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ラハイナの水:マウイの山火事と災害資本主義をめぐる点描 【若林恵|深夜特報#01】

マウイ島で起きた山火事についての情報は錯綜している。錯綜しているのは、情報が少なく断片的だからだ。多種多様なニュースをソーシャルメディアで眺めながら、点と点をつないで線にしてみる。そうやってわたしたちは、この惨事の全貌を透かし見ようとする。錯綜しているのは、わたしたちが情報をつなぎあわせてつくりだした線だ。

2023年8月11日、ハワイ州ラハイナで、山火事で破壊された車が駐車場に放置されている。
Photo by Justin Sullivan/Getty Images


山火事の原因は不明だ。行方不明者は1000人を超えるとされるが、死者の数は今日の段階では100人強とされる。非常用の警報サイレンは鳴らなかった。消火のための水も出なかった。ハリケーンが近づいていたため学校は休みとなった。早退して家に帰ったとされる子供たちが、その後どうなったのかはほとんど語られない。

山火事だと言うが、ニュースが伝えるのは焼けただれた市街地の姿だ。爆撃にでもあったような無残な通りに横たわる焼けこげた車列。溶け出したホイール。これらの車のなかにいた人たちは、どうなったのか。そのなかで亡くなったのか、それとも生き延びることができたのか。海のなかへと避難した人たちは、数時間経ってから救助された。救助された人は、周囲に少なからぬ死体が漂っていたと語る。

出火から10日を経た8月18日、マウイ郡の危機管理責任者が辞任した。ハワイ州知事ジョシュ・グリーンは、当初サイレンは壊れていて鳴らなかったと語ったが、のちにそれが事実でなかったことが発覚する。責任者は、あえて鳴らさなかったのだという。「サイレンは津波の警報として使うもの」というのが彼の言い分だが、行政府のウェブサイトには山火事の場合でも鳴らされることが明記されている。張り詰めた記者会見の席で、記者にサイレンを鳴らさなかったことを悔いているかと問われ、彼は「I do not」と答えた。辞任の理由は「健康上の都合」だった。


繰り返される陰謀論

火災が鎮静化したとされる8月11日の前日の8月10日、オンライン書店のAmazonで『Fire and Fury: The Story of 2023Maui Fire and its Implication for Climate Change』と題されたルポルタージュが発売された。買ってみると、すぐ手元に届いた。山火事のあらましを報告した80ページほどのプリント版の書籍には、発売日と同じ日の8月10日の出来事が、その場で見てきたかのように報告されている。出版社名はなく、著者名を検索すると「Dr. Miles Stones」は今年に入ってすでに17冊もの本を刊行しているという。この原稿を書くためにAmazonのリンクを開こうとしたら、販売ページはすでになくなっていた。


「DEW」ということばもソーシャルメディアでよく見かける。「Directed Energy Weapon」(指向性エネルギー兵器)の頭文字をとったこのことばを含む投稿のほとんどは、火災の原因がレーザー光線を用いた兵器によるものではないかと疑っている。山火事とは思えない破壊の痕跡。豪邸や教会を避け、一般の民家や庶民の生活空間だけを狙いすましたかのようにまだらな被害。本当に山火事の仕業なのかと疑う声は後を絶たない。

DEWは実在する兵器だ。無人ドローンをこの兵器が音もなく撃墜するロッキードマーティン社のデモンストレーション映像をYouTubeで見ることができる。アメリカ国防総省は年間10億ドルの予算をこの兵器の開発に投じている。主流メディアは、火災の原因がDEWではないかと主張する投稿群をニュースとして取り上げ、「陰謀論」「偽情報」として一蹴、もしくは丁寧に反証している。

山火事とDEWが重ねて論じられるのは、実は今回が初めてではない。2018年にカリフォルニアで山火事が起きた際にも同じ「陰謀論」が拡散している。周辺の木は焼けず、家だけがピンポイントで焼けている当時の写真が、今回改めて出回っている


カリフォルニアの火災をめぐる情報のなかで言及されマウイ島の山火事で再浮上したのは「DEW」だけではない。アメリカを代表するTVパーソナリティ、オプラ・ウィンフリーの名もまたマウイの火災で言及されている。カリフォルニアの火災現場の近隣に別荘を構えていたウィンフリーは、今年に入ってマウイ島で870エーカーの土地を660万ドルで購入したとされる。そして、どちらの別荘も火災の被害を被ることはなかった。

