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超短編小説

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紗織

紗織

そうか、今日は新月か。

やっと家の周りの雪が溶けたばかりのまだ肌寒いこの時節に、紗織はカラカラと窓を開け、お風呂上がりの熱った体を冷風にさらした。

いつもは、天高く登った三日月や満月がぼんやりと辺りを見回せる程度に照らすのだが、闇夜の今日は月明かりもなく、すぐそこにある庭先から聞こえる、自分の存在を私に教えるかのようにガサガサと葉を揺らしている野良猫の姿もまた、見ることは叶わなかった。

久し

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