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SF小説「ジャングル・ニップス」第2章、2・3

ジャングル・ニップス 第二章 オンザロード

エピソード2 赤信号

電子音が鳴っている。

エースケさんがアイチューンを弄っているのだろう。

ヤスオさんに気を使って60年代のクラッシックロックでも選ぶはずだ。

「あと、あれ聞こえたぞショーネン。紳士二人捕まえてオヤジとは何事だこの野郎。」

「コンリンザイいたしませんっ。」

ヤスオさんは機嫌よさそうに腕を外に出して運転している。

「エースケ、ちょっと話すから、ラジオにしといてくれ。」

「あいよ。おはよう寺ちゃんもう終わりの時間だから、ラジオもうなんもないよ。」

「聞かないからNHKでいい。」

あいよと答えてラジオをイジリだす。

ヤスオは296に出るとウィンドーを上げた。

ショーネンが煙草を携帯灰皿にしまう。

「ショーネン。マチコさんに事の概要は聞いているよな。」

「いえ、先日、店にお伺いして、そのままです。」

「マチコさんから言われたんだけどな。」

「はい。」

「今日、歴博を観に行く。」

「え?印旛沼じゃないんすか?」

「ああ、印旛沼が先で、昼前に歴博に向かう。」

「あの子、歴女だったんすか?」

「いや違う。彼女がやっと、ボーイフレンドがいたことを話してくれた。マチコさんが虹の会の方々と、彼女の部屋から周辺地域まで、弥栄の虹でバリアはっているのは知っているよな。」

「ああ、なんか、その世界はオレにはまだ理解りません。」

「結界だけじゃ侵入する奴らみたいだから、地域全体を弥栄な空気にして、彼女の体力が戻るのを助けている、そう想像してくれたらいい。」

「はい。」

「彼女、たまに印旛沼周辺を、ボーイフレンドとサイクリングしていたらしいんだ。」

「お筆書きの、風車、自転車、噛みつきガメですね。」

「ヤスオッアカッ!!。」

エースケが大声を上げた。

ヤスオがブレーキを踏む。

「サンキュ、エースケ。」

クルマは静かに静止した。

「なんかよ、さっきから誰かに覗かれているような気分なんだよ、分かんねんだけどよ。」

エースケさんの声が少し裏返っている。

ヤスオさんが腰のファニーパックから煙草を取り出した。

「今のアカだってよ、ボッとしてたから、前見てなくってよ。」

カチリと火をつける。

「オマエでも分かんないような奴がこの世にいるのか?」

アイスコーヒに手を伸ばすと、ストローを咥えてヤスオは赤信号を見上げた。

つづく。


ジャングルニップス 第二章 オン・ザ・ロード

エピソード3  蓮の池


道路情報が流れている。

音楽が軽い。NHKではないと理解る。

「分かんねえけど、今のはまずかったろ。」

「ああ、大丈夫。気をつけるよ。」

ヤスオさんは冷静だ。

ショーネンも窓の外に眼を向けるが、何も変わった気配を感じない。

ヘルメットを被った中学生が立ち漕ぎで横断歩道を渡っていった。

「オメーナニチューだ?」

エースケがつぶやく。

「空は?」

ヤスオがエースケに尋ねた。

「いないと思う。ちょっとオレ、眼を閉じていていいか。」

「MAXコーヒをすこし舐めてからにしといてくれ。」

「ああ、忘れてた、ロールパンも齧っとくは。」

エースケさんはエネルギー不足になったようだ。

「エースケさん。」

「なんだ?」

「スニッカーズの小さいの一つおすそわけいたしましょうか。」

「マジで?チョー助かる。ロールパンと交換なっ。」

「あ、いえ、ロールパンは苦手っす。」

知ってて言うんだから大丈夫そうだ。

青になる。

ヤスオが静かにクルマを発進させた。

「エースケ。ボーイフレンド読みに寄ったよな?」

「うん。いいとこの子で、普通の優しいアンちゃんみたいだったよ。」

呑気にMAXコーヒーを舐めながら答えている。

「えっとなショーネン。虹の会の方の、知り合いの婦警さんにな、一応、その地域の過去を調べて貰っているらしいんだけど、派手に動けないから、ちょっと時間がかかるらしいんだと。」

「市役所か図書館でボクらが調べることは出来ないんですか?」

肩を叩いてエースケにスニッカーズミニを渡した。

「いや、マチコさんは土地の過去との繋がりを確認したいんだ。訪問介護であの辺りを回っている虹の会の方もいるらしいんだが、旦那さんが脚立から落ちて入院中で大変らしい。たぶんその内ナニか情報が入るはずだが、古いとはいえ、あの辺りは一応、新興住宅地だから、ナニか取り返しがつかない失礼を犯している可能性も捨てきれない。結局まだ、手がかりは、印旛沼と歴博だけだ。」

ヤスオが付け足す。

「高校生の男女が、印旛沼でサイクリングして、歴博を散歩ですか。」

「まああれだ、まずは、オレ達も今日のピクニックを存分に楽しむ、それだけだね。」

エースケがそう言いスニッカーズを口に放りこんだ。

歴博。

国立歴史民族博物館は、もうオレが子供の頃にはあった気がする。

佐倉城の城跡に建てられたはずだがくわしくは知らない。

小学校の遠足で行って以来、オレはあそこに寄ったことあったろうか?

たしか、林の中の階段を下っていくと、小さく開けた場所があって、蓮の花が咲く深い緑色の池があった。

その左側に草原。そうだ、お花畑みたいな草原があって、そこに細い獣道がずっと伸びていたはずだ。

オレはあそこでトモダチと、生まれたばかりの無数のカマキリの子供が卵から出てくるのを見つけた。

記憶違いかもしれない、夢で訪れた世界にも思えてしまう。

「姥ゲ池だろ?」

エースケがショーネンに声をかけた。

「あの池の名前すか?」

「ああ、今日のオレの仕事の一つは、長老に挨拶をして、アドバイスを聞くことだ。」

「長老?」

「デッカイよ長老は。」

エースケのその声は少し自慢げに聞こえる。


つづく。


第一章を未読の方はこちらから。


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