マウイ島には、ハリウッド、テック界、音楽界の多く著名人が別荘を保有している。ウィル・スミス、クリント・イーストウッド、オーウェン・ウィルソン、ジェフ・ベゾス、レディ・ガガ、スティーブン・タイラー、ミック・フリートウッドなどが、そうしたマウイ・セレブとして数えあげられている。オラクルの共同創業者ラリー・エリソンは、マウイ島に隣接するラナイ島の98%を保有しているとされる。彼らの別荘も、火災の被害を被ることはなかった。


マウイ島に関する芸能トリビアは、おそらく山火事とは関係がない。けれども、そこに向けて線を引きたくなる情報が出回っている。家を焼け出された被災者たちのもとに、次から次へと不動産屋・開発業者から電話がかかってきているという情報だ。「土地を売れ」というのが電話の要件だという。


ラハイナである理由

山火事の被害が最も甚大だったのはラハイナという町だ。小説家の片岡義男の祖父が移民として最初に移り住んだのが、この町だった。片岡義男は小説やエッセイの舞台として、何度もこの町を描いている。「フロント・ストリートから一本裏に入ると、ここはどこの田舎だろうかと思うような光景だ」。片岡は小説『ラハイナまで来た理由』に、そう書いている。

ハワイ王国の首都でもあった町は、豊かな水と緑にあふれ、かつて「太平洋のベニス」と謳われた。それが19世紀に植民地化され、サトウキビ・プランテーションと捕鯨基地へと様変わりする。片岡の祖父は、この地で、砂糖きびプランテーションの水門を管理する仕事を任されていた。

僕の祖父は山口県から働きにきたラハイナで、砂糖きび畑の水を管理する仕事をしていた。砂糖きび畑は水を大量に必要とする。貯水池に溜めておく山からの水を水路に配分して流し、畑ぜんたいにいきわたらせなければならない。
 古くからの地元の人たちにラハイナ・パンプと呼ばれている、もっとも重要な水門が祖父の仕事の中心だった。

片岡義男『ラハイナまで来た理由』

ラハイナは王国時代からのネイティブ・ハワイアンとプランテーションで働くために移住した移民が、長いこと慎ましやかに暮らしてきた土地だ。山火事以後の報道でも、この町にはハワイの豊かな伝統と文化がいまなお根強く残ると語られる。かつて首都が置かれた島の一等地。ただし、いまは決して裕福ではない。

ワシントン・ポストは、ラハイナの物価高について報じている。とりわけ住居費の高騰は、山火事の以前から地元住民の暮らしを圧迫してきたという。「ハワイの生活費は全米きっての高さだ。4人家族で93,000ドル(約1350万円)以下の世帯年収は低所得とみなされる。マウイ郡は全米で最も家賃の負担が大きい地域のひとつだ。半数以上の賃借人が収入の30%以上を住宅に費やしている。ラハイナ周辺では、住民の約半数が賃貸住宅に暮らしている」。

ハワイ州やマウイ郡政府は現在セレブに人気のマウイ島のさらなる価値向上に積極的に取り組んでいる。2030年にマウイ島をスマートアイランド化する「JUMPStartMaui」という計画が進められている。マウイ・エレクトリック社といった地元企業と日本企業のジョイントプロジェクトであるこの計画には、日立製作所、みずほ銀行、日産自動車、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが参加している。

1932年、ハワイ州マウイ島。マウイ島ラハイナの畑でサトウキビの束を運ぶ日本人女性。
Photo by Bettmann/Getty Images


プランテーション災害資本主義

以前からすでに問題視されていたマウイ島のジェントリフィケーションへの懸念が、山火事によって改めて注目されている。強い懸念を表明した著名人のなかにナオミ・クラインがいる。「ショックドクトリン」「災害資本主義」の概念を世に問い、災害資本主義の実態をニューオリンズやプエルトリコのハリケーン災害において描いてきたクラインは、8月15日、ソーシャルメディア上に、マウイ島の被災者たちが開発業者に土地を売るよう迫られていることを報じたニュースにかぶせてこう投稿した

