新婚旅行1日目 『初めてのPeachへの搭乗』

 夫婦生活には暗黙の「担当」が存在する。うちでは料理は妻の担当だし、逆に旅行などの外出に関しては僕の担当だ。もちろんお互いに意見は出し合うが、最終的な決定権はそれぞれの「担当」にある気がする。結婚当初はそのさじ加減もわからずによくケンカをしたものだ。今回の新婚旅行も、計画はもちろん、宿や交通機関の予約も含めて僕の担当分野だ。決してやってあげている、というのではない。単純に僕は旅行が好きだし、もっと言えば旅行の計画を立てるのが好きだ。行く当てもないのに時刻表を見ながら、妻曰く「にやにやしている」らしい。完全に変態である。ただ一つそれに言い返せるとすれば、鉄道オタクはなかなかの実用的な趣味だと私は思っている。
 話を元に戻そう。いくら旅行の計画が好きと言っても、7泊8日にも及ぶ長期間の旅程を組むのは初めてだ。これまでは、2泊3日の間で行きたいところをどう効率良く盛り込むか、という条件があった上での計画がほとんどで、逆に言えばそうした縛りがあったからこそ凝縮した旅にすることができた。ただ今回は前提が全く違う。北海道で行きたいところを全部巡ろう、という壮大な目標がある。それに当然、妻も行きたいところのリクエストを容赦なく出してくる。ラベンダー畑だの帯広の六花亭だの函館のラッキーピエロだの…。まったく、北海道がどんなに広いかわかっているのだろうか。試行錯誤を重ねた結果、行きたかった場所ほぼすべてに訪れることができた。

 記念すべき1日目の旅程はいたってシンプルで、大阪にある自宅から札幌への移動のみ。その中にも、今回我々の初めてがあった。そう、Peachへの搭乗である。今や格安航空会社として有名なこのPeachだが、あっちこっち旅行をしていながら、いまだかつて二人で利用したことはなかった。厳密に言うと、僕はPeachを使ったことが初めてというわけではない。健常者の友人と一緒に利用したことは何度かあった。ただ、それとこれとはわけが違う。
 まず全盲の僕が航空機を利用する時は、空港のカウンターから保安検査場を経て機内に乗り込むまでと、到着地で機内からロビーまでのご案内をスタッフにお願いしている。ただ、格安航空会社がどこまでそれに対応してもらえるのかわからないという不安があった。こんなにもバリアフリーが叫ばれる時代になっても、障碍者だけでのご利用はできません、と断られるケースがあることも知っている。これは航空機に関わらず、書類の手続きなどもそうだ。ただ厄介なのは飛行機でもし断られたら、その代替え手段がないということだ。運良く他の航空会社の後の便に乗れたとしても、当日購入の航空券なんてバカみたいに高い。安いから格安航空会社を選んだのに、それではなんのこっちゃわからない。そのため今までなかなかチャレンジできずにいた。ただ今回は旅行ということで、最悪次の日に到着になってもリカバーできるぐらいの余裕はあるし、何より関西から新千歳は直前購入でもそれなりに安いSKYMARKも飛んでいる。試すならこの時しかないと思った。
 結論から言うと、Peachのスタッフの方はとても親切で、我々の心配は全く無用だった。そして何より、関空から新千歳まで1人6000円という安さで移動することができたのは、家計にも非常に優しい。
どちらかと言うと大変だったのは、航空券の手配の段階だった。最も安く航空券を手に入れるにはネットで予約するしかない。それも結果から言うと、iPhoneのボイスオーバーという音声読み上げを使うことで、我々全盲でもPeachの予約はできた。ただ座席を確保してから10分以内に決済完了まで進まないといけない。まさにミッションである。何回かタイムアウトになって最初からやり直しをする羽目になったが、おかげで何回も練習できたのでよしとしよう。
 そして最後に忘れてはいけないことがもう一つ。それは、空港などで案内してもらいたい旨を事前に電話で伝えておいたことが今回は良かったのだと思う。これについては賛否が分かれるところなのだが、我々が初めての場所に行く際、あえて事前に視覚障害であることを伝えないという選択をすることもある。決して突然困らせてやろうとかそういうことではない。ただ上でも書いたが、事前に伝えることで行く前に難色を示されるというケースもあるからだ。これはあくまで僕の価値観だから、障碍者はみんなそうしているとかでもない。だからこそ、もし現地で断られた場合はすぐに他のプランに切り替えられる「プランB」も用意しておく。えらそうな言い方だが、視覚障害を理由に配慮をお願いする分、逆にそこは我々からの配慮、といったところだろうか。難しい話ではなく、その方が単純に楽しく生きていける気がする。

 今回は、動画とは全くリンクしない内容になってしまったが、我々が自宅から飛行機に乗って札幌に行く、という単なる移動の中に、こうした物語があったりする。これも全部含めて旅の楽しさだと僕は思う。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?