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記憶の中の味。

お店との出会い

遡ること10数年前。

生まれて初めて地元を離れ暮らすことになった。

既に実家からは出て一人暮らしはしていたがさほど遠くはない場所。
そんな私にとって、地元を離れること、しかも仕事で、というのは期待もありながら不安も大きかったと思う。

しかもその土地は、一度しか行ったことのない北の大地だった。
陸続きでもなく1,000km以上遠い場所だった。

転勤してから、長時間労働に拍車がかかった。
いつも体はガチガチ。
毎月アロマトリートメントや、リフレクソロジーに何回も通っていた。

ある時、近所に深リンパマッサージをしてくれる場所を知り、出かけてみた。
おしゃれなお姉さんがマンションで行う(出張もしてくれる)ものだった。

そのお姉さんと食べ物の話になった時に教えてもらったお店がある。

卵かけご飯が美味しいの。

そう言って紹介してくれたのは、
私の家から本当に歩いて数分のお店。
ただ道路と道路の間の細い路地の中にひっそりとあって、知らなかったらきっと気づかなかったと思う。

A、というお店

今はもうやっていない。

私が次の転勤で、北の大地を離れる頃、店主のMさんもまた今のお店を閉めて、次にやりたいことを始めるとおっしゃっていた。

そのお店はこじんまりとして、
L字型にカウンターがある。
お店の人はオーナーのMさんお一人。

レジはなく、確か平たいザルが吊り下げられていて、そこにお金を置いて代金のやり取りをされていた記憶がある。

そのうち、北の大地の暮らしにも慣れたこともあり通う頻度が下がったが、猫が何匹か出入りしていたのも原因。

元から動物が苦手なのと、食べ物屋さんに動物が出入りするのがちょっと嫌だったから。
猫だからヒラリといろんなところに登ったりする。

食べ物とかに毛が入らないかしら?
などとヒヤヒヤしていたし衛生的にも心配だった。

しかし、Mさんの出してくれた料理は今も私の記憶の中の味として残っている。

記憶の中の味

◇卵かけご飯

お姉さんが教えてくれたから、やはり一番最初に行った時に食べた。

お店は飲むお店でもあったから、〆に食べたと思う。

ご飯にふわふわと泡立てられた卵がのっている。
刻んだ海苔も添えられている。

食べると違う食感に気づく。
小さく切ったたくあんが入っている。

ふわふわの卵にも薄く味がついていて確かに美味しかった。

記憶が正しければ、Mさんがおっしゃるには、タモリが言っていたレシピだそうで彼のオリジナルではないとのこと。

でも、この卵かけご飯は美味しかった。

◇ペリメニ

ロシア風の餃子。
私はこれが好きだった。
また食べたいが叶わない。

お店は毎回メニューが違うので必ずあるわけではないので、あったらいつも注文した。

自作の皮で作った丸っこい形の餃子を水餃子にして、味はバターと胡椒。

餃子みたいなものはつるりとした食感でバターと胡椒の塩梅も良く、
東京から友達が来た時もここに来たが彼女も美味しいと食べていた。

これと同じものは、ここでしか食べたことがなくて記憶の中の味。

◇カレー

Mさんが時間をかけて作るカレーも美味しかった。

おぼろげな記憶だが、野菜とかスパイスの味がいろいろして、全体としての味が私の好みだった。

このカレーで思い出すのがラーメン。

Mさんが『化学調味料とか一切使わずに作るラーメン』を作れるし、やはり美味しいとおっしゃるからお店で出して欲しいと言ったら、1,000円台では出せないから、商売にならないとおっしゃっていたと思う。

それだけ、手間と時間がかかるし、必ず出るわけでなかったとしたらその価格設定しかないのだろうが(ラーメン屋さんではないから)、食べてみたかった。

このラーメンは食べられなかったから幻の味。

◇鹿の舌

北海道で鹿肉が身近になった。
食べたことはあったが、鹿の舌はなかった。

ある日お店に行くと、Mさんが『今日は鹿の舌があるけれど食べる?』と声をかけてくださった。

鹿が増えすぎて駆除をするのだが、その時に角を駆除した印として使い、それ以外は処分するのだそうだが、最近角以外も有効活用?していると聞いた覚えがある。
それで、舌も手に入ったと聞いた。
腕がいいハンターだと弾が身体に残らないので臭みもないらしい。

鹿の舌はあっさりとしていた。
ただこの時食べたきりだから他との比較が難しい。
あまり凝った味付けではなく、シンプルに塩で焼いた感じ。

ここで食べて以来、鹿の舌は食べていない。メニューで見たことがない。
だから記憶の中の味。

キャラメルのアイスクリーム

そして、Mさんのお店で食べたもので大好きだったのがキャラメルのアイスクリーム。

私の中でまだこれを超えるキャラメルのアイスクリームに出会えていない。

これもまた記憶の中の味。

平たい器に盛り付けられて、丸いぽこんとした形ではなく、バットからすくった形状のものが2つ。

パソコンの中に写真は残っているはず。

アイスクリームの食感もキャラメルのほろ苦さと甘さも絶妙で、
たまに思い出して食べたいなぁと思うがもはや叶わない。

記憶の中の味。


Mさん、今どうされているだろうか。
おぼろげな記憶では、次は飲食店ではなかった。
料理は作る仕事のようではあったけれど。。

お元気で活躍されているといいなと思う。

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