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【イベントレポート】東京電力×UPDATER「エネルギーに対して、いま私たちが対話すべきことは何なのか」

2024年3月8日、「Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ」がアップリンク吉祥寺にて上映。久しぶりの東京上映とあって前売り券は全席完売し、たくさんのお客様に本作をご鑑賞いただきました。

この日のアフタートークイベントは、日本を代表する2つの電力会社より作品出演者でもあるお二人にゲストとしてお越しいただきました。東京電力ホールディングス株式会社より石橋雄司さん、株式会社UPDATER(みんな電力)より真野秀太さんです。作品監督であり当団体代表理事の田村祥宏がお迎えし、ご来場くださったお客様とも対話を共にしたイベントの様子をお伝えいたします。


電気をつくる人と生活者とで対話がしたい

制作開始当初、石橋さんは経済産業省や他の電力会社の方々と日本の電力の未来を考える研究会に参加していらしたそうで、まさに本作が伝えているメッセージに重なるお話がその場でもあったそうです。

“電力の供給側だけで解決できることではない。どうにか電気を使っている方々と対話ができないだろうか”

また真野さんからは「顔の見える電力」をコンセプトにスタートしたみんな電力は今、あらゆるモノの顔の見える化で社会をアップデートすることを目指して「UPDATER」という社名に変わってきた経緯をお話くださいました。
人と人がつながり、選択肢が生まれ、選ぶことができる社会へ。イベントの冒頭から映画との重なりを感じるお二人のお話に鑑賞直後のお客様も多くうなづかれていらっしゃいました。

左から石橋さん(東京電力)、真野さん(UPDATER)、 田村さん(監督/ブラックスターレーベル)

立場を越えて、感じたことを伝え合う

田村さん:肩書きを置いて対話いただくのも大事ですが、こうして東京電力さんとUPDATERさんの2社が並んでお話されるというのはご心境的にいかがでしょう?

石橋さん:こういう映画がないとなかなか話す機会がないです。ここがそもそもの問題なのかなとも思います。対話のきっかけがないので、会社 対 会社で話をしてしまうともめてしまうこともありますよね(苦笑)
私たちも一人の人間、生活者でもあるのでそうした面から話せたらいいのかなと思います。

真野さん:今のお話、すごく大事ですよね。私たちも一人ひとり電気を使っているので、組織ではなく個人として何ができるかを考えることは出発点としてすごく大事だと思います。

田村さん:このお二人の対話が続いていくとすると、どんなことに期待したいですか?

真野さん:”考えること”じゃないですかね。電力に限らずですが、誰しも人や生き物、地球に害を与えて生み出されるものを積極的に使いたい、買いたいと思う人はいないですよね。結果として加担してしまっていることはあっても。だからこそ、何が起きているかを知り、みんなで考えていくことが大切で、(立場を越えて話すことで)考え続けていくためのきっかけを与え合えるのかなと。

石橋さん:実は今日の午前中に都内の高校でも上映会があり、私も参加して高校生たちと対話をしてきました。私も何度も本作を観ているのですが、作品の最後にある内省パート*では、<考えてください>とは言っていないことに今日気づいたんです。<感じてください>というナレーションを聞いて、「あぁ、感じるんだ、ただ感じたことを話せば良いのか」と思ったんですよ。そこから何か新しいものが生まれるかもしれないし、あるいは生まれないかもしれない。なので今日、この場もすごく楽しみに来たんです。それぞれが何を感じ、何を話すのか。

田村さん:考えてもすぐに解決するのが難しい問題に僕らは向き合っているので、自分が今、何を感じているのか、自分がほしいものに気づくことによって問題解決へと向かっていくのかなと思い、<感じてください>という台詞にしています。

* 本作は本編終了後にリフレクションパートが付随しており、映画による体験を感覚的に捉えることができる構造になっています。
詳細はこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000128669.html

“あなた”は映画を見て何を感じましたか?

