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餘部橋梁物語 第19話 嬉しい話千里を駆ける

みなさまこんばんは、明日から実は新展開になります。(^^ゞ

知事のもとに届けられた、駅設置の知らせは、その日のうちに餘部集落の村民が知るところとなりました。

それはどういう経緯からだったのでしょうか?

よろしければ、どうぞご覧くださいませ。

> 「やった、餘部に駅が出来るんだ、これで餘部の橋梁を渡って歩いていく必要もなくなるんだ。」
> 小躍りしたくなる感情を押し殺して、一人もう一度その手紙を読み直すのでした。
知事は、少し呼吸を落ち着けてから、秘書課長を呼び出し、餘部駅の申請が国鉄で正式決定し、国鉄総裁から直々に手紙がきたことを告げました。
秘書課長も実は、知事に渡す前に知っていたのですが、いささかオーバーアクション気味に、驚いて見せるのでした。中々この秘書課長は狸のようですね、でも目が細いから狐かな?

冗談ですが。(^-^;

秘書課長は、少しアクションが大きかったかと反省しましたが、知事は特に気にする風でもなく、そのまま残った書類に目を通し始めたので、執務室を辞することとしました。

 さて、知事はどうしたかというと、引き続き書類に目を通していましたが、この時期は来年度予算の準備が始まるのですが、知事にまで上がってくる重大案件は少なく、半ば機械的に決裁の判を押していくのでした。

「やれやれ、軽微な文書は部長決裁で文書係長が処理してくれているが、甲決裁の文書がこんなに出てくると読むだけで大変だな。」

 分厚い文書の一つは、地方を結ぶ県道整備の上申文書でしたが、延々と続く利権者との交渉などが綴られているだけの殆ど中身のない文書に少し嫌気が差したのでした。

「そうそう、餘部の駅が出来ることを香住町長に連絡しておかなくては。」

知事は独り言をつぶやくのでした。

書類を見すぎて目がつかれたのでしょうか、メガネをはずして目を押さえています。

そして、しばらくすると電話機を取り上げ、ダイヤルをまわし始めました。

しばらくすると、相手が出たようです。

知事は、電話の相手に「香住町長につないでくれたまえ」

そういって、電話を切ってしまいました。

しばらくすると、知事の机の電話が鳴りました。周りを威圧するかの大きなベルの音です。

「はい、もしもし」

 「お待たせいたしました、香住町役場につながっております。」

いまでこそ、ボタン一発で相手につながりますが、当時ダイヤルで直接つながるところの方が少なく、電話交換手を経由して電話をつないでもらうのが一般的でした。

「もしもし、聞こえますか。」

知事の呼びかけに、比較的はっきりした声で。

 「はい、よく聞こえます。」

「兵庫県知事の坂本です、以前お伺いしたことを覚えてくれていますか。」

面食らったのは、香住町長のほうでした、まさか雲の上の人である、知事が役場にきたことも奇跡ならば、直接知事が電話することなど、誰が信じることでしょう。

町長、またまた、電話の前で直立不動の姿勢で聞いています。

  「は、失礼いたしました、その節は何も出来ずに申し訳ございませんでした。何か粗相でもございましたか。」

 町長は、もうひやひや、緊張した顔からは、さほども暑くないのに汗が・・・・

「いやいや、実は、本日国鉄から正式に餘部に駅を設置するという文書が到着したので、取り急ぎ電話をしたと言う次第です。」

町長は、餘部、駅、その単語だけは緊張のピークにありながらも辛うじて理解したようでした。

 「餘部に駅ですか?」

町長は、恐る恐る聞き返しました。

「そう、餘部の集落に駅が設置されることが決定しました。」

町長は、電話機の前でありがとうございました。体は90度近くもお辞儀をしています。

きっと、傍で見ていた人には滑稽に写ったことでしょう。

さほど広くない町役場ですから、餘部に駅が出来ると言う話は、夕刻には町役場の職員が知るところとなりました。

町長が電話を受けたのが昼前でしたから、当時としては最速で?情報が広がっていきました。

そして、その情報は今度は夜の飲み屋での話題へと広がっていくのです。

とある飲み屋では、お上を前にほろ酔い機嫌の常連が何人か酒を飲んでいます。

そこには、町役場の職員も何人かまぎれていました。

  その職員は、酔った勢いもあり。

 「餘部の集落に駅ができるんだってさ、これで、線路を歩かなくても汽車に乗れるんだ。」

 大きな声で、それこそ店中に聞こえるような声で話したのでした。

仲間と呑みにきていた太助もその一人でした。

「餘部に駅が出来るのか、噂では聞いていたけどな。これはおっかあに知らせてやらんといかんなぁ。」

そう呟くと太助は、「みんなすまねぇ。先に帰るけ。」

そういって、店を足早に出て行くのでした。

なお、この続きはまた明日の夜にでも。

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