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初めての野球観戦

今年の3月の初旬、仕事を終えて家に帰ると母がテレビにはりついていた。

「大谷くんが投げるよ!」

と嬉しそうに言った母は決して野球ファンという訳ではなく。
しかしなぜかテレビで見られるスポーツ観戦には敏感で、深夜にサッカーの試合を連日見ていたり、フィギュアスケートの大会もチェックしており、アメフトの試合も「さっぱりルールが分からん」と言いながら見ている。

わたしはそれまでテレビで野球の試合を最初から最後まで見たことが無く。
野球といえば幼少期にだいすきなアニメやバラエティ番組が延長戦で遅れたり削られたり。
セットした録画予約がパーになったりするどちらかというと迷惑なものだった。

大谷選手についてもなにがどうすごいのかはさっぱりわからないけどとにかくものすごい選手らしい。という程度の知識で。

カフェにやってくるおじさんに至っては大谷選手の活躍だけが人生の楽しみだと言っていた。
そのおじさんが言うには、
「大谷くんは未来からやってきた宇宙人で、これから起こることを全部知っててやってるに違いない。でなければ彼の偉業は説明がつかない。」とのこと。

そんな大谷選手が投げるというなら、ここはひとつ見てみよう。

小学生の頃にスポーツクラブでソフトボールをやっていたので大体のルールはわかる。

見始めてまず、大谷選手の体格にビビる。

でかい。
のに、頭が小さい。
キャプテン翼にこんな人いなかったっけ。

そして野球がとんでもない心理戦であるこも知る。

ただバッターに打たれない速いボールを投げれば良いわけではない。
(もちろん速いに越した事はないんだろうけど。)
緩急をつけながらバッターの打ちにくい位置や、つい打ってしまう位置に球を投げる。
そしてなんとボールは落ちるし曲がるらしいじゃないか。
そんなボールにバッターは一体どうやってバットを当ててるんだ。

そしてそれまで全く知らなかった選手たちの人並み外れた能力と個性に驚いた。

大谷選手だけが凄いわけじゃない。
色々な球団から集められた、とんでもなく野球の上手い人たちを目の当たりにして晩ご飯を食べながらわたしはすっかり夢中になった。

母はというと、5回の表くらいでお風呂に行ってしまった。
曰く「長すぎる」とのこと。
サッカーの方が長いんじゃないの?

結局母は連日試合開始時刻にはきちんとテレビの前にスタンバイし、必ず5回か6回あたりでお風呂に行ってしまうのだった。

わたしは毎日夢中で試合を見て、見れない時は逐一Twitterで状況を確認し、カフェにやってくるおじい達と勝利を喜び、決勝戦はカフェ営業中にアマプラで見て感動の涙を流した。

そして大谷選手は本当に未来からやって来た宇宙人なんじゃないかと私も思った。

そんな大変感動した旨を大谷宇宙人説を唱えるおじさんに報告すると

「それで、今後はどうするんですか?野球との関わり方は。」

確かに。

どんなジャンルであれ、「無料で楽しませてもらったものに対しては何らかのカタチでお金を払う」
というのを自分へのルールにしているので

「そうですねぇ、一回試合を観に行ってみようと思います」
と思いつきで言ってみた。

おじさんは全く興味のない顔で
「野球はテレビで見るのが一番いいですよ」
と言った。

野球がどこでいつどのように行われているのかもわからないまま、わたしの友人の中で野球ファンの、比較的フットワークの軽そうな一人に相談したところ、あれよあれよとチケットを手配してくれた。
阪神ファンの彼女なので、阪神vs巨人戦のチケットを取ってもらった。
彼女は東京在住にも関わらずわたしを甲子園に連れてってくれた。

当日はやはりなんとなく黄色いTシャツを着て行った。梅田に集合し、阪神電車の乗り場に向かう。

どの電車が先発か分からなかったのだけど、明らかに甲子園に向かう阪神ファンの出立のおじさまを見つけてあの人に着いて行ったら間違いないだろう、ということで一緒の電車にのる。

電車の中で簡単に友人からレクチャーを受ける。
なんせ試合は長いから、ずっと見ていなくてもいいとのこと。
食べ物や飲み物のお店がたくさんあるので、お腹が空いたら好きに出入りをしたらいいそうな。
そしてもしかしたらWBCほど面白い試合にはならないかもしれない。ということ。

さて、甲子園の最寄駅について改札を出ると
なんだここは!
ディズニーランドじゃないか!!