石橋さん:群馬での上映時も感じたことなのですが、終盤で大勢のダンサーの方が音楽に合わせてピタッと止まり、全員がふわっと動いていくシーンがありますが、自分はあの瞬間が一番好きだなと!この世界感こそ、この映画を通じて皆さんと共感したいんだなと思って観ていましたね。

田村さん:そのポイントを上げてくださった方、初めてです(笑)作った側としては「みんなここが好きなのかな?」と思いながら作ったのですが、本当に皆さん良いと言ってくださるポイントが違っていて。

真野さん:私は素直に自然っていいなと思いました。それこそ本当に”感じる”ということなんだと思いますが、作品の最後の方に<未来に起きる変化を感じてみてください>というところがありますが、自分は「こういう暮らしってすごくいいな。自然とともにある社会をつくりたいな」と改めて思いながら観ていましたね。

※イベントから数日後に迎える3.11に際して、具体的なシーンとご自身が重なったお話も上がりましたが、作品に対して様々な受け止め方をしていただきたいのが制作側の意向のため、ここでは省略いたします。

なぜ電力とダンスなのか

真野さん:ちなみにこの<感じてください>が一つのキーワードかもしれませんが、この映画ではなぜダンスと電力問題を組み合わせようと思ったのですか?

田村さん:よく聞かれるのですが、この作品は「Dance with the Issue」、つまりダンスでIssue(問題)を扱うことが先に決まっていて、あとからどの問題にするかを決めたんです。その時に日本の電力問題の複雑さを教えてくださった方がいて興味が沸いたのがきっかけです。エネルギー課題をどうにかしたいという思いは自分の中になかったからこそ強い主張を持たないフラットで普通の人の視点を持った作品になったのかもしれません。

真野さん:作中、「欧米では強いメッセージを発する人が出てきて社会運動を起こすが、日本だとそういうものより一人ひとりの小さな共感と感情のスイッチを丁寧に掘り起こしていくアプローチの方がそれぞれの動機は別々でも積み重なると大きなものになる」というメッセージがありますが、まさに先ほどおっしゃっていた考えるではなく、感じること、そして感じる時に”こういう社会にしたいよね”っていうのが集まっていい社会になるという効果が(この映画にはあって)面白いなと改めて思いました。

田村さん:ありがとうございます。

変わることが目的ではなく、大切にしたいことを分かち合うこと

田村さん:石橋さんはだいぶ対話の場にもご参加くださっていますが、印象的だったことはありますか?
石橋さん:エネルギー供給は安定供給、経済効率性、環境適合の3つが全て揃っていることが重要だと作品の中で伝えているシーンがありますよね。今日、図形がぐるぐると回っている場面を見た高校生が「なんで真ん中が空いてるんだろう。つまり解けない問題なのかな」と言っていたんです。あと前半の方で大きな岩を諦めずに押す人と周りで見ている人がいるシーンがありますが、「私は周りにいる傍観している人だ」と高校生たちの多くが話していました。大人だとここまで素直に言えるだろうかと思ったんですよね。みんな問題だと思っているし、何かやらないといけないとも思っているんだけど、私はただあそこで立っている人ですと。

劇中カットより
劇中カットより

田村さん:あの大岩のシーンは事業者の方には印象に残りやすく、一般の方は通り過ぎちゃうシーンだったりもするのですが、高校生がそう言っていたのは興味深いですね。真野さんのインタビューが重なるシーンですがどう思われました?

真野さん:すごく納得感を持って観ていました。ぴったりな表現だなと思って。高校生が自分ごとというか傍観者だと認めていることがすごいですね。

田村さん:あのインタビューから3年経ってしまいましたが、今ご覧になるといかがですか?

