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【雑記】Are you real?


◆相席バーで出会った空子ちゃん


アメリカのジャズ界の巨人の1人で、「モーニン」や「チュニジアの夜」で有名なアート・ブレイキーの “Are you real?”というナンバーが好きである。和訳すると、「君、それ、本当?」というニュアンスになるだろうか。少し哀切を帯びた、上品でモダンな曲である。


この曲を聞いて、彼女のことを思い出した。
半年ほど前に相席バーで出会った、空子(くうこ)ちゃんである。

相席バーには不釣り合いな、擦れた感じのない、清楚系の美人だった。背が高くて細身で、色白。宮崎あおいに少し似ていた。年齢は25歳という。

とても明るい性格で、気遣いもできて、話していて楽しかった。

岐阜の出身で、地元の大学を卒業して名古屋で就職し、最近、転職で東京に出てきたそうだ。都内のIT系の会社でWebデザイナーとして働いているという。東京での生活は楽しく、仕事も順調だと言っていた。

僕らは連絡先を交換し、「別の日にご飯でも食べよう」と言って、その日は別れた。


◆最初の違和感


彼女が「うなぎが大好き」と言うので、2週間後くらいに、新宿のうな鐵に連れて行った。新しい「はなれ」のほうである。うな鐵は、オーソドックスに美味しいので、最初にはちょうどよいと思った。

待ち合わせ場所に現れた彼女は、ベージュのパンツに、白いニット、ライトグレーのコットンジャケットという装いで、都会的でシンプルだった。

しかし、僕には違和感があった。相席バーは暗くて分からなかったが、彼女の顔をよく見ると、表情がほんの少し不自然である。とくに、目のあたりが人工的に作られた、という印象を受ける。ぱっと見は分からないが、かすかに整形のにおいがする。

僕は、整形が苦手なので、彼女とはご飯以上はないな、と思った。

彼女は、うな重ではなくひつまぶしを頼んで驚いたが、「美味しい」「美味しい」ととても喜んでくれて、会話もお酒も楽しく進み、別れた。

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彼女の違和感はそれだけではなかった。

お互い会社員ということで、しかも業種が少し近いこともあり、リモートワークのことだったりデザイン管理のことだったりと仕事の話をするのだが、彼女の話にはどうもリアリティーがなく、内容も取ってつけたようで薄っぺらかった。

別に詮索する気はないのだが、本当は昼職ではないのではないか、会社員をしたことがないのではないか、そんな思いが去来した。


◆2度目の彼女


最初の会食からひと月後くらい、ちょうどタイミングが合ったので、今度はちょっと通好みの東新宿のうなぎ屋に行くことにした。僕の新規開拓に付き合ってもらおうと思ったのである。

その日の彼女は、なんというか、都会的なオフィスカジュアルではなく、少し夜の匂いを感じさせる格好だった。とくに派手だったり、露出したりしているというのではなく、普通の装いではあったが、「匂い」が違った。


東新宿のうなぎ屋は、うなぎを少し固めに焼き、タレはあっさり目という、いかにも食通が好みそうな店だった。すごく美味しかったが、僕の舌には、うな鐵の方が合った。しかし、コースについてきた刺身や和え物が、これまで食べたことがないほど美味しかったので、また行きたいと思う。

彼女は、また「美味しい」「美味しい」と食べてくれた。

僕はそのときちょうど、Web動画の編集ツールや、Webデザインのテクニカルなことで分からないことがあったので、彼女に聞いてみることにした。まだ彼女がWebデザイナーということを7割くらい信じていたからである。

試すつもりは全くなかったのだが、結果的にはそうなってしまった。彼女は基本的なことも全く分からない様子だった。僕は、かわいそうなことをしたと思い、すぐに話題をかえた。


2人が座った席は、カウンターだった。楽しくお酒を飲んでいると、彼女も少し酔ってきたのか、笑いながら僕の肩を叩いたり、触れたりしてきた。その叩く仕草や、触れ方は、普通の女性とは明らかに違う、夜職の女性特有のものだった。

彼女と会ったのは、これが最後になった。

なかなか次の腰があがらず、予定を聞かれても返事を先延ばしにした。
今から2か月ほど前、「まだ忙しいかな……」というLINEが来たが、返事をしなかった。

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別に彼女に夜職の匂いがしたから、会わなくなったのではない。どんな仕事だろうが構いはしない。

彼女は素直で明るく、気遣いもできて、何かを隠している様子を除けば、とてもいい子だった。

ただし、彼女が「別の自分」を演じている状態のままだと、深い話ができない。どうしても、薄っぺらな世間話だけになってしまう。別に会いたい女性が多くいて、時間もお金も限られているなかで、それ以上会いたいは思えなくなってしまったのである。

また、整形が苦手な僕が、彼女とそれ以上の関係に進む気になれなかったのも、会わなくなった要因の1つではある。


◆彼女の願い?


彼女の岐阜の実家には、大きな庭とテラスがあり、ゴールデンレトリバーがいて、彼女はその犬が大好きだという話を聞いた。彼女のLINEのヘッドは、洋風のおしゃれなテラスの上で、フランス風の高そうな椅子に座るゴールデンレトリバーの写真だった。まるで、おしゃれなドッグカフェのホームページから持ってきたような写真だった。

彼女は、地元の国立大学を卒業したと言った。「僕も国立だったよ」と言ったところ、大学の話をしなくなった。


彼女の本当は、なんだったのだろうか。

いや、そんなことはどうでもいい。

彼女の話には、彼女の夢や希望が詰まっていたのだろう。

彼女のLINEに返信していないことに少し心が痛みつつ、彼女が東京で、少しでも自分が望む生活ができることを願うのみである。

そんなことを、日曜日の夕方、新宿歌舞伎町のルノアールで、アート・ブレイキーの “Are you real?”を聴きながら考えた。


鬼塚@フリーアイコン(Twitter⇒@mahhi2027)さんの作品



ネットで検索したら「ネット乞食」という言葉に出くわしました。酷いこと言う人、いるなー。でも、歴史とたどれば、あらゆる「芸」は元々「乞食」と同根でした。サーカス、演芸、文芸、画芸しかりです。つまり、クリエイトとは……、あ、字数が! 皆様のお心付け……ください(笑) 活動のさらなる飛