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体験を通じて金融を知る「銀行経営ゲーム」ー 事業を知る、社会を知る「ビジネス夜会」Vol.1

CONCEPT BASE Shibuyaがお送りする〜事業を知る、社会を知る「ビジネス夜会」。第一弾のテーマは『金融』です。新しい金融の姿を模索・提案している江上広行さんが開発した「エミーとゼニー銀行経営ゲーム」を通じて私たちが学んだのは、お金と社会のつながりでした。(文:片岡峰子/写真:小山龍介)

お金の旅を体験する!(超高速バージョン!)

「いつもは3時間でやるゲームなんです。それを半分の時間でやりますから、みなさんスピード感持ってやっていきましょう!」と始まった「エミーとゼニーの銀行経営ゲーム」。このゲームは「銀行は融資先をどう選ぶか」「集めた預金をどんなふうに社会で回しているか」まさに、お金は旅をしますが、それを体験してほしい、と開発者の江上さんは語ります。

さて、今回の参加者は17名。そのうち5名が銀行役、残りの12名が市民の役です。市民は、事業計画をつくり、銀行はどの事業にいくら融資するのかを決める、というのが大まかな段取りです。

どこに預ける? どこに融資する?

市民チームは、2人一組になり、会社を起こします。ここでの制約は2つ。「社長(名前と特徴つき)」カードと「テクノロジー」カード(VR, AI, 人工知能、シェアリングエコノミーなどなど)から1枚ずつひいて、どんなひとがどんな事業を作るのかを二人で考えます。

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この、社長がまたユニーク。スキャンダルで芸能界を引退したもとアイドルとか、プロスポーツ選手だったが怪我で引退を余儀なくされた若者とか、社会に貢献したい主婦、などなど…。ちなみに、私たちがひいたのは「イタコのレイコ」さんと「極小センサー」。一日1時間だけイタコができるレイコさん(28歳)が、極小センサーというテクノロジーを使って、どんな事業を展開するのか? 15分という限られた時間のなかで「会社名」と「事業計画」(しかも絵で!)を考えます。

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その間に、銀行チームは「わが行のポスター」をつくります。市民が持つひとり10億円の資産を預けてもらうため、魅力的な銀行づくりに工夫を凝らします。

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最初に銀行チームのプレゼン。そのプレゼンを聞いて、市民はそれぞれ自分の気に入った銀行に、大事なお金を預けます。そして、銀行はこの預金を元手に会社に融資する。ここでも、自分の預けたお金がだれかの事業のために使われるんだということを実感します。

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銀行に預け入れをしたら、いよいよ、事業プレゼン。今回は6社が応募します。おもしろいのは、デューデリジェンス(事業評価)を、われわれ市民もすることです。しかもスマホで! 市民の評価は融資には直接影響しませんが、5年後のその事業結果に影響を与えます。「収益性」「安全性」「社会貢献度」の3つの指標で評します。各社のプレゼンは2分以内。2分以内に、さきほど15分で完成させたプレゼンシートを使って「お金ください!」とアピール。どの銀行に融資してほしいかリクエストも出せます。

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銀行は、融資先と金額を決定し発表。融資のオファーがあったところには「なぜ融資しないか」理由も説明しなければなりません。もちろん、どこにも融資してもらえず倒産する会社も出現しました。(キビシイです!)

そして、事業を始めて5年後。その事業がどうなったかは、デューデリジェンスの結果+サイコロを振って決めます。(まさにゲームですね! 未来のことはだれにもわかりません)

超高速で実施したこともあり、かなり集中して(熱中して!)このゲームに取り組みました。

というのが、ゲームのながれなのですが、大事なのはここからです。

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預金をするとアフガニスタンの子どもが外で遊べなくなる?!

