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米アカデミー賞は、授賞式をやらなければよかったという意見が出てこない不思議

映画界隈の諸問題が賑々しくニュースに取り上げられる度に、軒並み大人しくなる「プロフェッショナル」らの姿を見るにつけ、あぁ、にっくき「保身の帝国」は健在だなぁと感慨深く思う最近です。

さて、「第92回アカデミー賞授賞式」。

ウィル・スミス氏が、コメディアンのクリス・ロック氏を平手打ちしたって?

こういうホットなニュースを取り上げる時、気を付けなければいけないのは、識者然としてもっともらしいことを宣ったあげく、幾ばくかの原稿料をもらい、「消費」に貢献すること。

しかしながら、「帝国」関係者が原稿料をもらって書いてくれた記事の氾濫は、もう十二分に「消費」を加速させてきたようで、そろそろ「アカデミー賞」の話題も世間から忘れ去られつつある様子。

ということで、タイミング的には丁度いいかなと思い、駄文を書き連ねることに。

アメリカ・ハリウッドで行われている授賞式は、何故か日本国内でも事細かに紹介されるので、ぼくのような流行に疎い人間ですらも、以下の経緯を知ることができた。

コメディアンのクリス・ロック氏が、脱毛症を患っているジェイダ・ピンケット=スミスさんの髪型についてジョークを述べた後、ウィル・スミスが彼に平手打ち食らわし、罵倒を繰り返した。(件の平手打ちの映像は、テレビやSNS等でもう何度も何度も目撃している)

その後スミス氏は、映画芸術科学アカデミーからの退会を表明し、謝罪に至ったという話。

スミス氏の平手打ちを巡り、世間では賛否が分かれていた。

背景及び経緯を説明する映画批評家や識者が、もっともらしい解釈をぶち、「消費」を加速する。所謂「お祭り騒ぎ」だ。

だが、何故アメリカ・ハリウッドで行われている「授賞式」が、日本国内で事細かに紹介されるのかは、誰も説明しない。「お祭り騒ぎ」に水を差すからだろう。

世界の何処かでウイルスが猛威を振るい、誰にとっても無関係でないような戦争で人が死んでいる時、高級タキシードと豪華なロングドレスを身にまとい、晴れがましい「授賞式」にのぞむハリウッド・スターの厚顔さには、ある種胸を打たれる。

司会者にコメディアンを起用するくらいには浮かれていた「授賞式」が、世界の何処かでウイルスが猛威を振るい、誰にとっても無関係でないような戦争で人が死んでいると知っているぼくらに中継される時、いったいどの程度晴れがましく享受され、また共感を呼んだというのか。

アメリカ海軍特殊部隊の訓練プログラムに挑む女性を描いた『G.I ジェーン』の続編をというロック氏のジョークは、それ自体が戦争を想起させる。

彼とスミス氏の間に生じた一発の平手打ちが、映画という虚構、授賞式という擬制を俄かに突き崩し、暴力の浸透圧を緩和して、「お祭り騒ぎ」に浮かれたスターらを、一瞬間素面に戻した。

僭越ながら、ぼくには、それは起こるべくして起こったようにも映った。

だって、そんなの、ちょっと周りを見りゃ分かるじゃないですか。
電車内で突然暴れまわる人、道端で暴言を吐く人、2年前より明らかに増えましたよね。
みんなストレスを感じ、ギリギリで過ごしているんだ。
経営でも、数年前は維持できたとこが、そろそろ破綻しそうとか、そういう状況。
それは、エスタブリッシュメントだって同じだと思う。

だから、ぼくは、はっきり「第92回アカデミー賞授賞式」はやらなければよかったと思うタイプなんだけど、誰もそれを言わないので非常に不思議なんだな。

ただ「授賞式」をやらないだけで、コメディアンはつまらないジョークを言わずに済んだし、ジェイダさんは不快な思いをせずに済んだし、ウィル・スミスも平手打ちをしないで済んだし、電気代もかからなかったんだぜ?

これだけ不確定性が極まった時代だからこそ、確固たる権威付けを期待して、「授賞式」を敢行したいってのも分かるけど、等速直線運動みたいに惰性で続けている行事には、まだまだ再考の余地があると思うんですが、どうなんでしょうか。

グリゴリー・ペレルマンによるポアンカレ予想の論文は、arXivで公開されたじゃないですか。
あんな風に、どっかに受賞作品を記載するだけでいいと思うのですよ。

エコロジカルで且つ奥ゆかしさを感じられるから、「日本アカデミー賞授賞式」とかでやるのが狙い目だと思うんですが、それだと利権団体から総攻撃受けて、映画芸術科学アカデミーからもスポイルされるんでしょうか……。(大丈夫だ、心配ない)

何れにせよ、日本国内で開催される授賞式が、アメリカで事細かに紹介されることもないだろうし、インド・ボリウッドの授賞式が日本国内でトップニュースになることすらないだろうから、ぼくは、もっともっと流行に疎くなり、「保身の帝国」から身を守らなければと、決意を新たにした次第である。




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