マウイに暮らす人たちから、同じ話を繰り返し聞いています。絶望に打ちひしがれている人びとが餌食にされています。先祖代々暮らしてきた家を離れることを人びとは望んではいません。被災者に必要なのは、その土地に残り、再起するための資源です。

クラインは次いで、マウイの開発をめぐる歴史を綴った長文のレポートを、カ・フリ・アオ・ネイティブ・ハワイアン・ロー・センターのカプアアラ・スプロートと共同執筆した。8月17日に英紙ガーディアンのウェブサイトに公開された記事は、「マウイに消火用の水がなかったのはなぜか?」と題されている。

災害資本主義は、ある集団が極度のトラウマに直面している隙を狙って、少数のエリートに利益をもたらす不人気な法案を迅速に押し通すというよく知られた戦術だが、これは残酷な力学の上に成り立っている。マウイ島出身の先住民ジャーナリスト、リー・カタルーナが最近報告している通り、災害の最前線にいる人びとは当然ながら「生き残ること」にかかりっきりだ。「情報やサービスを行き渡らせる。指示。救援。ガソリンを入れるならここへ。このリストにご主人の名前があるかどうか確認してください」。被災者は強引な地上げや政治的裏取引に関わっている余裕はない。であればこそこの戦術は首尾良く成功を収める。

災害資本主義は土地土地の文脈に従ってさまざまな形をとる。2005年のハリケーン・カトリーナによって被災したニューオーリンズでは、公立学校が特別認可を受けたチャータースクールに置き換えられ、高級住宅地に通じる道路を整備するために公営住宅をブルドーザーで破壊するといった動きがたちどころに現れた。2017年のハリケーン・マリア被災後のプエルトリコでもニューオリンズ同様、公立学校は窮地に追い込まれ、嵐が上陸する前から電力網の民営化が推進された。2004年に津波被害を被ったタイとスリランカでは、小規模な漁師や農家が管理していた貴重な海岸沿いの土地が不動産開発業者に接収され、居住者たちは避難キャンプに押し込められた。

ネイティブ・ハワイアンのなかには、自分たちの身に起きていることを「プランテーション災害資本主義」と呼ぶ人がいる。火災ですべてを失ったラハイナの住民に電話をかけ、公的補償を待つよりも先祖代々の土地を売るよう勧める不動産業者に見られる、新植民地主義と気候変動利益誘導の今どきの形態だ。しかしこの一見現代的に見える戦術は、入植者による植民地時代から長く続いてきた資源搾取をめぐる策略の歴史のなかに位置づけることのできる、昔ながらの戦術でもある。そして、ネイティブ・ハワイアンはそれと戦ってきた長い経験をもつ。


水をめぐる闘い

ナオミ・クラインとカプアアラ・スプロートが語るマウイの闘争の歴史の中心には「水」がある。「砂糖きび畑は水を大量に必要とする。貯水池に溜めておく山からの水を水路に配分して流し、畑ぜんたいにいきわたらせなければならない」。奇しくも、片岡義男の祖父が従事していた「水の分配」こそが争点となってきた。

近代的なプランテーション経済は、とりわけ水に甚大な被害をもたらし、かつての生態系から天然の水分を奪った。かつて太平洋のベニスと謳われたラハイナは乾燥した砂漠へと変容し、火災に脆弱な土地となった。プランテーションのための井戸は、ハワイ王国の玉座が置かれたモクウラの、少なくとも15エーカーはあったモクヒニアの淡水養魚池を干上がらせた。プランテーションは1900年代初頭にモクヒニアを土で埋めたて、かつての聖地の上には野球場と駐車場がつくられた。

プランテーションのほとんどが閉鎖されたあとも、搾取的な水資源インフラがもたらす力学は残った。今日、太古の昔からマウイ・コモハナに暮らしてきた多くのネイティブ・ハワイアンのコミュニティは、飲料水、洗濯、伝統的な農作物を育てるための灌漑といった生活の基盤として必要な水へのアクセスを断たれている。ローレン・パラキコは何世紀にもわたってカウアウラに居住してきた一族の出身だ。法律上の優先的水利権を保有しているが、2022年に州の水資源委員会(Water Commision)の公聴会で、十分な水が家に届かないため、バケツで赤ん坊を風呂に入れなければならないと証言した。彼女の一族が暮らしてきた谷を流れていた小川の水が、かつてプランテーションが管理していた土地に建てられた高級分譲地へと迂回させられてしまったからだ。

