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川崎pt.1 人間の噛み跡みたいな世界を観測した日

みんな元気?調子どお?

20230409 どこか’深い’ところへ行きたい日だった。往々にして思考を巡らせる時、視界に人間がいない状況で虚空を見つめて哲学したい。多摩湖とかその辺を検討していた。


昔々、夜の東扇島付近ドライブしていたとき、カーナビをみて助手席の女の子が言っていたことを反芻した。
’この辺の地形って地図で見るとなんか歯形に似てる’

その時かけていた、ディアンジェロのブラウンシュガーのドラムがなんとなく工業団地で聞こえる金属の擦れる音に空耳したのもあって、行き先は決まった。

千住の快活クラブを出ると、川崎までピストを走らせる。この辺はティーンエイジャーの頃よく派遣の夜勤バイトで来ていたからノスタルジアに浸れる。

16時。夜行の交差点。地名が夜中も煌々としている京浜工業地帯を示唆しているようでクールだ。
この時既に街は煙を吐いていた。旭化成やJX日鉱日石エネルギー、太平洋セメント。有名な企業の羅列。まるで株価の動向を確認するサイトの様だと思えた。

整列するパイプには毒性ガスが流れているらしい。無機物であるのに、人体の不思議展でみた人間の胃や腸といった臓物の様にも感じられるのは俺だけだろうか。


昔のっていたのに似てる角目一灯のネイキッドタイプのバイクが俺を追い越すと気持ちが過敏になる。
トラックや重機の唸るような太いエンジン音と多分身体に悪いであろうガソリンの臭い全てが気持ちいい。

コンビナートをさらに奥へ、京浜運河を超えるための海中トンネルがある。
約1キロメートルの直線のトンネルだ。一定の間隔でカメラや排水装置などの機械が反復する、またこれも一定の時間で反復する、'自転車を降りてください'という女性の声の放送。トンネル内の秩序を保つための情報しかない全てが究極の無機質である。トラブルでも起きない限り俺には何の意味もなさない情報たち。実に気楽な関係性だ。

16時半、無限に続く様に感じられる海底トンネル。自分の立ち位置、前後左右がわからなくなるコンフューズ。スーパーマリオ64の城の中で歩いても進めない場所のギミックやあれの酩酊感に近しい。
空想の中みたいな空間に出会えて嬉しい。
ふと横を見ると水たまりがあった、ここは海の中なんだよなと一抹の不安で我に帰る。

ようやく東扇島に着く。マリエンという地上10階から京浜工業地帯を一望できる施設や東公園の二つが大きな見所。企業の物流拠点やオフィスがありコンテナなど立方体・直方体の集合体の様な人工島になっている
そういや2013年の横浜レゲエ祭はここでやったよな。そう、東公園は対岸の工場群を全体的に見れる。
その様子を敢えて形容するなら悪のシンデレラ城。無骨で剥き出しの臓物の様な建物のマス。煙突から噴き上げる火焔の音は対岸にまで達していた。
17時、最も狂っていて好きな点なのだが、汚れた黒い海はゆるく波を描いているが、その全てが予測できないほど全方向へ流れている。淀みと流れの中庸の様な海。サイケデリック。
マリエンからスバルの新車整備モータープールを見下ろす。エクセルのマス目の様に整列された車。
今日は何となくズームアウトで俯瞰したい気分だった。

傾斜する太陽の淵を肉眼で捕捉できる頃合い。光の塊の成す切なさにはナットキングコールのアンフォゲッタブルかロバートグラスパーが似合うなと思って流す。
ピアノの旋律がヴァイブスの全てを滑らかにしてくれた気がした。

空の色が青からオレンジ、ピンク、紫と変化する。一瞬たりとも同じ色はない。なにせある人曰く白だけでも200色以上存在するのだから。色の変化とは生きることなのかと思い記す。
オレンジ色に縁取られた工場群や人工物あらゆるものがシルエットになっていく、自然を侵食する人間の業を想うと、むしろこちらの方が歯形の様に感じた。80パーセントの夕焼け

18時半、辺りはすっかり暗くなった。
海の色は写真で切り取ったように滑らかさを失って固って鈍い色のプラスチックの塊の様だった。熱海の美術館で見た、杉本氏の海景シリーズを見た時、海の色がフリーズドライされていると思った。
色が冷凍されるとどうなるんだろう。前述したように色を軸に世界を観測すると保存された色とはパッケージされた死なのかもしれない。



昔、バイクの免許取得と車体購入のためにアルバイトをしていた水江町に行きたくなった。
彼女がいう歯形の歯茎の部分を真っ直ぐピストが走る。
「◯◯冷凍」当時ティーンエイジャーだった俺が考えうる最も効率のいい金稼ぎは夜勤の体力仕事だった。
フリーズについて考察していた俺にとってはここに辿り着いたのは必然だったのかもしれない

市営バスという奴隷船から吐き出されて、セブンイレブンに出荷される冷凍食品やアイスのサプライチェーンの倉庫へと吸い込まれていく。1時間も働けば俺の汗を帯びた金髪はシャーベット状に凍っていた、庫内の温度はマイナス5度に保たれていた。

倉庫内を往来するフォークリフトが動作していることを周りに知らせる音はディストピア感を増していた。最初の2回は同級生だった浅間と働きに行った。
ギャラを12,000円程度受け取る。元プッシャーのにいちゃんとIce cubeの話題で盛り上がる。
この人と現場被る時は楽しかったし何より話しかけてくれたことが嬉しかった。

現場の終了時間は26時であった、当然、水江町から川崎駅までのバスはなく、デニから単車を借りれない日は徒歩1時間半かけて川崎駅まで歩く。いつだって煙突は煙を吐いている。

道中、タクシーの運ちゃんや物騒なヤンキーたちが溜まっている公園を横目にバックロジックやアイデアのビートを拾ったiPODから流す、冷凍倉庫にいたので常温の物体に触れた時の感触が気持ちよく、体温を取り戻す。道端の落書きの数で測るなら川崎はそれなりに治安が悪いところなんだな。
空が白んできた頃、街の空気が少しづつ浄化されてきた気がするのが少し嫌で、俺は銀柳街の自販機の前でタバコを吸った。

冷凍⇨死にながら生きること、色彩の変化⇨生きること。なのかと一旦俺なりの問いを想起する。
今日は色々な案とヒントをストックできた。こういう’宿題’を大真面目にかつ緩く考えられれば良い。
誰かと会話するとき、俺はなるべく義務教育で獲得した’1メートルは100センチだ’、というみんなで共有した感覚を用いる。学校で漂白剤のプールにぶち込まれたんだから、その手に入れた調和のための手段は絶対に無くならない。

逆に俺は一人でいる時、俺しか持っていないオリジナルの定規で世界を観測する。
人とは別の感覚を持ち合わせれば普通ではない特別な誰かになれるといまだに思っている。
そのオリジナルの定規の形が近い人がいてもいい、そういう人に出会った時嬉しい。

ずっと色々なものに自分の定規を当てて世界を観測して意味を持たせていきたい。
それが相互を監視して、マウンティングして無自覚な過剰正義感が蔓延する息苦しい社会に対する俺なりのささやかな反抗であり生き抜く術。

たまーに工業団地行きたくなる。



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