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ツクモガミしゅぎょう~えんぴつのかみさま~

しとしとしとしとしとしとしとしと……。

雨が止むまで 帰れない。

ひとり ふたりと お迎えが来て、
一年二組のまん中で
いよいよ ぼくは ひとりぼっち。

目をつむると、お化けが出そう。
目をあけてても、お化けが出そう。

「ころころ、かっつん」
「こつん、こんこんこん」
隣の教室で、音がする。
ぬきあし、さしあし、そーっとのぞいて、見ていると、

廊下に近い机の上で、えんぴつたちが、輪になっている。
まあたらしい、長いえんぴつに囲まれているのは、
ちびた古いえんぴつだ。

「ツクモガミとは!」
古えんぴつが、えっへんえっへん、と話し出した。
「かみさまである!」
「ほほーーう」
「われわれ、えんぴつも!」
「百年もすると、ツクモガミになれる!」
「かみさまか~。百年かあ~。」
えんぴつたちは、ちょっと遠い目をしながら、話を聞いている。
「しかし!」
「百年なんて、まってられるか!!」
「そうだそうだ!どうせえんぴつに生まれたなら、ツクモガミになりたいなあ!」
「字を書いてるだけじゃ、つまんないだろ!!」
「そこで!」
「今夜は、ツクモガミしゅぎょうを、けっこうする!」
「しゅぎょう!しゅぎょう!ツクモガミしゅぎょう!」

古えんぴつを先頭に、えんぴつたちがころがっていく。
ぼくも、えんぴつだったら、ぜったい子どものうちに、ツクモガミになりたいもの。
がんばれがんばれ、えんぴつたち!

「しゅぎょう1!机から落ちても泣かない しゅぎょう」
「床を見ては、だめだ。しっかり目を閉じて、みんな硬いから、痛くないぞ。」
次々にえんぴつたちが、机の端から転がり落ちる
「硬くなーる!痛くなーい!」
泣きそうになるのをぐっっとこらえて、こつーん、こつーん。
えんぴつたちは、一本たりとも、泣かなかった。
「よし、みんな、たいしたもんだ!泣かないしゅぎょうは、全員ごうかく!」

「しゅぎょう2!踏まれないように、教室のはじっこまで転がる しゅぎょう」
「ながいこと転がることになる。くるくる目をまわさないように、気持ちをしっかり持つのだ。」
えんぴつたちが順番に、床をころころ、ころころころ、教室を出て、廊下の端にたどり着いた。
一本だけ、目を回してぼくの目の前に転がってきちゃった子がいたから、こっそり「ふうーっ」と吹き飛ばして、列にもどしてあげたんだ。
「よし、みんな、なかなか上手だ。転がるしゅぎょうも、ごうかく、ごうかく。」
 
「しゅぎょう3!掃除のときに掃き出されないように、敷居や床に、はさまる しゅぎょう」
「落ち着いて、ホウキの行く先を見極めろ。ホウキと直角に向き合ってはダメだ。」
掃除をする子どもが帰ってしまったので、今日は「掃かれるふり」しゅぎょう
「毎日、掃除を見ているだろう?ホウキの先にひっかからない方法を、くふうするのだ!」
えんぴつたちは、ちょっと考えてから、それぞれくふうをしはじめた。隅っこの角に頭と足をっぱる子。立ち上がってかべにぴったりはりつく子。心をひたすら無にして横になる子。えんぴつたちも、いろいろだなあ。
「よし、みんな、たぶんごうかく。だめなとき以外は、だいじょうぶだろう!」

「しゅぎょう4!」
古えんぴつが、言いかけたとき。
パタパタパタパタッ…と小さなスリッパの音が聞こえた。
「アカンボウだ!!!」
古えんぴつが、ちぢみあがった。
「アカンボウには、見つかってはならんぞ!見つかったらさいご、上から下までヨダレまみれか、運が悪けりゃふみつぶされて、頭をポッキリ折られてしまうかもしれない!」
「師匠、つくもがみなら、アカンボウなんて、頭の先でこちょこちょこちょっとクスグレば、一丁あがりじゃ、ありませんか?」

「ワシがツクモガミだなんて、いつ言った?」
「えっ?!それじゃあ、師匠は…」
「みんな!しずかに!息を止めて、動いちゃダメだ!見たいだろうが、目を開けてはいかん!!」

スリッパの音はパタパタ、パタパタ、えんぴつたちに近づいてくる。
「いったい、なんで、こんなところに!」
「こまった、こまった、どうしよう!神さま、神さま、たすけてください!」 

「ゆきちゃんゆきちゃん、お兄ちゃんの教室まで一緒に行こう」
ぼくはとっさに、妹の手をひっぱって、えんぴつたちを踏まないように、遠回りしながら、一年二組に戻ったんだ。
妹は、ちっとも気がつかなかったみたいで、ぼくもしょうじき、ほっとした。

えんぴつたちは「ぽかーん」
古えんぴつは、腰を抜かしながらもえへん、とひとつせきをして、
「き、きょうのしゅぎょうは、このくらいで、かんべんしてやろう」

おかあさんと妹と、一緒に帰る後ろから、廊下の方で、声がする。
「びっくりびっくりしたね。雨ふる夜の学校には、ふしぎなことがおきるんだね。」
「子どもみたいなかっこうだったけど、あれはきっと、えんぴつの守り神さまだ。」
「えんぴつの神さま、ありがとうございます!」
「えんぴつの神さま、こんどは、いっしょに、しゅぎょうをしましょう!」

えんぴつの神さま、だってさ。ぼくは、聞こえないふりをしていたけれど、
なんだかちょっとくすぐったい気分だったよ。

次はいつ、雨が降るかなあ。

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