会だと思って図書館で借りました。とはいえ、軍記物にはまったく興味がないので、冥府に関する必要箇所を読んだだけです💦
でも、こういう本は、全く読んだことがないのと、一部分でも読んだ経験があるのとでは、大きな違いがある気がするんですよね...。ダンテの『神曲』然り。感慨深いものがありました。
解説書としては小川正広さん(岩波/2009/おそらく絶版)を読みました。



哲学関連


▶ 『プラトン哲学への旅〜エロースとは何者か』


最近の本。ですのでやはり読みやすいです。そして、内容も非常に濃くて深く、じっくり一章ずつ、一節ずつ読んで噛み砕き、味わいながら読みたい本です。
特に、プラトンを読んでみたいけれど、ふつうの解説書に挫折してしまった方にオススメ。物語仕立てなので、すらすらと読み進めることができます。(私はきちんと消化したかったのでゆっくり読みました。)



▶ シェリー・ケーガン『「死」とは何か』

難解な観念論ではなく、「死とは何か」「あらゆる宗教に頼らず死を語り得るか」「私たちには魂があるのか」「〈私〉とは魂? 身体? 人格?」「死ぬときは結局《独り》なのか?」「死は悪いものか? だとしたらどのように悪いのか」「もし不死だったら?」「自殺はまったくダメなのか?」など、結構具体的で身近な考察をしてくださいます。

↑私が読んだのは先に出版されたこのバージョンですが、↓の【完全版】もあります。


▶ 岸見一郎『愛とためらいの哲学』

この本の最大の発見は、「まずインパーソナルな愛があり、そのあとで、パーソナルな愛がある」ということ。
好みに合う人だけを愛する、というのではなく、能力として「誰でも愛せる」力を持ち(持つよう努力し)、その上で、特定の人を愛する、というのが、愛の本質であり、本筋なのだ、ということです。
 その他いろいろ、アドラーやフロム、森有正など引用がキラキラ輝く奥深い愛の世界へ誘ってくれる、すぐれた指南書です。



▶ エーリッヒ・フロム『愛するということ』


愛について、誰もこれ抜きには語れない永遠の名著。大学生の頃に読んでおいてよかったと生涯思う1冊です。最近読んだわけではないけれど、参考文献として取り上げずにはいられません。




関係なさそうで大ありだった自然科学系


▶ デイヴィッド・J・リンデン『触れることの科学』

胎児期の発達から見て、もっとも古層にある感覚=触覚。恋愛だけでなく、広く「触れる」ときに人間の心と身体に何が起きているのか、を解き明かす、非常にスリリングな本。はっきり言うならかなりエロティックなところを、科学本というストイックさを笠に着て、いけしゃあしゃあと(すいません💦)語り続けるところも含めて、本当に学ぶところの多い本でした。(恥ずかしがってばかりいたら、何も始まらない、ということ。)


▶ 小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』

死ぬことによって、物質の循環、原子の循環サイクルがうまくめぐっていく…という、輪廻思想のロジカル版みたいな手応え。ちょっとしたブームになっていたように思います。




文化史関連


▶ アルベルト・アンジェラ『古代ローマ人の愛と性〜官能の帝国を生きる民衆たち』


このへんになってくると、「読みました」とか「オススメです」なんて、顔を赤らめずには言えなくなってくるのですが...。公衆浴場や、コロッセオでの剣闘士との逢い引き、異性の気の引き方、貴族の火遊びから最貧窟の女郎屋まで、古代ローマ人の愛と性についてかなり克明に調べてある本。読んでいるうちに、すべての男性に愛想を尽かしたくなってくる──いえいえ、女性の権利を擁護せずにいられなくなってくる箇所もありました。女性の立場は本当に弱かったんですね...。
それはさておき、著者のアルベルト・アンジェラさん、もはや(官能)小説が書けるレベルの描写力・・・。最近の研究者って、ストーリーテリングがうまい方が多いですよね。


▶ アルベルト・アンジェラ『古代ローマ人の24時間〜よみがえる帝都ローマの民衆生活』



こちらも興味深く閲読しました。
ギリシャとローマの文化・精神性は違うところも多いのですが、現代日本はもっと隔絶していますので、こういった本を読むと、古代地中海世界にすっと遷移できる感じがしてきます。



▶ 『古代ギリシャの暮らし』(ふくろうの本)


 家具や食器などのディテールを調べるために、参考にしました。薄めの本なので詳説とまでは言えませんが、概観を把握するのにはとてもよい本です。写真がふんだんに載せられ、雰囲気もよく伝わってきました。




 最後の絵として選んだのは、ブグローのこの絵。若い乙女と愛の神の寓意画です。

 容赦ないよね💦と思うのですが・・・でも、恋愛ではなく博愛の矢を、世界の為政者の膝に上がり込んで一刺ししていただきたいものです。──そんな願いも込めて(◍•ᴗ•◍)✧*。


William-Adolphe Bouguereau: A Young Girl Defending Herself against Eros (c. 1880)

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