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小山龍介のビジネスモデル講義

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『ビジネスモデル・ジェネレーション』翻訳者であり、ビジネススクールでビジネスモデルを教える小山龍介によるビジネスモデル講義をテキスト化しました。
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#ビジネスモデル

ビジネスモデル講義01:ビジネスモデル・イノベーションの必要性

まず、イノベーションの3つの様態、プロセス・イノベーション、プロダクト・イノベーション、ビジネスモデル・イノベーションについて整理しておこう。それぞれ、互いにオーバーラップする部分があり、ビジネスモデル・イノベーションは、プロセスレベル、プロダクトレベルのイノベーションを包含するものとして位置付けられる。それぞれのイノベーションの例や関連する戦略論を示しながら、解説してみたいと思う。 1. プロセス・イノベーションプロセス・イノベーションは、製品・サービスそのものではなく、

ビジネスモデル講義02:ビジネスの構造設計とストーリーテリング

ここで紹介するイヴ・ピニュール、アレックス・オスターワルダーのビジネスモデル・キャンバスは、いまやビジネスモデルを記述する標準的なツールとして広く認知、活用されている。しかし一方で、その本来とは違う使われ方をされることも多い。「ビジネスモデル・キャンバスは情報整理には使えるが、それ以上のものではない」という指摘は、その一例である。ビジネスモデル・キャンバスを紹介した『ビジネスモデル・ジェネレーション』の翻訳者として、ビジネスモデル・キャンバスを過大評価することを慎重に避けなが

ビジネスモデル講義03:ビジネスモデルと経営戦略

前回の記事でも紹介したように、ビジネスモデルは、経営戦略を策定するためのベースとなるものであると同時に、経営戦略を実際のビジネスプロセスへと結びつける橋渡し役を果たすものである。 ここでは、ビジネスモデルと経営戦略の関係について見ていこう。 1. 経営戦略の歴史的展開まず、三谷宏治『経営戦略全史』をもとに、経営戦略の歴史的展開を整理する。 まず、経営戦略はその起源を(1)テイラーの科学的管理法、(2)メイヨーの人間関係論的管理法にたどることができる。その後の経営戦略の

ビジネスモデル講義04:デザイン思考によるビジネスモデル創造

ビジネスモデル・キャンバスは、「キャンバス」という名前がつけられている。フレームワークではなく、絵を描くためのキャンバスと呼ぶのは、これが情報整理のためのツールではなく、新しいビジネスモデルを設計するためのクリエイティブツールであるという意図からである。実際、リーンスタートアップなどの新規事業開発という創造プロセスにおいて、ビジネスモデル・キャンバスはさまざまに活用されている。ここでは、デザイン思考におけるビジネスモデル・キャンバスの活用方法について紹介したい。 1. デザ

ビジネスモデル講義05:パタン・ランゲージとビジネスモデル・アーキタイプ

前回、デザイン思考を「個人的な創造プロセス」として捉え直すべきだという議論をした。個人の内省的な暗黙のプロセスにこそ、発見の秘密があると指摘した。 一方で、個人の暗黙的な思考のはたらきに閉じ込めてしまうのではなく、デザインを共創プロセスとして開いていくことも重要だ。デザイン思考の「共創のデザインプロセス」として今回触れたいのが、クリストファー・アレグザンダーによって提唱されたパタン・ランゲージである。 1. 生成のデザイン思考としてのパタン・ランゲージデザイン思考に関する

ビジネスモデル講義06:リーン・スタートアップとビジネスモデル・プロトタイピング

ここまで、デザイン思考について、 ・内省的なクリエイティブ・プロセス(ビジネスモデル講義04) ・パタン・ランゲージなどの生成的、集合知プロセス(ビジネスモデル講義05) の二つの側面から見てきた。ここではもうひとつの側面、プロトタイピングによる実証プロセスについて紹介してみたい。これはd.schoolの提示するデザイン思考の5つのプロセスのうち、プロトタイプとテストという、最後のふたつのプロセスにあたる。 1. 起業版デザイン思考としての顧客開発モデル机上の空論で終わ

ビジネスモデル講義07:競争優位を生み出すためのシステム・ダイナミクス

ビジネスモデルを設計する理由のひとつは、製品レベルにとどまらない持続的競争優位を構築するためである。そして前回のリーン・スタートアップの議論からつなげれば、成長のエンジンを組み込んでいくためのものである。今回は、この競争優位とビジネスモデル、さらには事業の成長性とビジネスモデルの関連性にスポット当てて議論していきたい。 1. 競争優位の5つの階層この競争優位について、一橋大学・楠木建教授は次の5つの階層を設定している。この5つの階層をたよりに議論を展開していこう。 出典 

ビジネスモデル講義08:クリティカル・コアによる競争優位とバイアスの壊し方

競争優位の階層の最上位に位置するのが、クリティカル・コアである。このクリティカル・コアとは、一見非合理であるがゆえに他社が真似したいと思わない要素であり、それがゆえに長期的な競争優位へとつながる要素である。 出典 『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建著) 1. 一見不合理であるがゆえに模倣されない競争優位このクリティカル・コアは一見非合理に見える。そのため、普通の賢者には思いつかないし、それを模倣しようという気にもさせない。しかし、全体としては合理的な判断となる、思いも