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血液浄化療法の工学的基礎知識

血液浄化療法の治療指標について

透析の評価指標として尿素窒素(BUN)の除去率が用いられるのが一般的ですが、BUNに毒性があるわけではありません。透析液にBUNを付加しBUNを除去しない透析を行っても患者さんの健康状態に問題はなかったという報告があります。

初期の透析では分子量500程度の低分子領域の物質しか除去できませんでしたが延命が可能でした。そこで生命予後に関する物質は分子量500以下にあると考え、分子量60のBUNを透析効率の指標として利用することになりました。BUNは他の物質と比べ測定が容易で測定費用も安価です。しかし、現在では透析アミロイドーシスや手根幹症候群など透析患者の生活の質を悪化させる合併症は分子量500以上の中分子量物質が原因とされています。

除去率とは

除去率とは透析前後のBUN濃度を比較したものです。(透析前BUN濃度-透析後BUN濃度)÷透析前BUN濃度で求められます。透析前BUN濃度が80mg/dl、透析後BUNが30mg/.dlの場合、(80-30)÷80×100%=62.5% となります。除去率は簡単に計算ができるため広く使用されますが透析の効率を評価する指標としていくつかの問題点があります。それを以下、1から4に挙げます。

1.濃度の低下≠除去
透析中に補液や飲水を行うと血液は希釈され溶質濃度は下がります。除去を全く行っていなくても濃度が低下すれば見かけの除去率はある値をもちます。濃度が下がれば除去されているいないに関わらず値をもつ曖昧さが問題点のひとつです。

2.OneコンパートモデルとTwoコンパートモデル
除去率は体全体がひとつの容器で、BUNが体内に均一に分布していることを前提としています。これをOneコンパートモデルといいます。

Oneコンパートモデル

しかし人間の体はそんなに単純ではありません。透析終了後の約30分間、BUNが急速に上昇することから(BUNの透析後リバウンド)生体内にはBUNが除去されやすい区域と除去されにくい区域があると考えられています。これをTwoコンパートモデルといい、当初はBUNが除去されやすい区域は細胞外、除去されにくい区域は細胞内と考えられました。

Twoコンパートモデル

しかしその後、尿素が除去されにくい区域とは水分量が多いにも関わらず血流の悪い臓器、例えば筋肉や皮膚であり、除去がされやすい区域は血流が多い臓器、肝臓や腸などの消化器系臓器であるという説が提唱されました。(局所血流モデル)透析中の筋肉運動がBUNの透析後リバウンドを小さくすることから局所血流モデルの方が正しいと考えられています。

3.心肺・シャント再循環
ダイアライザーに浄化された血液はシャント血管から心臓に戻り、心臓から肺へ、肺から心臓に戻り、心臓から全身に送られます。ここで問題になるのは心臓から全身への部分です。つまりきれいになった血液の一部はまたシャント血管に送られてしまう事、これが心肺再循環です。シャント血流量が多すぎる場合、心肺再循環量は大きくなります。

また、シャント流量が少ない場合や穿刺部位に問題があれば、ダイアライザーから戻った血液の一部は再びダイアライザーへ戻ります。これがシャント再循環です。透析後の採血は再循環回路内から採取するため再循環によって除去率は見かけ上、良くなりますが、シャントにいく血液がきれいになっているのであって全身の血液がきれいになっているわけではありません。充分な時間をとらずに血流の速い透析を行うとBUNのリバウンドが大きくなります。リバウンドを少なくし、透析効率を大きくするためには透析時間を長くしなればなりません。週2回透析や4時間未満の透析ではリスクが高いことが知られています。

下のグラフは4~4.5時間透析の患者の生存率に与えるリスクを基準としたときの各透析時間の患者の生存率に与えるリスクを示したグラフです。
4時間透析の患者に対し、3時間透析の患者の生存率に与えるリスクは
2.7倍も高いことがわかります。

透析時間と生存率に与えるリスク

4.TP補正・血球水分補正
溶質の濃度は血清濃度で表示され、血液は全血量で表示されますが、血清は蛋白質を含み、血液は血球を含みます。そのためこれを補正する必要があります。例えばBUN=80mg/dl 、TP=7g/dlの場合、血清1dlの水分量は
100-7=0.93dlであるため本当のBUN濃度は80mg÷0.93dl=86 mg/dl となります。これをTP補正といい、BUNとは区別し、UNといいます。

BUN=80mg/dl、 TP=7g/dl、Ht=30% QB=200ml/min の場合、血漿流量は200ml×(100-30)% = 140ml。血漿中の水分量はTP補正を行うと
140ml×(100- 7)% = 130ml。となります。
血球の流量は200ml×30% = 60ml、そのうち血球の水分量は3分の2ですが、
ヘモグロビンは尿素を吸着する性質があるため見かけ上の水分量は86%に相当します。血球の水分量は60ml×86%=52ml。血漿中の水分量と血球の水分量の合計、真の血流量は130ml+52ml = 182ml となります。これを血液水分補正といいます。BUNが溶解できる血球中の水分量は86%ですがクレアチニン66%、β2-MGは細胞内に入れないため0%となります。このためクレアチニンとβ2-MGの除去量はHtの増加とともに減少します。これもBUNの除去率を透析の効率を評価する指標として使う問題点の一つです。

血液水分補正後の血流量 (血流量=200ml/min)

続く→ 血液浄化療法の治療指標について 2


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