水資源をめぐる19世紀以来の搾取的構造に抗うべく、マウイでは数十年にわたって闘争が続けられてきた。クラインは、その軌跡をこう後づける。

ハワイ州憲法、水道法、ハワイ州最高裁判所の判例など、ハワイの法律で最も保護されているはずの水利権を主張するために、数多くの組織がネイティブ・ハワイアンのコミュニティにおいてつくられた。マウイ島コモハナ全域のネイティブ・ハワイアンは、正義を修復すべく30年近くにわたって弁護士と連携してきた。最近では、テレアリイイのようなプロボノ弁護士たちや、ハワイ大学リチャードソン・ロースクールのカ・フリ・アオ・センター・フォー・エクセレンス・イン・ネイティブ・ハワイアン・ローの学生たちとも協働している。

こうしたコミュニティ組織は、軽々しく扱われたきた水資源の用途を監視するためではなく、自分たちの水を自分たちで管理する権利を求めて戦ってきた。2022年6月、歴史的な勝利がもたらされた。ネイティブ・ハワイアンとその他の住民の圧倒的な要求を聞き入れ、水資源委員会は全会一致でマウイ島西部を地表水・地下水管理区域に指定した。ハワイの水道法に基づき、この指定はプランテーションや開発業者による歴史的かつ継続的な水資源の濫開発に対して、ネイティブ・ハワイアンの権利と環境を優先的に保護する権限を委員会に与えた。

産業界からの反発が予想されていたにもかかわらず、長い闘争の末、コミュニティと水道委員会は勝利した。1世紀以上にわたって奪われてきた水の公的管理を回復するというコミュニティの念願は、新しい認可制度へと結実した。パラキコ一家をはじめ多くの人びとが、赤ん坊の沐浴のための水、家庭で必要な水、湿地農業に使う水の利用認可申請をはじめた。

しかし、残酷で皮肉な事態が待ち受けていた。水資源委員会への許可申請の提出期限は8月7日月曜日だった。ラハイナを焼き尽くした火災は、まさにその翌日に発生した。


政治化する論争

火災発生後に起きたことによって、マウイの人びとが達成した悲願は一瞬にして無に帰した。レポートはこう伝える。

ハワイ州知事は「緊急事態に対応するために必要な範囲で、ハワイの州水道法を含む一連の法律を一時停止する」という非常事態宣言をすぐさま発動した。プランテーションの後継者たちは、非常事態宣言の前に阻止できなかった認可手続きを無効化すべく行動に出た。火災発生から数日後、マウイの不動産開発業者ウェスト・マウイ・ランド社(WML)は水資源委員会に対して、マウイ島コモハナ全域の小川(たとえ火災が発生していない地域であっても)の保護の一時停止を要求し、壊滅的な火災の責任は水資源委員会の顔だったカレオ・マヌエル副委員長にあるとほのめかした。委員会の委員長はWMLの要求を飲み、WMLが管理する高級住宅地の貯水池を満たすべく小川を迂回させることを承認した。WMLはさらに認可プロセス全体の「一時停止と見直し」を求めた。「法案がなくなることを望む」と同社幹部は公言した。環境法の専門NPO「アースジャスティス」のアイザック・モリワケ代表弁護士は、こうした一連の動きを「惨劇を安上がりに利用する試み」と非難した。(中略)

ハワイ州知事ジョシュ・グリーンは、WMLの言い分をなぞって、消火に必要な水が不足している主な原因は「水管理」にあると批判した。水の正義を求める闘いに惨劇の責任があるかのようにほのめかしたことばは多くの人を逆撫でした。彼はこう続けた。「正直に言いましょう。わが州では、度重なる暴風雨が発生しており、火災の消火活動に備えるべく水を確保することが求められているにもかかわらず、それに反対する人たちがいるのです」。

