古代オリエント博物館開催の「視覚障害者のための展示解説ツアー」が最高に贅沢だった報告
東京・池袋にある古代オリエント博物館で2023年11月19日まで、「おまもりとハンコとコイン」という展覧会を開催しています。
おまもりもハンコもコインも、収集好きな人があちこちにいますよね。コロコロかわいい物好きにはたまらない展覧会です。
そこで「視覚障害者のための展示解説ツアー」があったので参加してきました。
少女マンガ研究家のわくい犬は古代史が大好物です。
『王家の紋章』(細川智栄子あんど芙〜みん)から始まり、『天は赤い河のほとり』(篠原千絵)、『ハトシェプスト』『ツタンカーメン』『イシス』(すべて山岸凉子)などなど、古代エジプトやギリシャ、ヒッタイトあたりは舞台となっている作品も多く、少女マンガの餌食です。
「視覚障害者のための展示解説ツアー」の募集要項には「レプリカや触図、実物を触っていただきながら展示品解説を行います。今回は古代エジプトのおまもりやハンコを中心に触っていただきます」とあるではないですか。え、実物に触れるとな……?
もうこれは絶対に行きたい。
実物に触るなんて素人はまずできません。
絶対に行きたい。
ロービジョンのスタッフラテなら社長命令に従ってくれそうです。
断られないようにやんわり強制しなければ。
ツアーでは、まず会議室のようなところで、特別講義が行われました。
触図の世界地図を触って、地理を把握。
オリエントとは、トルコからシリア、イラクやイスラエルを通ってエジプトまでの地域を指すそうです。その後、オリエントにフォーカスした立体地図を触り、どのあたりが砂漠で、どのあたりが森なのかを確認。これは晴眼者でもあまり意識したことがないので、強烈に理解が進みました。
そしてスカラベやウジャトのレプリカが実際に配られました。
まずは2〜3倍の大きさのものを手渡してもらい、細部の形を確認します。その後実物大のレプリカや、本物を持って来てくれました。
わくい犬はもう興奮しまくりです。ラテの手にあるスカラベを奪い取りそうになり、「視覚障害当事者優先でお願いします」などと注意されてしまいました。
スカラベはフンコロガシを形をした護符です。ウジャトはアイメイクバッチリの片目を象った護符で、どちらも古代エジプトのものです。
だいたい、スカラベの裏側なんて滅多に見られません。マンガにも描いてないし。
一通り触らせてもらいながら、その形状の意味や材質など学術的なことを教えてもらいました。
スカラベの裏にはヒエログリフが彫られているのですが、なんて描いてあるかまで読んで教えてくれました。
例えば、スカラベを模して作られた「スカラボイド」という装飾も見せてくれたのですが、「ボイド」というのは「〜ふうの」という意味だそうで、スカラベチックなブツで、裏側のヒエログリフも割とテキトーなそれっぽいことが書いてあるのだとか。
「日本のお土産で『愛』とか『誠』とか書いてある外国人向けのものがありますが、あんな感じです」とのこと。
いつでもどこでも、人間の考えることは同じなんですね!
展示の説明文を読んでもあまり頭に入ってこないのですが、やはり口頭で教えてもらうと、すごく理解が深まります。
しっかり知識を身につけたあと、実際の展示室へ。
だいたいの美術館や博物館の展示物は、ショーケースの中に入っていたり、ガラスの向こうに展示されています。
健常者はこれに張り付いてブツを眺めるわけですが、ラテ曰く「それだけでは、ぜんぜんわからない」と言います。
でも実際に触って知識をつけたあとに行くと、だいぶ変わるのではないでしょうか。
このツアーは今年で2年目だそうですが、洗練されていて素晴らしかったです。
非常にコンパクトに、効率よく魅力を伝えてくれるツアーだったと思います。
参加者にアンケートを採りながらいろいろ模索されているようで、今後の開催にも非常に期待をしています。
ただ、気をつけなければいけない点があります。
わくい犬にとっては非常に贅沢なツアーでしたが、ケースの中を見られない人たちにとっては、これは決して特別扱いではないことです。
実物が触れない限り、正確に象形を把握することは難しいでしょう。参加者にとってはどの情報もファーストコンタクトだったはずです。
次の視覚障害者ツアーは半年後だとか。
待てません。
古代オリエント博物館では、各種対面・オンライン講座を開催していて、友の会に入ると無料で聴講できます。
待てないので、入会してしまいました。
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