真野さん:課題感的には変わっていないですね。

石橋さん:これも午前の高校生たちとの場からの気づきなんですが、「なんだか変えるのを目的にしちゃってて、そこから上手くいかないよね」と話をしていたんです。他の課題についてもですが、どこからどこに変えようっていう話もせずに、とにかく変えようってなってしまう時がある。
そもそもその前に、みんなが大切にしているものは違うのにそれは共有しているだろうかと。映画でも<あなたが大切にしたいものはなんですか>という問いかけがありますが、その大切にしたいものから対話をして、一人ひとりのそれを守り続けるにはどうしたらいいかに向き合うことで、結果として変わっていけるのがいいのではないかと思ったのです。守りたいもの、変えたくないものは何かに気づき、シェアをして、守りたいよねって合意して、そういう順番で考えていくことがこの映画を通じてできそうですよね。

子どもたちが自分と同じ年齢になった時に今と同じかそれ以上にしたい

田村さん:今すごく大切なお話をいただきました。ちなみにお二人はこの複雑で大きな電力問題に長年向き合われていますが、何を信じて取り組んでいるのでしょうか?
真野さん:すごく重い質問ですね(笑)

田村さん:制作の時もこういう重い質問を投げてみんな苦しみながら絞り出してましたよね(笑)

石橋さん:信じてというか大切にしているのは、私は娘が二人いるのですが、子どもたちが自分と同じ年齢になった時に今の自分の状態と同じかそれ以上に絶対したいと思っているんです。そこで僕はバトンを渡したいなと。でも今のままいくとそこより下にいっちゃうのでなんとか今と同じ状況になれるようにしたい。子どもだけじゃなくて孫やその先も。結論や保証もないけれど、常にそれを目指し続けています。

田村さん:それは自分と同じ幸福という意味ですか?

石橋さん:そこはわざと曖昧にしています。今自分は幸せなので娘が同じ年齢になった時にそうしたものを感じてくれるといいなと。

田村さん:次の世代に向けての想いを大切にされているということですね。そのためにさらに石橋さんが大事にされていることはなんですか?

石橋さん:一人ひとりが大切にしていることを大切にするというところですかね。一方で、今日高校生と話をしてきましたが、自分は娘となかなか対話ができていなかったりもします。ということは相手が何を信じ、大切にしたいかがわからない状態なので、この映画を観て話せたらいいなと。

田村さん:ご家庭でも活用いただけたら作った甲斐があります。

いいものをいいと思える気持ちに素直でありたい

田村さん:真野さんはいかがですか?

真野さん:そうですね。私は大学を卒業する時に就職に興味がなかったんです。当時はすごく考えが偏っていて、会社に入る=(イコール)ものをつくる=(イコール)環境に負荷を与えるんじゃないかと。間違っているんですが、当時は環境オタクみたいな面があって仕事を通じて地球に悪いことをするみたいに偏った考えを持っていました。でも今は僕がやっている仕事も、仕事を通じていい社会をつくることに少しでも寄与したいと思ってやっていますし、僕の会社だけでなく、いろんな企業が今CO2削減や森林保全に取り組むなどビジネスで地球環境を良くできる社会になってきていると思います。経済が成長することで環境に負荷を与えるのではなく、方向を変えれば経済成長しつつより良い社会にすることができる。僕の地元の川は子どもの頃ドブ川と呼ばれていたのですが、今は魚が泳げるようになるほど当時に比べて綺麗になっています。僕らが子どもの頃より環境が良くなっていることもありますよね。そういう成長の仕方ってきっとあるだろうなと。

人間って根源的に自然っていいなと思うところがあるんじゃないかなと思うのですが、まさに子どもの頃のように直感的にいいものをいいと思える気持ちに素直になり、追求できることを大切にしたいなと思いますね。

多面的であること

田村さん:情報伝達っていろんな手段がありますが、映画も1つの情報伝達手段だとした時に、多面性を大事にできることがいいなと思っています。真野さんや石橋さん、様々な方にインタビューさせていただきましたが、今日この会場に60名以上の方がいらして、ここにいるお一人おひとりとは深い話ってなかなかできないですよね。だからこそ皆さんにバックボーンの部分まで伺いお話いただくことで、映画を通してお客様にも体験や想い、感情を追体験いただけると思うんです。多面的で多角的な情報伝達ができるからこそ、観た人も一面的ではなく様々な方向から考えることができるのがこの映画のいいところだと思っています。