右派メディアのニューヨーク・ポストは、WMLと州知事の言い分をなぞるかたちで、「公正」に重きを置いた「WOKE」な政策が、火災発生時の水利用を制限してしまった原因だと、8月19日付の記事で伝えている。「火災が燃え盛るなか消化用の水利用許可が5時間も遅れたのは『公正』への懸念からだった」と題された記事は、WML社のコメントを引用しながら、カレオ・マヌエル副委員長の判断を強く非難する。

ウエスト・マウイ・ランド社は8月10日、マヌエル宛ての書簡の中で、山火事が制御不能になるまで、彼の委員会が被害の大きかったラハイナ地区の地主の貯水池を満たすために小川を迂回させる要求を放置したと述べた。

情報筋が「Honolulu Civil Beat」に語ったところによると、マヌエルはWML社の要求を承認する前に、分水の影響について地元の農家と相談するよう同社に求めていたという。

「私たちは、助けることもできないまま惨状を見ていました。私たちの要請がすぐに承認されていれば、マウイ消防局にもっと多くの水を提供できたはずだと思いながら、不安な気持ちで朝を待っていたのです」

共和党から大統領選に出馬しているヴィヴェク・ラマスワミーは、この記事をリツイートしながら、この出来事の政治的含意をこう語っている

マウイ島の大惨事の犠牲者とその家族は「真実」を知る権利がある。山火事が猛威を振るうなか、絶望的な住民たちは、州当局に対して消火用にさらに多くの水を送り、火災から財産を守るよう請願した。この要請は何時間も返答されず、島民への重要な援助も保留された。承認を遅らせた当局者は、オバマ財団の「アジア・パシフィック・リーダー」の出身者であり、何よりも水を「崇める」気候変動活動家であることが判明した。 DEIのお題目は文字通り人びとの命を犠牲にしている。政府の第一の責任は国民を守ることだ。

「DEI」(Diversity, Equity, Inclusion)を標榜してきた民主党の失策を叩く絶好の機会と見て、共和党陣営は政権批判に力を入れる。バイデン大統領が、死者が多数出ていることについてコメントを求められ「ノーコメント」と答え、休暇を切り上げることなく8月21日になって現地入りした煮え切らない態度にも強い非難が集まっている。ホワイトハウスは、それに対して、バイデン政権が一体となって迅速な対応を行っていると反論しており、ハワイ州知事も政権の対応を賞賛している。

8月21日にマウイ島に視察に訪れたバイデン大統領は被災者を前に、自身が15年前に自宅が火事に見舞われ、愛車の67年型コルヴェットを失いかけたエピソードを披露した。


未来を支配する者

クラインとスプロートは、WML社や右派メディアによる非難に強く反駁する。

マウイ島のコモハナ族の多くは、WMLによる歴史の書き換えを受け入れていない。ヘリコプターが消火活動に使えなかったのは強風のせいで、実際ヘリコプターが使用された際にも海水のほうが利用しやすかったことを知っているからだ。この土地を干上がらせ脆弱にしたのは、プランテーションとその後継者たちが天然資源を買い占めた、1世紀以上にわたるセトラー・コロニアリズム(入植者植民地主義)の結果であることも知っている。ハワイの桂冠詩人ブランディ・ナーラニ・マクドゥーガルはこう語っている。「水が流れることが許され、その水が生まれるべき場所で、みなを養い育み続けることができていたなら、このようなことは起こらなかっただろう」。

レポートは以下の文言で締められている。

世界中の目が、いまマウイ島に注がれているが、多くの人はどこに目を向けていいのかわからずにいる。破壊された町、悲嘆に暮れる家族、傷を負った子どもたち、焼き尽くされた残骸に目を向け、現地のコミュニティ主導のグループにできる限りの寄付をしてほしい。けれども、その背後にあるもの、そして、この先にあるものにも目を向けてほしい。帯水層や小川、プランテーション時代の分水溝や貯水池を。水はそこにある。この水を支配する者が、マウイの未来を支配するのだ。

ハワイ州カアナパリ8月8日:ハワイ州マウイ島ラハイナで山火事が発生。
カアナパリ・アリ・リゾートからその様子を捉えた。
Photo by Gonzalo Marroquin/Getty Images