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金がない方が死ぬ

年収1000万円を超えると、悩みの半分は消える。それは学年トップクラスに貧乏な家庭環境で高校まで過ごし、医師になった私の実感だ。

金がない人の苦しみは、金に困っていない人の想像を超える。毎日、体に悪そうな物を食べ、みすぼらしい服を着て、安い酒や他人のゴシップなど、自分の痛みや苦しみを一時忘れさせてくれるジャンクな娯楽でしのぐようになる。楽しみの選択肢は大きく制限され、旅行や飲み会や異性との交流は難しくなる。健康や清潔さ、最低限の社会的な体裁を保つのが難しくなる。今を生きるのに必死で、自分の将来に投資する余裕などなくなる。先が見えない暮らしの中で、心も体も摩耗し、人を堕落させていくこの世界の重力に抗う力を失っていく。視野は狭窄し、誇りを保つことも難しく、やがて余裕を失い、セルフネグレクトに至り、他人への攻撃性が増幅する。不潔で、卑しく、愚かで、醜悪な存在へ近づいていき、周囲の人々にはバカにされ、疎まれ、無視されるようになる。貧困と孤独はセットで訪れる。

金のある人は、好きなものを毎日食べて生きている。美味しかったり、体に良さそうなものを食べて暮らしている。着たい服を着ているし、便利で格好よく素敵な物に囲まれて快適に生きている。高級ブランドで身を固めることもできるし、簡単に手に入るとわかっていると、物欲もあまりなくなってくる。旅行や外食や遊びに行くのを、金のせいで諦めることは減る。そして、自分が関わる相手を選べる。容姿のいい人、教養のある人、センスのある人、知性や品性や道徳心に富んだ魅力的な人々に出会う可能性は増える。嫌なやつ、面倒くさい人、退屈な人間との関わりを断ってもあまり困らない。なんといっても、生活に困ることがないのだから。そんなわけで、心はいつも安らいでいる。生きていく上での悩みはあるが、金に困る状況で同じ悩みを悩むのとはわけが違う。余裕があり、楽しみもあり、取れる選択肢も多いからだ。

国家レベルでも、調べてみて分かるのは、「国に金がないと人は沢山死ぬ」ということだ。わかりやすいところでは、新型コロナウイルスのワクチンは富裕な先進国が買い占めているから、金のない国の国民は大量にCOVID-19で死ぬ。失業率が増加すれば、自殺率も増加する。公衆衛生にかけるお金がない国では、結核などの感染症が蔓延し、乳児死亡率が高い。国の経済力がないと、数千人、数万人、それ以上の規模で人は死ぬ。厳しい環境をなんとか生き抜いた人たちも、死亡者の数万倍以上の人々が不幸な目に遭っている。貧困が極まってくると、犯罪に手を染めたり、売春したり、臓器を売ったりする。屈辱と徒労感と絶望の地獄にいる人の比率は、国の経済力で決まるのだと思う。

何が言いたいかというと、コロナ禍よりも経済禍。北海道や東京などで緊急事態宣言の6月20日までの延長が決定され、オリンピック中止を叫ぶ人たちの声が大きいが、経済を動かさないと、コロナの数千倍以上の人が死にまくり、不幸になるということに、多くの人に気づいてほしい。金に困ったら、マジで人は死ぬから。それが貧困家庭サバイバーであり現役精神科医である私からのメッセージである。

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