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【ネタバレビュー】シンプル・フェイバー(Amazonプライム)

原題も「Simple Favor」でめずらしく日本語タイトルと同じです。そのくらい人口に膾炙したフレーズですね。あえて訳せば「ちょっとした頼み事」といったところでしょうか。映画内でのSimple Favorは本当にちょっとした頼み事です。かつて書いた小説が大ヒットしたおかげで今でも大学教員として裕福な生活をしている夫と暮らすエミリー(ブレイク・ライヴリー=ゴシップガールのセリーナ!)が、死別した夫の保険金ですべての時間を子育てと学校行事にあてるステファニー(アナ・ケンドリック)に、一日だけ子供を預かってほしいとちょっとお願いします。ところが、エミリーが帰ってこなくて、さあ大変。ここからミステリー映画の様相を呈してきて、なかなかハラハラドキドキするのですが、展開はそう驚くものではありません。テンポのよい編集と、アナ・ケンドリックとブレイク・ライヴリーの存在感で引き込まれるのですが、ミステリーとしての目新しさはない。

ということで、ネタバレ全開と行きましょう。エミリーが子どもを残して蒸発してしまったので、ステファニーはエミリーの子どもの世話を見続けることになります。必然的に、エミリーの夫ショーン(ヘンリー・ゴールディング)との距離が近づき、恋愛関係に。作中、エミリーが「ベタな展開ね」なんて言ってますが、まさにベタベタ。そんなとき、ついにエミリーの行方が判明します。エミリーは池の底にいました。ショーンが顔や手首のタトゥーを確認。DNA検査でもエミリーと特定されます。

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ところがどっこい。なんとエミリーはエミリーでなかったことが判明。本名はホープ・マックランデンで、フェイスという双子の姉妹がいました。そして、この姉妹は暴力的な父親を火事に見せかけて殺害し、逃亡していたことが判明します。途中で、双子の姉妹と別れ、再開を誓いますが、約束の場所にフェイスは現れませんでした。その後、ホープ=エミリーはニューヨークで新進アーティストの専属モデルをつとめていました。ところが、エミリーに首ったけになってしまったアーティストは、アートマーケットから求められないエミリーのポートレートを描くことに没頭し、いまでは落ちぶれてしまっています。人の生き血を吸う女性なんですね。それでも幸せな時間を過ごせたのならいい気もしますが、殺されたらたまったものじゃありません。同様に、エミリー=ホープの姉妹フェイスも生き血を吸われてしまっていました。ある日、薬物依存症になったフェイスがホープの前に現れます。そして、お金を要求されます。これもまたベタベタ。本当にベタな展開のオンパレード。でも、編集のテンポで飽きさせません。役者が揃っているとスタッフのスキルも高いのでしょう。さすがハリウッド。結局、エミリーは姉妹のフェイスを溺死させてしまいます。池から上がった死体はエミリーではなく、DNAもタトゥー(実家から逃げたときに二人で同じ柄を彫った)も同じ双子の姉妹フェイスだったのです。ベタ!!!

さて、このベタベタな映画を見るに足る作品たらしめている点についてです。夫の保険金で暮らしながら、すべての時間を子どもと学校行事のために割く「いいお母さん」の典型であるステファニーは、手軽な料理のレシピを動画配信していました。そして、エミリーの嘘に気づいてから、この動画チャンネルを使って、エミリーを追求していくのです。自意識の高いエミリー(いや、セリーナ・ヴェンダーウッドセン?)ですから、もちろんエゴサーチに余念がありません。エミリーが自分の過去を暴きはじめていることを知ります。そして、ついにエミリーが夫ショーンとステファニーの前に現れます。ほとんどミステリー映画のパロディかと思うほどに、ベタベタな展開なのですが、ステファニーが動画配信者(ユーチューバー)であることだけが、この映画を映画足らしめていると思います。

書いていなかったので、ベタなことをもう一つ。実は、ステファニーもベタです。エミリーの言葉を借りれば「Brother Fucker ブラザー・ファッカー」。実は、義理の兄弟を性的関係を持ったことがあるのでした。そのことを告白するくらいに、ステファニーとエミリーは仲良しだったんですね。仲良しが喧嘩すると手がつけられなくなるのもベタです。でも、考えてみれば、「Brother Fucker ブラザー・ファッカー」はぜんぜんベタじゃないか。失敬。

さて、エミリーと再会したショーンとステファニー。人の良い自分を裏切っていたとブチ切れるステファニー。ショーンに食って掛かります。そして、拳銃でドカン。流血する夫を横に。エミリーは涙を流して自分の罪を告白します。と、これがステファニーの作戦。家には盗聴器が大量にしかけてありました。ショーンが撃たれたのも演技。ところがところが、エミリー様はお見通し。「なかなかいい考えだったわね」ってなもので、今度はエミリーが実弾でショーンを一発。でも、「父親と姉妹は殺せても、同じ男と寝た親友は殺せないわよね。」めでたしめでたし。

と思いきや、ステファニーはカーディガンのボタン型カメラで一部始終をライブ配信していたのでした。ブラザー・ファッカー!!!

収監されたエミリーはコーンローヘアーにして、刑務所でうまくやってます。ショーンはついに新しく小説を書きましたが、評判は悪い様子。そして、ステファニーは100万人を集める巨大なユーチューバー探偵として成功しています。元から殺人を犯していたエミリーも、運だけで才能はなかったショーンも、素敵なお母さんのステファニーも、結局なにも変わることはできなかったのです。

この映画はベタベタです。ミステリーでもありますが、コメディに分類すべきでしょう。すべての仕掛けがあまりにベタでパロディになっています。そして、それがこの映画の仕掛けなのです。仕掛けが仕掛けになっている。ちょっとポストモダンな匂いがしますね。そんなところも世界をおちょくっている気がして爽快ですらあります。ただ、そんなベタな映画の中で一つだけ異なるのが、ステファニーが動画配信者であることです。彼女だけが、「シングル・ハウスワイフ」に戻るのではなく、ユーチューバー探偵に変身します。探偵とは、人々が人生に張り巡らす「仕掛け」を解きほぐす者の別名です。つまり、ステファニーは配信という技術によって、仕掛けが仕掛けを呼ぶポストモダンのパロディ世界から抜け出すことができた。しかし、そのネタはやっぱりベタなものでしょう。結局、わたしたちはベタにしか生きられない。その事実を、愛することができるのか。そういう単純なことが問われているのだと思います。

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