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ラグビー4兄弟の末っ子として。 SO / アイザック ルーカス

生まれ育ったオーストラリアの街では、ラグビー4兄弟としてその存在は有名だったらしい。通称ミルキー。ミルキーがボールを持つと、何かを起こしてくれることを、観ているものは期待せざるを得ない。そしてするりするりと相手選手の間を抜いていく。その独特の間合いとステップはナチュラルに身についたものだと云う。さあ、アイザック ルーカス選手のこれまでの道のりを辿ってみよう。

やっと、僕の番が来た!

「お兄さんが3人いて、1個上のお兄さんとでも6歳年齢差があったんですね。覚えている限りでは、3歳ぐらいにはもうラグビーを見ていました。気づいたらラグビーを見ていて、庭でラグビーボールに触れていました。生まれた時からそんな感じで、自然にラグビーが周りにある状態でした。いつも見ているだけだったので、プレーできるようになった時は、『やっと僕の番が来た!』っていう感じでした」

父親は、クリケットを嗜みながらも、楽しみとしてクラブラグビーをやっていた。ルーカス一家の4人兄弟全てがプロラグビー選手となった。一番上の兄のベンは、クイーンズランドレッズなどを経て、日本ではトヨタヴェルブリッツやコカ・コーラ、マツダでプレーしている。上から2番目の兄のマットは、ブランビーズやワラターズなどを経て、最初は選手としてリコーブラックラムズに入団し、現在はアシスタントコーチを務めている。もう一人の兄は、オーストラリアの7人制代表選手だった。

「お兄ちゃんたちがやっているラグビーを見に行ったりすると、彼らのチームメイトたちがボールを投げて一緒に遊んでくれたりしていました。正式にクラブチームに入ったのは、6歳の時です」

「そのクラブはブリスベンの家の近くにあって、20歳ぐらいまで入っていました。思い出は、いろいろたくさんありますね。オーストラリアでは、ラグビーユニオン(15人制ラグビー)は9歳からタックルOKになります。ラグビーリーグ(13人制ラグビー)は年齢制限無くタックルOKだったので、土曜日はユニオン、日曜日はリーグという感じで両方やっていました」

「そうやって若い頃からタックルができたっていうのは、たぶん将来につながってるのかなと思います。高校ではラグビーユニオンでプレーしましたが、ブリスベンやクイーンズランドという土地柄でいうと、ラグビーリーグの方が人気がありました。今でもラグビーリーグの試合を見るのは好きです。リーグに触れたことの無い人が見たら違いがわからずに、あまり面白くないと思ってしまうかもしれないのですが、すごく面白いと思います」

15歳までクラブラグビーをやった後、ブリスベンの高校に入学して、学校のチームでラグビーユニオンを続ける。『GPSコンペティション』という9つの高校が参加している大会があり、高校のラグビーユニオンは、日本で云えば大学ラグビーのように熱いファンも多く人気が高かった。

「プロになる前では、やっぱり高校ラグビーは仲間も多かったし、かなり思い出深いものです」

高校時代の2016年に、一番上の兄のベンがトヨタヴェルブリッツに入団。その翌年、ベンに会うために名古屋に行く。2018年にはマットもサントリーサンゴリアスに入団。それからは、日本のトップリーグのゲームもWebで見るようにもなり、今にして思えばアイザック自身も日本との関係が始まった。

「2019年にはベンがコカ・コーラでプレーしていて、マッティ(※兄のマット)がリコーブラックラムズに選手として入団しました。まずマッティに会いに東京に行きました。ちょっと体を動かしたかったので、リコーのグラウンドに行ってマツ(※松橋周平選手)とか何人かの選手に会いました。でも、まさかその次の年に、自分がここでプレーするとは思ってもいませんでした(笑)。その頃は、オーストラリアでラグビーを楽しんでいましたのでね」

クイーンズランド・レッズ入団

高校を卒業した後、6歳の時から所属していたクラブチームに戻ってプレーを続けた。そして19歳の時に、クイーンズランド・レッズとデベロップメント契約を結ぶ。

「プレシーズンの間は、レッズのトップチームとフルで一緒に練習することができて、自分にとってすごく重要な経験になりました。それが次のシーズンに繋がりました。また何より、小さい頃観ていた選手たちと一緒にトレーニングできることにワクワクして、デベロップメントだったので失うものも無いし、毎日グラウンドに行ってトレーニングできていることを楽しんでいました」

19歳〜20歳の2年間には、U20オーストラリア代表にも選抜される。

リコーブラックラムズ入団

「高校時代に兄のマッティに会うためにリコーのグラウンドに来た時は、コーチたちとちゃんと会っていないし、マッティとパスしたり軽く走ったりしていただけなので、その時の僕のプレーをコーチたちが見ていてリコーに入ったわけではありません」

左がアイザック、真ん中がマット(右はマッガーン)

「2020年の4月ぐらいに世界中のラグビーがストップしてしまって、その間に自分の将来についてもいろいろ考えを巡らしていました。マッティが日本にいたので、彼から日本のラグビーのことをいろいろ訊いてみると、リコーブラックラムズに関してはポジティブな話しか出なかったんですね。それでGMたちと話をして入団が決まり、9月に来ることになりました。今シーズンで4年目になりますね。早いねー(笑)」