あなたとみつける未来

この日、会場のご厚意もあり、映画館の中でお客様同士で対話いただく時間も設けることができました。(もちろんお一人で静かに振り返りたい方はそのままお過ごしいただきました)

ここまでのトークセッションの中にも出てきたように、まさに感じたことを相手に伝えること。相手の想いを批評するのではなく受け止めること。多くの方が初対面同士という状況の中で、お話がなかなか止まらないくらい皆様がこの場で感じたことを熱心に伝え合ってくださいました。これは私たちにとってもとても嬉しい光景でした。

対話時間のあとはお客様よりご質問をいくつもいただき、全体を通して気づきあふれる時間となりました。
そしてあるお客様がこんな質問も寄せてくださいました。

「田村さんが信じていることは何ですか?」

田村さん:この質問、いきなり聞かれると難しいっすね(笑)

真野さん・石橋さん:そうでしょう?(笑)

田村さん:ポリシーという程でもないかもしれませんが、人ってそれほどいい人も悪い人もいないんじゃないかなと僕は思っているんです。そのスタンスでお話を聴いているので、相手の原点の部分まで深く伺うことで自分自身も相手に共感します。”人”を信じているんだと思います。言動の背景にはそれぞれの理由があり、聴く側がしっかり向き合えば理解できないことってないんじゃないかなと。それはすごくすごく大事にしています。


劇場を後にすればそれぞれの日常が待っています。
それでもこの場で感じてくださったことは、きっと皆様の未来につながっていると思うのです。

ー私はどうしたい?
それぞれが自分の思いに気づき、隣の人と分かち合うところから社会はきっと変わっていける。映画はあなたのそばにある。

ご登壇くださった石橋様、真野様、上映いただいたアップリンク吉祥寺様、ご関係者の皆様、そしてご来場いただいたすべての皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました!

写真・文:鈴木香里

登壇者プロフィール

石橋雄司さん
東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室 エネルギー経済グループ課長

2000年に東京電力に入社後、電力設備に関する経験を経て、光ファイバー通信事業の立ち上げから商品サービス企画、データセンター事業の強化など、多岐にわたるプロジェクトに参画。特にデータセンターにおけるエコシステム構築や火力発電所の知識体系化の構築、AI導入といったデジタル技術による事業の最適化に尽力。東京電力グループのDX戦略を確立し、現在は、研究所にてAI活用の領域拡大を推進中。

真野秀太さん
株式会社UPDATER(みんな電力) 執行役員|SX共創本部 本部長

株式会社三菱総合研究所、自然エネルギー財団を経て、SBエナジー株式会社にて再生可能エネルギー発電事業に携わる。2018年よりみんな電力株式会社(現:株式会社UPDATER)に参画。RE100企業などのサステナビリティ経営を目指す企業に対して再エネ導入コンサルティングなども実施している。2023年7月、執行役員に就任

<監督>田村祥宏
特定非営利活動法人 ブラックスターレーベル 代表理事
株式会社イグジットフィルム 代表取締役

フィルムディレクター、プロデューサーとして、映画的な演出と、個人としての作家性を大切にしたハイレベルなヴィジュアルストーリーテリングを得意とする。企画/台本/撮影/編集、映像制作の全ての工程に精通し、映画制作・ブランディングや広告・コンテンツマーケティングを中心に、幅広い演出の作品を手掛けている。2023年より特定非営利活動法人 ブラックスターレーベルを主催。ロジックでは解けない解決困難な社会課題に対しオルタナティブな選択を提示すると共に、対話の場作りや課題解決に向けたワークショップ、教育プログラムの開発・提供などを行っている。国内外のアワードを多数受賞。

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