SF小説「ジャングル・ニップス」 第2章、1
第二章 オン・ザ・ロード
エピソード1 ロンピー
「アイツ、オレが顔見ているのに、一言も言葉投げてよこさなかったよ。」
ダッシュボードに乗せた足をユラユラと揺らしながら、エースケがヤスオに話しかけた。
「ああ、あのオトコ、曲者かもね。」
「ロンピー頼んだらロンピー出してきたもん。」
ヤスオは片手でハンドルを握りエースケに貰ったアイスコーヒーを飲んでいる。
「曲者ですか?」
「食わせ者じゃねえことは間違いないよ。心配すんなショーネン。」
エースケが頭を掻きながらめんどくさそうに応える。
「あのオトコ、身のこなしに無駄がなさすぎると感じなかったか?」
ヤスオがショーネンの顔をミラーで確認しながら質問をした。
身のこなしに無駄がない。シェイプシフターとバンパイヤに共通する特徴だ。
「いいえ。去年の秋くらいから、あそこで朝よくコーヒーしているんですが、アイツからは別に何も感じだことはありません。」
ヤスオが頷く。
「ショーネン氏。キミを配下に置きたい連中が関東にはウヨウヨいることを忘れないでくださいよっ。マチコさんのお気に入りでなければ、とっくの昔にキミの過去なんて消し去られて売られているんですよっ。そのくらいの意識で暮らしてくれないと困りますよっ。」
エースケがヤスオの声色をマネて冗談ともつかない事を言った。
「き、気をつけます。」
ヤスオとエースケが顔を見合わせブッと吹いた。
「きっきっき、気をつけますと来たもんだ。」
エースケが大笑いしながらウィンドーを下げ始める。
「フフッ、いい心構えだショーネン氏」
ヤスオがボタンで残りの窓を全て下げた。
「精進します。」
全開の窓から流れ込む風に身を洗われながら、ショーネンは帽子を脱いで目を閉じる。
今日一日いじられ続けたら身が持たないかもしれないな。
ショーネンは蓋をとって残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「あのう。お二方。」
「なんでしょうかショーネン」
分かっているのにエースケがたずねる。
「おタバコしてよろしいでしょうか?」
「お体に差し障るのでご遠慮ください。」
エースケのイタズラがまた始まった。
ホホっとヤスオさんが嬉しそうに聴いている。
「お力になれることはございませんか?」
ショーネンの声は少しめんどくさそうだ。
「先日、お近づきになりたい女性にフラれてしまいまして。」
ヤスオがブーイングのポーズをしている。
「後日、お付き合いの手続きの・・・スミマセン、降参します。」
エースケは勝利して満足そうだ。
「気をつかわずに、若者はどうどうとお飲みなさい。」
ショーネンは合掌をすると、ポケットからロングピースを取り出した。
「ショーネン。理解っているだろうけれど、不老不死の貴族達はキミなんて相手にしないよ。」
ヤスオさんも一本点けている。
「それよりも、この当たりはこんな田舎だが、廃材関係なんかで海外との取引が多い。ペルシャ、オロシヤ、支那、ベトナム、古い文明の神々はワタシ達の常識や想像なぞとても及ばない、遠く深い世界にお住いだ。国道周りでポツポツ見かける連中にも、何かの眷属や従者がいるかもしれない。本人達が自覚していない場合もある。いずれにしても用心にこしたことはない。」
「あんま目立っていいことねえよ。」
「はい。」
「まあ、オレみたいに目立っても何の問題も無い奴もいるし、キミみたいに、場合によっては、変な連中が勧誘しにきちゃいそうなタイプもいる、そういう事だ。」
エースケの声は真剣だ。
つづく。
ありがとうございます。