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遠島啓介・小山龍介|ロゴのつくりかた ー込められた〈意味〉と多様性の表現ロゴセミナー

ダイバーシティ(多様性)というのは、表現の問題と密接に関係しています。多様であるというのは、多様な表現が許容されているということ。ある空間の中で、他者との違いを表現していく。その多様な表現として、今回、「ロゴ」を取り上げたいと思います。

遠島さんはロゴデザイナーであり、同時にさまざまなロゴ表現を集め紹介するメディア「ロゴストック」を運営されています。その会社や店舗の個性を表現するためのロゴの制作だけでなく、さまざまなロゴのあり方について長年、向き合って来られてきました。

今回、遠島さんが『ロゴのつくりかたアイデア帖 "いい感じ"に仕上げる65の引き出し』を上梓するタイミングでの講演。ロゴのつくりかた、と言っても、単にテクニカルな話にとどまらない、さまざまなお話が伺えるのではないかと思います。(小山龍介)

よいロゴの「3つのツボ」

小山龍介(以下、小山) 今日は、ロゴデザイナーとして活躍されている遠島啓介さんにお越しいただきました。先にご本の紹介をしますと、遠島さんが3月に出版されたのが『ロゴのつくりかた アイデア帖』です(本を掲げて見せる)。

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『ロゴのつくりかたアイデア帖 "いい感じ"に仕上げる65の引き出し』インプレス (2020/3/16)

最初は、ご本のプロフィールのところに書かれている、「Logo stock」というロゴを紹介するデザインブログを始められました。そこからどんどんロゴにのめり込んで、今はロゴを専門にしていらっしゃいます。せっかくご本まで書かれているので、ロゴのつくりかたのコツを伺えたらと思います。

これをご覧になっている方は、デザイナーではない方がけっこう多いと思います。デザインに関係なくても、たとえばデザインを発注するときのヒントにもなればということで、ロゴをつくるテクニカルなところの前段階の考え方のところも含めて伺いたいと思っています。

遠島啓介(以下、遠島) 今ご紹介があったように、『ロゴのつくりかた アイデア帖』という本は、けっこうテクニック的なもの、デザイナーの卵みたいな人が読むような本なので、その前段階の「どんなロゴをつくったらいいんだろう」みたいな準備からお話しできればと思います。

まず、日々ロゴをいろいろ依頼されてつくっていますが、依頼されるときは「とにかくカッコいいロゴをつくってほしい」みたいなことを言われたり、「どういうのがいいかわからないからプロに任せるよ」みたいなことを言われてしまったりします。そういうのは、こちらとしても取っ掛かりがなくて難しいのです。

そういうときは、「ではいいロゴってどんなロゴでしょうね」という話をします。3つのツボがあって、まずひとつ目は、自分らしさがしっかり表現されているかということです。そのロゴを他人が使っても意味がないよというもの、自分が使うからこそ意味が生まれるデザインを目指しましょうねという話をします。

ふたつ目は、使いやすいことです。ロゴは一度つくったら、ブランドの一貫性という意味でも名刺や看板などいろいろなシーンで使ったほうがいいのです。そのために、機能的に使いやすいロゴを目指しましょうということがあります。

みっつ目は、共感されることです。

小山 独りよがりでは駄目だということですよね。

遠島 そうです。今は、「モノ」の時代から「コト」の時代に移ったといわれています。商品やサービスに関する内容での差別化が難しくなっているのかなと思います。選ばれるには、どんな思いでサービスをやっているのかとか背景にあるストーリーなど、そういうことを大事にする時代になっています。

ロゴは、結局パッと見の印象でしかないのですが、ターゲットとなる人がロゴをパッと見たときに「なんかこれ好き」とか「自分に合っていそう」と思ってもらえることが重要だと思っています。

小山 Instagramなどもそうですが、特に最近ビジュアルがすごく重要になってきていますよね。なおかつ、オンラインでロゴをここに掲げたりすると(画面左上のCONCEPT BASE Shibuyaのロゴを指す)、なんとなくその人らしさとか「CONCEPT BASE」というプログラムの「らしさ」みたいなのが伝わります。会社はもちろんのこと個人でも、ロゴを使う場面が今後どんどん増えてくると思います。

遠島 お客さんに、こういうロゴがいいですよね、こういう観点で見るといいですよねという話をした後に、今言った「自社らしさ(自分らしさ)」と「使いやすさ」、「共感されるか」の3つのツボに照らし合わせて準備していきましょうという話をします。

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この3つのツボをもう少し深掘りすると、まず「自分らしさ」は、自社らしさ、自分らしさのあるコンセプトをしっかり建てて、その上で意味と印象がしっかり反映されているかということです。意味というのは、ネーミングや名前の由来や事業の内容や経営理念、地域などといった事実の部分です。印象というのは、いわば人柄みたいなもので、ほんわかした感じとか勢いがあるとか落ち着いた感じとかです。意味と印象を掛け合わせたのが、自分らしさになると考えています。

次の「使いやすさ」には、4つの重要な基準があります。ひとつ目の視認性は、形がはっきりと見える、文字が間違いなく読めるということです。よく、ロゴを逆さまにしてみたら違う形に見えてしまうとか、文字だと装飾しているうちに違う文字にも見えてきてしまうというのはNGです。

ふたつ目の展開性は、名刺だと小さいスペースで使うし、看板だとすごく大きなスペースで使うので、どんなサイズでもはっきり見えるということです。それと、モニターでは色がはっきり出るけれども印刷だと違う色になってしまうのはNGですね。

みっつ目の独自性は、さっきの自社らしさというのを的確に反映したとしても、すでにほかにあるロゴとすごく似ているのは意味がないので、そこはすっぱり諦めて違うのをつくりましょうということです。

