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ヴィラ=ロボス研究家I のつぶやきその2 (CD収録作品邦訳について)

Feliz Ano Novo♥ 2021! 
黒田亜樹さんの大学時代の同級生、横浜特派員の市村由布子です。

CD“HEITOR VILLA-LOBOS BLACK SWAN”の中で、どの曲がお気に入りですか?私のお気に入りは、2曲目の《Divagação》です♪ 

Joanna Wyld(ジョアンナ・ワイルドさん)という方がこちらのCDの解説を書かれています。原文は英語です。今私がポルトガル語のオンラインレッスンを受けているネイティブのJulio(ジューリオ)先生のご指導の下、この解説の<日本語訳>を読んで気づいたことついてつぶやいていきたいと思います。

◆ヴィラ=ロボスの父Raul
解説内では「ラウル」と書かれています。私も長年このように書いてきました。語頭にくる「R」は「ハ行」となります。もっと専門的な話になると、語尾にくる「L」は“ル”ではなくて“ゥ(小さいウ)”と発音するので、音に忠実にカタカナで表記するならば“ハウゥ”⇒“ハウー”が適切だと思われますが、日本ではBrasilを“ブラズィゥ”ではなく“ブラジル”と書きますし、それに近い感覚で「ハウル」がよいのではないかと思います。
※Rio de Janeiro も“ヒーオ・ヂ・ジャネイロ”と発音しますが、今更「ヒーオ」と言われたらなんのことかわからなくなりそうですし、日本の通称はそのままのほうがいいですね。

◆Getúlio Vargas ジェトゥーリオ・ヴァルガス 
解説内では「ゲトゥリオ」と書かれています。正しくは「ジェトゥーリオ」です。
ヴィラ=ロボスとの関わりが深かったブラジルの政治家で、1930-45、1951-54の間にブラジル大統領を務めました。ポルトガル語で「ga」は“ガ”、「gu」は“グ”、「go」は“ゴ”とそのまま発音しますが、「gi」は“ジ”、「ge」は“ジェ”というようにポルトガル語ならではの発音になります。私も長年「J.ヴァルガス」と書き間違えていたことに気づかず、反省しております。“Jetúlio”ではなくて “Getúlio”です。

◆《Impressões Seresteiras》 【☞ CD内7曲目】
解説内では“第2楽章<夕べのときめき>”と書かれています。この曲はヴィラ=ロボスのピアノ曲の中でもよく演奏される曲ですので、混乱を招かないように日本での通称をご紹介しておきます。細かいことですが、この作品は《Cicro Brasileiroブラジル風連作》の「第2楽章」ではなく「第2曲」にあたります。

Impressões“インプレッソンイス”はImpressãoの複数形で、英語でいうImpressions。
SeresteirasはSeresta(セレナード:ブラジル風セレナード)の形容詞で、「セレナードの」「(その)作曲家・奏者」と辞書に書かれています。ポルトガル語では名詞のあとに形容詞がくることが多いので、文法的には<セレステイラスの印象>となります。

<セレナード歌いの印象>、<セレナード弾きの印象>、この2つの通称がよく使われています。ここでいう<Seresteirasセレステイラス>が器楽奏者なのか歌手なのかという疑問が残るため、現段階での限定は控えておきます。
過去に<印象的な吟遊詩人>と和訳されていたこともありましたが、これは文法的に間違っていることもあり、あまり使われなくなりました。


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◆《O Canto da nossa terra》 【☞ CD内14曲目】
解説内では“祖国の歌”と書かれています。日本では“われらが大地の歌”が一般的なので、最初は驚きました。この作品のオリジナルはオーケストラ版で、そのスコア(RICOLDI版)を見ると、ポルトガル語を含めた6か国語で副題が記載されています。
(英語訳は“The song of our country”)。ヴィラ=ロボスはポルトガル語のタイトルしかつけていないので、これは出版社が考えた翻訳なのだろうと思います。Julio先生のおすすめの日本語タイトルは“わがふるさとの歌”です。小文字で始まる「terra」であれば「土、地面、陸」、大文字で始まる「Terra」は「地球」。“Nossa(Ourの意味) terra”になると、「ふるさと/生まれ故郷」というニュアンスになるそうです。なお、語中で「RR」となるときは「ハ行」となり、“terra” は“テーハ”と発音します。

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◆《O Trenzinho do Caipira》 【☞ CD内15曲目】
★Trenzinhoについて
「~inho」(男性名詞)、「~inha」(女性名詞)は「指小辞/縮小辞」といって、単語そのものの意味は変わりませんが、語調を和らげ、親近感を与える表現になります。
ブラジル人はこのような時に「~inho」「~inha」をつけます。
① 「小さな~」という意味を込めるとき
② 愛情を込めるとき
③ あえて強調したいとき
「trenzinho」は「trem(鉄道、汽車、電車)」の指小辞/縮小辞で、①のケースに当てはまり、「小さな汽車」になります。

★Caipira
解説内では“カイピラの小さな汽車”と書かれています。原文の英語も「サンパウロにあるカイピラを小さな汽車が加速し・・・」となっており、カイピラという地域があるように書かれています。Julio先生によると、「Caipiraは特定の地域を指す言葉ではなく、“田舎者”という意味なので、カイピラの小さな汽車という日本語はあんまり。“田舎の人が使う小さな汽車”というニュアンス」だということです。オーケルトラ版の楽譜をみると“The little train of the Brasilian countryman”という英訳が補足されていました。
しかし、亜樹さんが投稿されていたように「カイピラとは“野に住むものたち”という意味、カイピラ文化とはヨーロッパ系の移民がブラジルを開拓し大自然の中で作り上げてきた、ヨーロッパの宗教観に影響をうけた田舎の牧歌的な文化のこと」というネット記事もあります。
さてさて、どちらなのでしょう?これから検証いたします。
“カイピラ”だとチンピラみたいに聞こえるので、タイトルにそのままカタカナで入れるのであれば、せめて“カイピーラ”にしておきたいです。

「ヴィラ=ロボスの作品名(日本語)の登録商標みたいなものはないの?」と先日亜樹さんに聞かれました。ポルトガル語で書かれた作品名を日本語に訳すのは大変難しい作業です。文法やブラジル文化を勉強し、時代背景を考慮し、音楽の内容をしっかり伝えられる日本語を考えていく必要があります。ネイティブの方や知識のある方にヒアリングしながら、「登録商標」とまではいかなくても、多くの皆様にご納得していただけて愛していただけるような日本語タイトルを考えていくことを私のライフワークの一つとしたいと考えております。

次回はヴィラ=ロボスやCD内の作品の紹介などを投稿する予定です。
引き続き、お付き合いの程よろしくお願いいたします。

横浜特派員の市村由布子でした。


Julio Cesar Caruso カルーゾ、ジューリオ・セーザー先生の紹介はこちらです↓
ブラジル生まれ生粋のリオっ子。リオデジャネイロ連邦大学日本語科卒。初来日は国際交流基金の奨学金を取得した1997年。99年に大阪大学(旧大阪外国語大学)に1年間留学生として在学。留学終了後いったん帰国し、2002年に再び来日。2013年に一時帰国し、リオデジャネイロでコンフェデレーションズカップ、W杯そしてリオオリンピックで通訳として活躍。日本の共同通信社のリオデジャネイロ支局で勤務。2017年に日本に戻り、現在東京在住。(インスタグラムは@iroiroporugo @muitojapão)

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