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地下鉄で他人のゲロを拭いた話

吐瀉物の話をします。
苦手な方は読まないでください。

7〜8年前だったと思う。

大阪での一人暮らしを謳歌していた頃
仕事終わりに演劇仲間とベロベロに呑んだ帰りに、最終近い御堂筋で帰宅途中
はっきりしない頭で電車に揺られていた。

すぐ近くに50代くらいの3人組がいて、ひとりのおばさんを残して友人であろう男女が下車して行った。
おばさんはひと席空いた席に座る。
私の隣の席だった。

電車が発車してややもすると、おばさんはダイナミックに嘔吐した。

一瞬にしてたちこめる独特の匂い。
通路に飛び散った吐瀉物。

同じ車両の人々は蜘蛛の子を散らすように他の車両に移って行った。
私も「げっ!」と思いながら席を立つ。

おばさんはその後もこまめに吐きながら
「すいません。すいません。」と言いながら自身のハンカチだったかティッシュだったかでなんとかその場を収めようとしていた。

次の駅に着いて、乗り込もうとした人たちは何か言いながら別の車両に避けていく。
そりゃそうだ。

なんでそんなことをしようと思ったのか。
わたしも酔っ払っていたからか。
そのおばさんの顔がなんとなく、生まれた時からお向かいに住んでるオバチャンに似ていたから、というのが理由の大部分を占めるのだけど、気がつくとそのおばさんの吐瀉物を私も一緒に拭いていた。

おばさんは恐縮して
「すみません。すみません。」を繰り返していた。
私は酔っ払って朦朧とする頭で、新しいティッシュでおばさんの口元の髪の毛についたゲロを拭いた。
お向かいのオバチャンは私が幾つになっても
「くみちゃんちいさいころオバチャンが抱っこしたらオバチャンのおっぱい吸ってたよ」
と顔を見るたびに言ってくる。

そんなオバチャンをおもいながら知らないおばさんのゲロを拭いた。
無心で拭いた。

ひとりの綺麗なお姉さんが
「使ってください」
と、自分のハンカチを渡して去って行った。
また別のサラリーマン風の男性はポケットティッシュを。
また別の人が自分のハンカチを。ビニール袋を。

気がつくと私はおばさんとおばさんのゲロと他人の数枚のハンカチとたしかチュチュアンナのビニール袋をを一手に引き受けていた。

「あとやりますんで」
と男性の声に我に返ると、駅員さんが後ろに立っていた。

わたしは手渡された数枚のハンカチをもってその場を離れた。

その後家に帰って、知らない人からもらった知らない人たちのハンカチを一度は洗ってみたものの、なんとなく変な感じがしたので全部捨てた。

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