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種をまく人 半田滋男 和光大学教授 2018.9.1-9.22 @eitoeiko

 絶滅危惧種をリストする環境省のレッドリストによれば、目下日本では3,600種以上が絶滅の危機に瀕しているという。その主な原因は、さまざまな方法によって移入してきた外来種が、従来の生態系に与えた影響と、種の攪乱によるとされる。
 20世紀後半以降移入し、生態系に影響を及ぼしているミシシッピアカミミガメ、アライグマ、ヒアリのような外来種も存在するが、太古の昔に移入してきて、最早環境に同化しているが、我々の知り得ぬ昔には、かつて存在していた在来種を駆逐したであろう種も存在するだろう。それらも長い時間の経過の結果、既に存在はは許容されている。また一方で、致し方ないとはいえども、衛生害虫として人為的に絶滅に瀕させられている種も存在する。
 遺伝子の強靱さを以て優秀な種とするならば、新たな環境に容易に適応する外来種は優秀な種であると言うことになろうが、種の多様性をよしとする立場から見れば、偶発的または人為的な原因によって外来した種は排除すべきである。一体、何が善であり何が悪であるのか、だが、所詮、殆どの生物による所業などとは比較にならぬほど数多の天然資源を既に喰い尽くさんとしつつある種である人類の立場からの判断規準である。宇宙の下位にある銀河系の更に下位にある太陽系の極一部である地球の生態系にとって、我々の行う蚕食が、徐々にではあるが如何なる変化をもたらしつつあるのか、それこそ進化か攪乱か、考えようとする者など通常はまずはいないだろう。
 そして、その外来種に端を発する関する議論は、人類にとっての問題へと引き寄せれば、実は即ち大航海時代以来のグローバリズムの思考と、紀元前に老子の唱えた小国寡民の思想とを対比しつつその優劣を論じることにも通ずることだろう。
 グローバリゼーションは、物理的豊かさをもたらす一方で局所的文化を衰退させ、一方の定常経済を目指す思考は老荘の理想主義、知足の精神を前提とする。
 安田早苗が、言語化することを得ず、釈然とすることを得ぬまま取り組んでいる問題は、どうもこの周辺にあるように感じる。作家活動の初期には、床上に通路状に敷き詰めたバラの生花の上を踏み歩くことを指示する「Trumple on me」を発表し、禁忌を犯す感触を伴う観客参加を要求していた。その後、主催してきた「種まくプロジェクト」では、薬の錠剤と、シールが封入された封書を送付し、感想を受け取るメールアートから発展し、紙風船に種を取り付けて飛ばし、偶然拾った人がその種を育てて絵や写真などの作品にし、返送して貰った「作品」を記録、出版、映像化するというプロジェクトであった。
 このプロジェクトは5年間限定でおこなわれ、「芽が出るプロジェクト」というかたちでより教育な方向へ変化した。物質的な発信活動から、講座、ワークショップなど、より芸術自体の機能に関する内省的な内容へと遷移している。影響を及ぼし合うこと、そして個の形成と確保、この展覧会では、作者の思索の過程、その現時点までの部分が呈示される。

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