223. バイトのラスト

2022.6.11 sat 23:41

アルバイトをやめようと思っていた。やめるべきだと今も思う。そう思っていたけれど、いやそうしようとしていたからこそ、私はとある社員さんとお話ししたいと思っていた。9日の、大阪に来る前のラストの出勤の日に彼と話して、辞めようと決めていた心があっけなく取り払われた。彼ではなく、彼によって。

彼はあっさりしていて人に深入りしない。恐らくどんな人に対しても。少なくとも彼と話している間は、私はさっぱりした人間になれているようには感じる。さっぱりを演じているのではなく、彼がそうさせてくれている感じ。自分ではドロドロした黒い感情だと思っているものがあっても、彼の前ではその話なんてどうでも良くなってしまったり、彼の前その話をしても、その感情は実は透明のサラサラなものだったんじゃないかと思ってしまう。

このバイトを始めて少し経った頃も、たわいもない会話に癒されていたのを覚えている。心の内の話なんてできないし、それを相手も求めていない。かと言って仕事の相手との距離感ではない。

バイト先では、自分は宙に浮いていて、孤独感を感じることが多い。(それは仲良くなりたいという気持ちが芽生えてしまったからなんだろうけど。)こっちの仕事でお姐さんと話している方が、よっぽど自分でいられるような気もする。お互いが素で、お互いが興味のあること(というか仕事の話が多いんだけど)を話している。男女の違いもあるが、バイト先ではどうも、みんなの会話が見栄を張っているように感じることがある。そんな宙に浮いているようなバイト先に私はどうしてすがるのだろう。数年後の自分は、なんでもっと早くやめなかったんだろうと後悔するだろう。自分の時間を取らなかったんだろうって。現に今、こっちの仕事に時間や体力を割くことが、理想よりはるかに少ない。こっちに集中したいと頭で思いつつ、人に依存している。

そんなバイト先で、今はそのたわいもない会話から感じることが、入ったばかりのそれとは変わった。たわいもない会話に見え隠れする彼等の本音、優しさ、怖さ。本人の気づかないところで変化する相手の気持ちが行動になって表れる。それを感じるのが最近は心地よい。深い話なんてわざわざしなくてもいいんだ。

それでも、この仕事をしながらも、今日は誰が入ってるんだろうと確認する。そしていつ辞めようかと考える。ウダウダしてずっと続けるのは良くないと思う。やめたところで、始まる前の生活に、始まる前の一人の状態に戻るだけだ。人の中で疎外感を感じることすらない、一人の状態に。
それでも、この、人の中に交われないという感覚と、人の中で過ごす暖かさ、人への感情を感じられるからこそ、表現したいと思えているとも思う。

しばらく離れていると、私はいずれ忘れるんだろう。この寂しさを。


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