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#2.26 パパ活編:謎の女、純蓮(すみれ)さん②──地獄のランチ

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◎物語の説明とあらすじ
妻とはセックスレス、ここ数年は婚外恋愛の出会いもない40男、浦野けいすけ。2児のパパ。風俗以外でセックスできない「性の砂漠」に苦しむなか、昨今の自粛ストレスが加わり、「今までしたことのない経験がしたい」と、パパ活に手を染める。そんなアラフォー男の性と愛のサバイバル物語。
すでにパパ活アプリをはじめて2週間以上経ち、当初の興奮は冷め、心に多少の疲れを感じていた。そんなとき、パパ活アプリ開始の翌日に繋がり、文通のような心のこもった丁寧なメッセージを重ねてきた女性と会うことになったのだが……。


◆苛立つ2人と会話殺しのパーテーション


2人は、最初に顔を合わせたときに互いに感じた「少し嫌な感じ」を隠しながら、いそいそと店に入った。すると、さすがカフェトロワグロ。コロナ禍の「まん延防止等重点措置」下にあっても、ほぼ満席である。

僕らの席は窓側に用意されていた。僕は、窓を背に座り、向かいの席を彼女に勧めた。

そっちのほうが、窓の外の景色が見えますからね

すると、彼女は、こう言った。

景色って言っても、ビルしか見えませんけど(笑)。それに、私、学校がこの辺りだったので、この景色は見慣れているんです

(なんだ、このやろう)

これが、2週間近くにわたり、まるで文通のように丁寧で心のこもったメッセージを交わし合った女性なのだろうか。メッセージの文面からにじみ出ていた、優しく温かい感じは何だったのだろうか。ちょっとむかっ腹が立ったが、僕は気を取り直した。

そして、席に着き、無難な話を振るのだが、彼女は「え?」と聞き返すばかりである。また、彼女の話も、断片的にしか聞こえない。

そう、名店トロワグロの名を冠したこのカフェは、バカ真面目なことに、テーブルの中央にものすごい大きさのパーテーションを置いているのである。しかも東京都の推奨通りの、厚さ5mm以上はあるかと思われる硬質のやつである。だから、互いの話がほとんど聞こえない。

(株式会社エムズコーポレーション『パーティション取付型 会話補助システム NF-2』http://www.ms-corporation.jp/app/Blogarticlelistより)


互いにいらだち、僕は店員さんに「これ、なんとかならないの。話できないよ」と聞いた。僕は、普段は店員さんには丁寧なのだが、苛立っていたのである。すると、店員さんからは「東京都の指導通りですので」という返事。しかも、少しずらすこともダメと言う。

そこで、大きな声で話すのだが、それでも彼女にはあまり聞こえない。最初の悪い印象をトークで変えるどころか、互いにますます苛立つばかり

「大体、お前がこんな店を指定してくるだろう」と思ったが、それは八つ当たりである。しかし、この状態を予想して、予約のときに確認しろというのも無理である。だから、僕のせいでもない。行き場のない、腹立ちがたまる一方である。


◆これ以上ないバッド・コンディション


そんなコンディションのなか、彼女から聞き取れた話は、3か月ほど前まで、長く続いていた男性がいて、何かのオーナーで、とても良くしてもらっていたが、別れてしまった。仕事が忙しくてなかなか動き出せなかったが、もう一度探してみようと思ったとのことである。

彼女は仕事については、「まだ言えない」と繰り返した。プロフィールにも、信頼関係ができてから、仕事のことを話しますなどと書いてあった。彼女の雰囲気から想像するに、人前に出るアーティストのように思えた。たとえば、少々著名なバイオリン奏者などである。それだけのオーラがある。


しかし、これだけ聞くのに、何度も聞き返して、やっとというバット・コンディションである。彼女の質問に対する僕の答えも、半分ほどしか彼女の耳に入らない。初回の顔合わせで、これほど最悪な環境はないだろう。

互いに苛立ちは高まるばかりで、僕はとうとう、店に入って20分ほどで、匙を投げてしまった。最初から互いの印象が悪いし、それを取り返す術もない。「縁がないのだ、どうでもいい」と、思ったのである。


さらに腹立たしいことに、この店はランチコースだった。20分で匙を投げても、店を出る訳にはいかない。僕の思考は、残りの時間をどう有効に使うか、に向いた。彼女と今後、二度と会うことはないだろうが、せめて、今後の身になる話をしたいと思ったのである。

彼女がどんな人で、なぜパパ活を始め、これまでどんな男性と会って来たのか、それだけ聞けば、僕の今後のための材料になるだろう。また、こんな状況になってしまったのだから、もうこの顔合わせは失敗と割り切り、腹を割って話したいと思ったのである。そう、考えて、僕は、顔合わせの定石的な世間話から、話題を切り替えようと試みた。


「こんなことになっちゃって、残念ですが、まだメインも来てないし、残りの時間、ざっくばらんに話しません」

というと、彼女は、「そうですね。あ、けいすけさん、今、お仕事はリモートですか?」と言う。この段階で、それを聞くか。僕の意向が通じないのだろうか。やはり、本当に合わない、そう思って、僕はさらに苛立った。

今さら、そんな話はいいんじゃないですか(苦笑)

そんなこと、言います?(怒)

さらに険悪なムードになった。何だ、この状況は。

僕は普段、苛立つことはほとんどないし、特に女性には丁寧なタイプだったはずである。

今日は、何もかもが最悪だ


◆東京都の思惑通りの黙食ランチ


「私、いつもはたくさん話すんですよ。こんなこと初めて……」

「僕だって、そうですよ。今日は、何て言うか……」

「長くメッセージやりとりしましたね。それなのにこんな感じで残念です」

「私だって、そうです。残念ですよ……」

そう言った後、僕らは少ししんみりした。


しかし互いに、これ以上、話を続ける気にはならなかった。


僕たちは諦めて、黙々と食事を平らげることにした。こんな状況だから、食事も不味いったら、ありゃしない。いくら名店の料理だろうが、楽しく食事ができなければ、味などしない。忙しいなか、会社を抜け出してこれである。決して、彼女が悪いわけではない。これは、何かの天罰だろう。


店に入店後、40分。やっと、最後のコーヒーまでたどり着き、僕はそそくさと会計に向かった。彼女の「ごちそうさまでした」を背中越しに聞き、ちょっと振り返って、「今日はありがとうございました」と言って、そそくさと会社に戻った。

パパ活中、一番、疲れた会食だった。

しかし、彼女は、いったい何者だったのだろう。ほとんど何も聞けなかったが、あのオーラと佇まい。今後、何かのポスターや、雑誌、テレビなどで見かける機会があるかもしれない。

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※2、3枚目の写真はO-DANの無料素材。

ネットで検索したら「ネット乞食」という言葉に出くわしました。酷いこと言う人、いるなー。でも、歴史とたどれば、あらゆる「芸」は元々「乞食」と同根でした。サーカス、演芸、文芸、画芸しかりです。つまり、クリエイトとは……、あ、字数が! 皆様のお心付け……ください(笑) 活動のさらなる飛