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共生と基本的人権の尊重

1・国際法上の「自決権」について

人権規約は、A規約、B規約のいずれにおいても、第一条一項において、自決権について規定し、「すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する」としている。

第二次世界大戦後、非植民地化の過程で実定法となっていく自決権は、植民地人民を中心とする、外国支配下におかれた従属人民の独立達成の権利であり、「外的自決権」を意味した。独立国の一部を構成する少数者などに自決権を認めることは、国の領土保全を損なうものとして厳しく拒否されていた。

しかし、世界人権宣言ではふれていないが、人権規約で新しく規定されたものとして、B規約の第二七条において、少数民族(マイノリティーズ)の問題が取り上げられており、「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」と規定されている。

「外的自決権」は、このような少数民族の権利の尊重を伴わなければならない。さらに、1993年のウィーン世界人権会議では、「国家的および地域的独自性の意義、並びに多様な歴史的および宗教的背景を考慮にいれなければならないが、すべての人権および基本的自由を助長し保護することは、政治的、経済的および文化的な体制のいかんを問わず、国家の義務である」ことが確認されている。

<参考文献>田畑茂二郎『国際化時代の人権問題』/芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』/松井芳郎『国際法から世界を見る第3版』

2・人権の中核としての人種差別の禁止

基本的人権という観念は、一八世紀の啓蒙期自然法思想から導かれたものであって、国内における君主や貴族と一般庶民とが階級的に厳然と差別される中で、君主の絶対支配に抵抗し、平等な人間としての権利が主張された。田畑茂二郎によれば、平等の主張といっても、それは同質的な白人社会内での平等の主張であり、白人と他の人種との間の平等とか、人種間の差別の撤廃とかいった問題は、視野の外におかれた。

戦後、状況は大きく変わり、人々の平等という場合、対象領域は国内から世界的な規模に大きく広げられ、人種や皮膚の色による差別の撤廃といった問題が、強く前景におしだされた。そのきっかけの一つは、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺である。戦争が終わるとさっそく、このいわゆるホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)の問題が国際連合において取り上げられ、「集団殺害」は国際法上の犯罪であることが確認され、さらに、いわゆるジェノサイド条約が国連総会で採択された。

人種差別の禁止は、国際法上の犯罪であるジェノサイドや、現代各地で多発する武力紛争の温床となりうる人種間の憎悪や偏見を除去する上で、不可欠の価値であり、差別なしに人権の享有を認めるという、消極的な規定の仕方だけでなく、積極的に差別そのものの撤廃をめざした措置をとることが必要であり、国際連合を中心に、そうした方向へ大きく動いていかなければならない。

田畑茂二郎によれば、人種差別撤廃条約は、その前文で、人種的相違に基づくいかなる優越主義も科学的に誤りであることを強調している。また、人種差別は、道徳的に非難されるだけでなく、諸国間の友好的かつ平和的な関係の障害になっており、人民相互の間の平和と安全、ならびに同一国家の中でともに生活する人びとの間の調和をみだす可能性があり、「あらゆる形態と表現による人種差別を速やかに撤廃するために必要なあらゆる措置をとる」という決意が表明されている。

<参考文献>田畑茂二郎『国際化時代の人権問題』

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