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繁田奈歩|インドにおけるデジタルトランスフォーメーションーネクストシリコンバレーとしてのインドの秘密【文末に動画あり】

PwCのレポートによれば、2050年のGDP予測のトップは中国。そういう未来に抗すべく、米中経済戦争が勃発しているのが現在です。が、2050年には、アメリカは世界で3位になっているんです。中国に気を取られているすきに、スッとアメリカを抜いていくもうひとつの国が、そうインドです。

21世紀の経済的覇権を握ると言われているインドで、今いったいどんなことが起こっているのか。インドでどんなイノベーションが起こっているのか。日本にいてはなかなか触れられない貴重な現地の情報を、『ネクストシリコンバレー』の共著者のひとりであり、小山龍介の高校の同級生でもあり、インドの市場について圧倒的な現地情報を知る繁田奈歩さんに解説いただきました。

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ネクストシリコンバレー 平戸慎太郎 (著), 繁田奈歩 (著),矢野圭一郎 (著), 
日経BP (2019/12/20)

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日本でも各地で再開発が起きているが、世界でも、もっとドラスティックに起きている。たとえば、インドの首都デリーから車で30分の町、グルガオン。上が2005年、下が2018年。15年ほどでこれだけの変化が起きている。インドでは、都市化がこれからどんどん進んでいく。

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2005年の時点で、だれも下の写真を想像してはいなかった。このようなドラスティックな変化は、その他の新興国でも起きている。

インドのマーケット

インドの人口は13億人。5年から10年で、中国を抜いて世界最大になるだろうと言われている。

一人あたりのGDPが3000ドルを超えると、自動車や家電などの耐久消費財が急速に普及すると言われるが、2018年度のインドのそれは2000ドル。この数字だけ見ると、インドはまだその段階にいっていないように見えるが、首都デリーやムンバイ、バンガロールなどの都市部とその近郊で見ると、5000ドルを超えている。人口の60〜65%が農村人口であり、国内の経済格差は大きい。2030年を試算してみると、5億人ほどのマーケットに成長すると見込まれる。

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インドが注目されるようになったきっかけのひとつは、2014年に就任したナレンドラ・モディ首相。いろいろな政策が打ち出されたが、たとえば「デジタルインディア」により社会基盤を整えたこと。アダールカードで約12億人が国民IDを取得し、指紋と網膜で個人認証を可能にした。これは社会インフラとして機能するだけでなく、個人の銀行口座へのアクセスも容易にした。また、政府オリジナルの決済システムをつくり、クレジットカードの手数料が国外に流れていかないようなしくみをつくった。

また、起業とそれによる雇用創出をめざす「スタートアップインディア」。そのためのインフラ開発、100都市のスマートシティ構想など、政府主導でデジタルを含めた未来や社会をつくることを積極的に推進している。

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イノベーションの4つのかたち

こういった状況の中、インドではさまざまなイノベーションが起きている。ひとつは、リバース・イノベーション。GEの事例が有名だが、医療機器の機能を削ぎ落として価格帯を下げることによりそれが新興国で普及する。それがまたアメリカでも売れるようになるというリバース型のモデル。

もうひとつはジュガールイノベーション。ジュガールというのはインド独特の考え方で、「有りもの」を工夫することで目標を達成させること。インドは91年に経済が開放されてようやく外からモノを入れられるようになった。それまでは、モノも入らなかったので、有りもので間に合わせるしかない。農業用水のためのポンプはあるが、エンジンがない。バイクはある。じゃあバイクのエンジンをポンプにつけて動力を確保する。通常こんな使い方はしないということを寄せ集めでもいいからつくる。われわれ日本人とはぜんぜん発想が違う。

そして、デジタル・トランスフォーメーション(DX)。日本のDXは、デジタルありきだが、インドの考え方は「デジタル、ITはツール」。UXも含めて、全部再設計することでそこにイノベーションが発生する。

4点目は、リープフロックイノベーション。最近インドでも起こりやすい状況だた、裏を返せば「何もなかった」ということ。インドでも2010年は2Gの時代。そこからスマホが出てきて、3G、そして4Gと変遷していくのだが、インドには3Gの期間がなく、4Gが普及した。インフラ、サービスを一気に飛び越えることが起きている。

IT先進国インド

2000年問題で、ソフトウェア産業がブレイクしたインド。いまインド国内に300万人以上のITエンジニアがいる。昨今の大学進学率から計算すると、毎年200万人のエンジニアのたまごが生まれることになる。数の規模としては世界最大級だが、このものすごい玉石混交の200万人から優れた人材を探すことになる。

世界の名だたる大企業がインド国内に研究開発拠点を持ち、その数は1000社を超える勢いだ。そこでは、インド市場向けのものだけではなく、新興国モデル、先進国モデルの研究開発も行われている。ゼロイチの新しい研究開発もなされており、ボッシュ(ドイツの自動車部品メーカー)は、ヨーロッパ向けの農業系のアプリケーション開発を行っている。インドは、英語を操る研究開発人材が多い、という点でも使われやすい国なのだ。

また、アメリカのシリコンバレーのスタートアップには必ずといっていいほど、インド人が働いている。シリコンバレーで新しい波が起きると、そこで働く大量のインド人と連携し、インドは情報やテクノロジーをキャッチアップして国内に普及させる。ほぼ地球の正反対にあるインドとアメリカだが、情報、技術の伝達スピードは日本以上に速いのが実態だ。

テクノロジーエコシステム

インドのIT業界は、1980年代からアウトソーシングでテクノロジーセンターが出来てきたのを発端に、91年経済開放を受けて、90年代後半(日本でもITベンチャーバブルのころ)IT業界系サービスが立ち上がってきた。さらに、2015年に急激にスマホが普及し、アプリを通じて受けられるサービスが増え、社会が変わった。

グローバル企業のCXOになっているインド人は多いが、彼らの年収は30〜50万ドル、100万ドルを超える人もいる。2000年代前半、どんどんエグジットしていった創業者たち、CXOが次世代の起業家への投資が起きている。経験も含め共有されていく、インド全体のテクノロジーエコシステムができつつある。

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注目されるデジタルトランスフォーメーション(DX)

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