このゲームの開発者である江上さんは、「日本という国に、融資することで社会を変えていくような銀行を増やしたい」という熱い思いを持って、2018年、持続可能な社会を目指す金融機関の国際組織「GABV」に日本で初めて第一勧業信用組合が加盟することに大きく寄与し、同年、日本で「価値を大切にする金融実践者の会」(JPBV)も立ち上げました。

私たちがお金を預けた銀行が、どんなことにそのお金を使っているのか? 考えたことがあるでしょうか? 

お金を預けた銀行が、クラスター爆弾を製造する会社に融資していたら? 間接的に私たちは(現在もっとも残酷な武器ともいわれる、しかも不発弾もできやすい)クラスター爆弾をつくりだすことに貢献してしまっていることになります。Stop Explosive Investments Animation

私たちにもとても身近なポテトチップスを製造するために使う植物オイルは森林破壊を引き起こしています。日本のメガバンクはそこにも大量の融資をしています。

350Japan(350:市民の力で地球温暖化の解決を目指す国際環境NGO。188カ国で、一般市民が中心となり積極的な地球温暖化対策を求める国際的ムーブメント の構築を目指す。おもな活動 1) 化石燃料を掘り出さない 2) “お金の流れ”を変える 3) 脱炭素社会の構築)のサイトでは、どの銀行がどんなことにお金を回しているか見ることができます。https://world.350.org/ja/lets-divest-choose/

銀行が地域のエコシステムをつくる

ハンガリーのMagNet BANK(マグネット銀行)も紹介していただきました。(ぜひリンクをクリックしてみてください。え? ここが銀行???と目を疑います!)この銀行は、どの分野に自分の預金を使うかを預金者が決められる。のみならず、手数料や金利も預金者が決められる。利益が上がったらその一部を寄付に回したり、預金者の利息を「選べる寄付」という形で付与したり。そういう活動を続けるうちに、この銀行が中心となって地域コミュニティが循環するようになり、ここにエコシステムがつくられました。銀行はこんな明るい可能性を秘めた存在だったのです!

私たちとは切っても切れないお金。そのお金が地球上でどんな旅をしているのかを考えるとてもいいきっかけになりました。

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江上広行(えがみ ひろゆき)プロフィール

株式会社URUU 代表取締役
グロービス経営大学院 客員准教授
フィールド・フロー株式会社 取締役
JPBV「価値を大切にする金融実践者の会」代表会員
おかげさまお互いさま合同会社 執行社員

1967年石川県金沢市生まれ。1989年金沢大学経済学部卒業。地方銀行に入行、営業経験を経た後、融資部門にて信用調査、研修講師、業務設計、CRMシステムの開発等に従事。2007年より株式会社電通国際情報サービス。主に地域金融機関向けのビジネスモデル変革支援、人材育成、組織開発、情報システム構築などのコンサルティングを行う。2015年より、グロービス経営大学院の講師として組織開発やリーダーシップなどのクラスで教鞭をとる。2018年9月株式会社URUUを設立 代表取締役就任。

・利益よりも価値を大切にする金融の普及
・創発を生む組織対話のファシリテーション
・その人らしさを解放するリーダーシップ教育
・ワークショップ「エミー・ゼニーゲーム」
などの事業を営んでいる。

2018年12月 日本における持続可能な金融ビジネスモデルを実現することを目的に新田信行氏(第一勧業信用組合理事長)、渋谷健氏(フィールドフロー代表取締役)らとともに、JPBV「価値を大切にする金融実践者の会」を設立、代表会員に就任。

経済産業省 知的資産経営評価融資研究会委員(2009年)
経済産業省 ITクラウドを活用した経営支援基盤調査研究会委員(2013年)
経済産業省「地域レベルの産学連携機能強化に係る方法論に関する調査」検討委員(2017年)
中小企業診断士/ITCA認定ITコーディネータ

趣味はサッカー観戦。




未来のイノベーションを生み出す人に向けて、世界をInspireする人やできごとを取り上げてお届けしたいと思っています。 どうぞよろしくお願いします。