見出し画像

「自転車教育のひとつの到達点」〜日本で成長したWielerschool(ウィーラースクール)とは

1.北欧から来た子ども向け自転車教室

2004年に僕が関わり出し、2007年以降はその主軸となって、総合的な自転車の教育活動を続けている子ども向け自転車教室「Wielerschool(ウィーラースクール)」は、かなり早い段階から一人でもその指導者を増やすための指導教本を持ち、それを全てweb上に一般公開し、日々アップデートしている。


当時、国内では、まだめずらしかった子ども向けに特化した自転車教室の存在意義は、このスクールの登場によって、大きく変わったといっても過言では無い。
そもそも、自転車教室というカテゴリーに「楽しさ」や「笑い」という要素が存在することはほとんどなかったからだ。
それまでの自転車教室は、概ね警察や安全協会などが行う、「交通安全のための教室」であり、そこには決められたルールを学ぶ場としての役割はあっても、自転車に乗る「楽しさ」そのものを教える機能を持っていなかったからである。

自転車は楽しい、だからこそ、その教室も楽しくないといけない。

そんな感覚で自転車教室を開催することは、当時としては画期的な事だったように思う。

われわれが行うウィーラースクールの指導方法は、もともとのベルギーでのスクールカリキュラムをベースにしている。
そこに書かれていたのは、

自転車競技を目指す子どもたちが、サイクリングやトレーニング中に、不幸にも事故に遭遇し、その将来を棒に振ってしまうことをなくすこと。そのために、そうした事故を未然に防ぎ、安全な走行を実現することが重要で、そのためにも子ども自身で高度な自転車操作技術を習得することが必要になる。

という、安全への考え方と、

子ども時代の早いうちから、あまり競技にのめり込まないこと。幼い頃から本格的な競技を始めた子どもは、本格的に競技に参戦する年代になる頃には、競技に対してのモチベーションを無くす傾向がある。そのため、できるだけ楽しさに重点を置き、「遊び」の中から自転車の楽しみを見つけ出せるよう配慮する。

という、少年期のスポーツ指導に対する考え方だ。

画像1

このカリキュラムの母体は、言わずと知れた世界的な自転車競技大国ベルギーの自転車連盟である。この国では、自転車競技というジャンルには、市民権が確立されており、これまでも世界チャンピオンをはじめとした、世界レベルの選手を多く輩出していることでも有名だ。加えて一般的な市民生活の中にも、自転車を活用することが浸透しており、都市の構造もまた自転車にとって大変有益なものになっている。
その国で生まれた自転車教室は、当然のことながら自国の自転車競技の振興と競技人口の底辺拡大を目指しているものであった。

2.日本ではじめてのウィーラースクール開催

2004年、様々なゲーム性を有したコースが散りばめられ、見た目も楽しげなプログラムを持ったウィーラースクールが神戸ポートアイランドで開催された。しかし、そのスクールは、日本の子どもに適したものとはまだ言えず、競技者拡大のための、自転車競技に付随したオマケのようなものであったと言える。

その当時の日本は、まだ自転車という交通手段を活かすための考え方が社会に浸透しておらず、スポーツとしての自転車競技もまた、マイナースポーツを脱することが出来ていなかった。
言わずもがな、子どもたちに対する自転車教室というものも確立されておらず、手つかずの状態だったことは、当時を知る多くの関係者には共感していただけると思う。

3.欧米よりはるかに遅れた日本の自転車文化

われわれは2007年以降、スクールを開催しながら、「いったいなんのために子ども向け自転車教室を、手弁当のボランティアで開催し続けているのか。」という疑問に自問自答を繰り返していた。
当初は、自転車競技をヨーロッパのように盛んなスポーツの一つにしたいという思いもあったが、そもそも自転車が交通社会でしっかりした市民権を得ていない状況の中、競技者を増やすこと自体があまりにも困難であること。それよりも、子どもたちがまず自転車を楽しみの一つとして堪能できる環境に無いことが大きな壁となっていた。

特に自転車に関わる交通安全教育は、これまでの努力があまり報われていないように感じていた。
この国の自転車教育(交通安全教育)の歴史は長く、われわれのウィーラースクールが登場するはるか昔から、広く全国で教育機会が設けられているが、なぜか、自転車(や車)の事故が無くならない。そしてなぜか、多くの人はルールを守らない。
なにより、自転車利用が個人レベルでさほど積極的に行われない。
つまり、自転車は生活文化に根ざしていないと言うことである。


この原因を解明し、将来的に、自転車の文化レベルを上げていくことが、最終的には、競技者の底辺拡大にもつながるであろうし、競技だけではなく、生活の中での自転車活用が、主要な交通手段となり、結果、交通網を含む都市構造そのものが変わる可能性もあるのではないかと考える。

画像2

4.子ども自転車教室に与えられた可能性

われわれのウィーラースクールは「自転車に乗る楽しさ」を重点においたカリキュラムを多数有する。
そして、子ども自身が、想像力を持って、自分で様々な局面で判断出来る能力を培うことをとても重要視している。
そのために、スクールはどのような構成が良いのか。
また、指導する大人は、子どもに対してどのような立ち位置でいるべきなのかという考え方を共通認識として持つことを大切にしている。
当然、技術を向上させるための機能的な情報も多数有するが、それよりも重要に考えているのが、

子どもにどんな選択肢を与え、どのように選ばせ、どう納得させ、かれらの経験値にしていくのか。

ということである。

だからこそ、我々のスクールは、異年齢交流を軸にした集団行動や、サイクリングを軸にした活動から得る個々の子どもの達成感を大切にしているのだ。

子どもたちを信じ、見守ること。
どうすれば子どもがのびのびと生きていけるのか、
どうすれば自発的に交通安全の意識が高くなり、
どうすれば、うまく交通社会に入っていけるのか。

そういう環境を与えられ、自由に育った子どもたちが、将来どういう大人になっていくのかを考え、カリキュラムを工夫し、プログラムを組み立てていくことがとても重要だ。


自転車を楽しみ、安全に走るための感覚と知識、経験を身につけた子どもたちが、自転車というツールを有効に使って豊かな人生を送る。
これがこのウィーラースクールの最終目標ともいえる姿である。

画像3


子ども向け自転車教室 ウィーラースクールジャパン代表 悩めるイカした50代のおっさんです。