「日本に来たことも、ブラックラムズに入ってラグビーをやっていることも、すごく楽しんでいます。チームの目指すボールをしっかり動かしながらクイックでフリーな感じでプレーするラグビーを気に入っていますし、自分自身、選手としても人としても成長できていると感じています。日本のラグビーが進んでいる方向性に関しても、すごくいいと思います」

入団時を振り返って

「すごくみんなが暖かかったですね。それまでずっと親と一緒に住んでいたので、最初はかなり不安がありました。日本に行って知らない人だらけのところで生活することに怖れがあったんです。でも初日からすごく暖かく迎えてもらって、慣れるのがすごく楽でした」
 
「入ってみると、日本人選手たちの多くは社業を兼任していて、それはオーストラリアでは無いやり方なので、すごく違いを感じました。ラグビーと社業という二つの仕事をフルに廻しているのを見ていて、『彼らがそんなにできるのなら、僕ももっとできるはずだ』という思いにさせられましたし、自分ももっと成長しなくてはという、モチベーションになりました」

2022シーズンには、ベスト15に選ばれる

「プレシーズンを含めて自分が出場した最初の数試合のことはよく覚えていてます。準備万端だと思っていたのですが、最初の2試合では最後の数分は足が攣ってしまいました。試合展開がかなりクイックで、チームが疲れてきた時にいいトライが生まれたりだとか、ブレイクダウンとかはオーストラリアのチームとはちょっと違うかなと思いました。今では、自分のフィジカルレベルも上がってきたと思いますが」

「2022シーズンは、チームとしては思っていたようないい結果が出せませんでした。ですが、ポジティブでもっと成長したいと思っている若い選手が多く、それにプラスして経験ある選手もチームにはいましたので、それがいいコンビネーションになったおかげで、僕がリーグでベスト15に選ばれたと思います。個人的にはラインブレイクもできましたが、それは自分一人の力では無く、他の選手がそれぞれ自分の仕事を全うしてくれたおかげだと思っています」

「今世界中からからいい選手がリーグワンに入ってきていますし、若い選手もそのレベルに追いつくようにやっていかなければならないので、日本のラグビーとしてもいい流れになっていると思います」

自分の強み

「ランニングゲームは、僕の強みであると思ってますが、他の部分ももっと伸ばしていかなくてはなりません。もちろんランニングゲームもまだパーフェクトでは無いので、もっと伸ばしていきたいとは思っています」

「僕のステップはクイックでは無いと思いますが、ユニークかもしれませんね。小さい頃からボールを持つのがすごく好きで、持って動いていたら自然に身に付いたのかもしれません。例えば100m競争をしたら、他の選手と比べてそんなに早いわけではないので、自分ではよくわかりませんが、加速のところがユニークなのかなと思います。もちろん、個人練習をして常にもっと良くしようとはしています」

「ポジションに関しては、ヒューワットHCともいろいろと話し合っていますが、スタンドオフかフルバックが能力を活かせるかなとは思っています。

ボールを持っている時間をなるべく長くして、スペースのあるところでフリーに動けた方がいいと思っているので、フルバックであればそういったことを表現しやすいと思っています。

でもスタンドオフだと求められるものが少し違って、フォワードとも絡みながらプレーできるので、それも好きです。自分にとってのベストポジションは、僕自身も探っているところです。ヘッドコーチと相談しながら、自分自身がどういうところを成長させなければいけないか理解しながらやっています」

日本での暮らし

「日本での暮らしは、すごく気に入っています。人も文化も食べ物も大好きです。一番の後悔があるとしたら、今年4年目になるのですが、日本語がまだまだわからないことですね(笑)。言葉のところはもっと勉強しなくてはなりませんが、それ以外のところは楽しんでやっています」

ラグビーへの想いとファンへの感謝

「高校を卒業した後に、少しの期間ですが経理会社でオフィスワークをしていた時期があって、その後にフルタイムのプロラグビー選手になりました。プロラグビー選手になってからは、毎日こういう環境で仲間と一緒にトレーニングをして成長できることが、恵まれているな、ラッキーだなと感謝しています。
 
ブラックラムズに来て感じたのは、サポーターやファンの方がすごく忠実で、オーストラリアのファンとはちょっと違うなというところです。ブラックラムズファンの皆さんは、いい時も悪い時も変わらずスタジアムに来て応援してくれます。サポーターの皆さんの存在やその声援だとかは、すごく心強く思います。その応援に対して、僕たちもプレーで恩返しをしたいと思っています」

ブリスベンの地元で有名だったラグビー4兄弟の末っ子が、何かの縁があってこうしてブラックラムズを代表する選手の一人となってくれた。まだ24歳。これからどこまで大きく羽ばたいていくか、みんなで見守っていきましょう。そしてファンの皆さま、ぜひ試合観戦に来ていただいて、ミルキーことアイザック ルーカス選手に大きな声援を送ってください!



 




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