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連携を生み出し、未来への扉をひらく日本遺産

「六古窯サミット2022 in 信楽」で小山龍介が行った基調講演の要約になります。

日本遺産は、従来、単体で指定していた文化財を、ストーリーでつなげて認定するものだ。この六古窯も、六産地が連携することで日本遺産に認定された。

日本遺産には3つの目的が設定されていた。ひとつは、文化財活用である。ふたつめは、地域活性化。ただ守るだけではなく、それを守る主体である地域の活性化が欠かせない。みっつめは、インバウンド対応であった。

ここで日本遺産にありがちな誤解を紹介したい。ひとつめが「保存を重視せず、ただ活用する」という誤解だ。英語で「Use it or lose it」という表現がある。使わないものは失われてしまうという意味だ。活用は、保存するために行うものなのだ。具体例として、高知県中芸地区の日本遺産「森林鉄道から日本一のゆずロードへ」では、かつての森林鉄道の隧道(トンネル)をカフェに変えてライブをやっている。活用することで保存が進んでいる。

ふたつめの誤解が「本物の文化は過去にしか存在しない」というものだ。小田原市等の日本遺産「箱根八里」に関連して小田原市ではまちあるきの産業観光が盛んに行われている。ここでは、「なりわい」がテーマとなって、今でも続いている梅干し屋さんや日本初の駅弁などに立ち寄り、まちを楽しむプログラムが提供されている。「Living Heritage」と呼ばれる、今でも生きている遺産が魅力となっている。

みっつめの誤解が「文化はただ守るもの」というものだ。そうではなく、再創造していくものである。たとえば、宇都宮市の日本遺産「地下迷宮の秘密を探る旅〜大谷石文化が息づくまち宇都宮〜」では、大谷石を切り出したあとにできた地下空間にレストランを開いた。ここに新たな食文化が生まれようとしている。ユネスコも近年、こうした文化創造の取り組みを重視して、「Creative City(創造都市)」というネットワークをつくっている。これからは、文化財保護と文化振興とを統合していくべきで、日本遺産がそのハブとなる。自治体の中で、文化財保護と文化振興が別々の部門で行われているようであれば、首長のリーダーシップによってぜひ連携してほしい。

さてここから、地域を創造的にしていく方法を考えたい。地域が保守的で変わらない場合どうすべきか。環境が変わると人は変わる。環境を変えていくことを提案したい。具体的には、新しい〈観客〉を設定することである。

人は、誰を〈観客〉にするかによって振る舞いが変わる。お天道様が見ていると言われれば、誰も見ていないところでも正しい行いをする。陶芸作家さんの〈観客〉は、目の前で器を買ってくれる人だけではない。過去から伝承してきた先人たちも〈観客〉であり、これからこの技術を受け継ぐ子どもたちもまた、〈観客〉である。〈観客〉の設定を変えると、産地全体のことを考えられるようになる。地域の未来を考えたとき、これからは世界が舞台だ。インバウンドの観光客は、産地を世界に開いていくための重要な〈観客〉のひとりなのだ。

遠くの〈観客〉を設定することによって、もうひとつ利点がある。九州アイランドプロジェクトという取り組みでは、九州をひとつの島と見立てて、県同士が対立しがちなこの地域をまとめている。海外からみればひとつの島であるという発見は、海外の〈観客〉を想定しないとでてこない。

国内的には離れた場所にある六古窯もまた、海外から見ればひとつの産地である。国内ではライバル関係にあっても、海外を意識すれば一緒に活動できる。日本遺産というのは、そうした海外の〈観客〉を意識することによって地域の協力関係を生み出す、連携促進の取り組みでもある。ぜひ、相互協力を進めてほしい。そこに六古窯の未来がある。


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