たくさんの人が目指すゲート。
ショップにはお店の外まで長蛇の列。

みんな自分のお気に入りの黄色やトラのモチーフのものを身につけている。

この一体感、高揚感、かなり楽しい。

席の最寄りのゲートで荷物チェックを受け、かなりバックヤード感のあふれる円い通路をすすむと、目の前に広がる絶景。

ドームはいつも音楽ライブでしか行ったことがないので、球場を球場として使っているところを見るのは初めてで。
当たり前だけれどもステージの一画にいるアーティストを見るよりずっと臨場感があって見やすい。
試合開始前の練習が行われていた。プロの野球選手のキャッチボールはそれは見事に球が飛ぶ。

グラウンド整備の方々がホースで砂を湿らせる作業は職人技で見ていてとても美しい。

ビスケットブラザーズが仕事してる。

少し前に亡くなられた選手の追悼セレモニー
国歌斉唱

始球式って案外あっさり進んでいくのね。
そしてプレイボール。

三塁側の席から見ると、ピッチャーのボールが全部ストライクに見える。
審判の動きに注目しながら一喜一憂する。

それぞれの選手の応援歌が掲示板に出されるので、知らないながらも雰囲気で歌う。
「この選手だけなぜかツーコーラス分歌詞があるねん」という豆知識も教えてくれる。

前の席では友人同士のご夫婦のようなグループが、その日もらえた阪神のユニホーム、自前の帽子や応援グッズを持ちながら551のを食べている。
すごく大阪を感じた。

日が落ちてくるとサラリーマンの観客が増えてくる。
席も埋まり始める。
まだ明るいうちから来ていて、わたしの真ん前に座っていたおじさんは撮り鉄、ならぬ……
なんだ?
撮り野球??
立派なレンズのついたカメラで選手や選手を運んでくる乗り物を撮っている。

私と友人はたまに売店をうろつきながら試合を見る。
売店ではおそらく地元の学生さんのような若者が働いている。
試合シーズンだけここで働くのだろうか。
モタモタ歩いていると、ビールのサーバーを背負った女の子に抜かされる。
かなり重いのだろう、みんなちょっと前傾姿勢でとんでもなく汗をかき、急ぎ足で歩いて行く。
売り子さんたちは髪の毛や帽子にみんなそれぞれのマスコットをつけて特徴をだしている。
お客さんに
「あのクロミちゃんのマスコットの子」と認識してもらうんだろう。

試合は阪神リードで進む。
友人の持ってきたプラスチックの小さいバットを借りて鳴らしながら応援する。
鳴らすタイミングを時々間違える。

真後ろの男性(おそらく)四人組は、みんなサラリーマンでマイホームも持っていて子どもよいて、仕事や家族の近況をずっと話しながら試合を見ている。
贔屓の売り子さんを何度も捕まえてビールを買っていた。

私と友人は政治と選挙とフェミニズムについて語るのが好きだ。
なので今回も野球を見ながら差別や偏見について話す。
甲子園ではいまだに女子がグラウンドに入れないんだったかな。

そして6回表、うちのお母さんだったらもうお風呂に入ってしまっている頃
大山選手のホームランが放たれた。

瞬間、大歓声が周囲から湧き起こる。

そのとき、撮り野球おじさんが私の方を振り返り、両手のひらをこちらに向けている

………???

あ!!!!

ハイタッチだ!!!!!

はっ!という顔をしておじさんとハイタッチをする。
「初対面の人とハイタッチしちゃった…‼︎‼︎」と驚いていると友人は既に前の前の列の席のお兄さんとハイタッチ、さらに真後ろの四人組マイホームサラリーマンたちともハイタッチしていた。
こんな文化知らなかった。
わたしも!と思いマイホームパパ達の方に振り返ったときにはタイミングが悪くゴチャついてハイタッチチャンスを逃してしまった。
何事もなかったように体勢を戻す。

しかしなんだ今の、瞬発力と連帯感は。
こんなの普通に生きてて体験するなんて思わなかった。
大歓声と、観客が思わず立ち上がる躍動感にちょっと感動して泣きそうになる。

その後も点が入ると前のおじさんとハイタッチをし、私は毎回後ろの席の人とのハイタッチに失敗していた。
これはたぶん今日はもう無理なんだろう。

試合は阪神の勝ちで終わり、インタビューなどが行われている間に前のカメラおじさんが帰っていく。
こちらに丁寧に「お疲れ様でした!」と挨拶をしてくれた。

私たちも帰ろうと席を立つと、後ろのお兄さんたちも、前の前のファンキーなお兄さんからも「お疲れ様でした!!!」とめちゃくちゃハツラツとご挨拶された。

結果として試合内容も大変面白く、初めての観戦にしては贅沢なものだった。
球場の雰囲気が本当に面白かった。

友人に大満足の感謝を伝えると
「点の入る試合で本当に良かった」
と安堵した様子だった。

友人はわたしの初めての野球観戦が、一点も入らないとんでもなく面白く無い試合だったらどうしよう。と心配してくれていたのだろう。

お客さんたちの情の熱さは、大阪ならではのものなのだろうか。
今日来たばっかりのにわかファンの私を、あんなにも暖かく迎えてくれた。
しかし三振したバッターに対するヤジはちょっと怖かった。

野球観戦、とても楽しかった。
カフェの大谷選手だいすきおじさんにも早く話したい。
生でみる野球がとても面白かったことと、ハイタッチのことを。
おじさん同士もハイタッチするのかな?

野球観戦といえばこの構図
初めての阪神グッズ!

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