よっつ目の話題性は、ロゴから話が展開するか、コミュニケーションが生まれるかです。たとえば営業の人が名刺交換のときに「このロゴ、カッコいいですね」といわれて、「実はこのロゴにはこういう意味があって…。」という話をして最初に盛り上がれるのは、使いやすさに繋がると考えています。

次の「共感される」は、親近感、信頼感、期待感の3つがあると考えています。ひとつ目の親近感は、身近に思ってもらえるか、自分ごとと感じてもらえるかです。ふたつ目の信頼感は、提供している商品やサービスの品質が間違いないということを、ロゴから感じるかということです。期待感は、ほかと違うワクワクがあるか、その商品やサービスならではのものがあるかといった、すごく感覚的なところですが、こういうものをちゃんとロゴに込められていると成功だと思います。共感されるものをつくるというのは、ターゲットを適切に設定するということです。この、「自社らしさ」、「使いやすさ」、「共感されるか」という3つのツボを考えて準備をしましょうということです。

小山 なるほど。独自性は、けっこう難しいところがありますよね。オリンピックのロゴが大変な騒ぎになりましたが、シンプルになればなるほど、どこかで見たようなということになりかねないですよね。社会的にこれなら見分けがつくかなみたいなところで、だいたいやっていくものなんですかね。

遠島 そこはやはり、自社らしさ、自分らしさがちゃんと表現できているかというところが、大きなファクターになっています。世界中を探したら、同じような似たような形は多分出てきてしまうとは思うんです。そのときに、これはコンセプトが違うんだよというのを、ちゃんと説明できるかどうかということですかね。

ロゴのヒアリングがコンサルになる

小山 「ダイソー」のロゴがカッコよくなったのですが、三角形の重なっている部分が車の「シトロエン」のロゴにそっくりだといわれました。シトロエンファンからすると「ダイソー?!」という感じで、100円ショップのロゴと同じになってしまったみたいなこともあって、独自性は難しいところですよね。

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ダイソーのロゴ(https://www.aobadai-square.com/floor/detail.php?id=37)

遠島 ロゴだけ見てしまうと形が似ているとなってしまうのですが、提供している世界観というかブランディングを見ると全然違うというのは、誰でもわかるじゃないですか。なぜこの形にしたのかを説明できるというところが重要なのかなと思います。ただ、やはりシトロエンはけっこう有名なロゴなので、そういうのに似ているのであれば、やめたほうがよかったかもしれないですね。

小山 絶対、デザイン的には議論になったはずなのですよね。それでもこれにしたというのは、ダイソーも100円ショップだけれども、上向きにより良く生活していこうといった崇高な理念をロゴで表しているのでしょうね。

遠島さんがロゴデザインをするときに、こういった理念などをヒアリングすると思うのですが、お客さんが自社の意味やキャラクターみたいなものを答えていくこと自体が、ある種、頭の整理になりますよね。

遠島 ロゴのヒアリングなのですが、答えてみたら結果的に自分の事業についてちゃんと考えが整理できたとお客さんに言われることがあって、経営コンサル的な面もあるのですよね。

小山 そういう意味では、今デザインコンサルが経営コンサルと兼ねてというか、経営コンサルの有名な会社がデザイン会社を買収してデザインも提供できるようにということもやっています。結局そこが一体にならないと、ミッションやビジョンを設定できない。

それと今思ったのは、ダイソーが100円ショップであると自分たちを定義づけてしまうと、それに縛られてサービスの広がりがものすごく限られてしまうわけですよね。これは有名な話ですが、鉄道会社は自分たちを鉄道事業と定義づけたがゆえに、それ以上発展がなかったといわれています。でも鉄道会社が、われわれは生活拠点をつくってまちづくりをやるんだと定義づけると、駅を中心としたまちづくりに事業が展開するわけです。

ですから、そういうふうに自分たちを何事業であるかということをまず再定義して、そこからロゴに展開していくと、シトロエンとダイソーが一緒になったとしても、これには理由があるんだということでちゃんとブランドができていく。

遠島 ダイソーが、これからどういう歩みをしていくのかというところですよね。私たちは、こんな感じでお客さんと一緒になって準備を進めていって、その辺の整理がついてから、ではロゴではどういう表現をしようかという話に入っていきます。

ロゴには「シンボル系」と「ロゴタイプ系」がある

遠島 うちでつくったロゴです。ロゴは大きく分けると、シンボル系のロゴ、ロゴタイプ系のロゴの2種類があります。シンボル系は、シンボルマークがあって文字があるというロゴです。ロゴタイプ系は、文字が主体になってそこに装飾がついているものです。シンボル系は、いわば見るロゴ。見てダイレクトにインパクトで飛び込んでくるロゴです。

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小山 業種も、これではっきりわかりますよね。カメラだとか。「食」と書いてあるので食だなとか。

遠島 そうですね。シンボル系の見るロゴは、パッと目に飛び込んでくるインパクトがあって、すぐに業種がわかったりダイレクトにイメージが伝わります。コンセプトやイメージが反映しやすいし、グッズや名刺につけるなど、さまざまなツールへの展開もやりやすいといえます。

対するロゴタイプ系は、読むロゴです。社名をちゃんと読ませて、それにイメージをつけています。シンボル系と比べると、たとえば「SENGOKU」と読んだりということがあって、伝わるのに若干時間がかかりますね。ただ、名前を覚えてもらいやすいという利点はあります。ネーミングをちゃんと考えてつくるお客さんが名前を伝えたいというときには、やはりロゴタイプ系が有効です。どちらがおすすめというのはなく、ケースバイケースです。

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