シャイニング

ホラーもnoteも初体験。

 幼い頃から「怖いもの」がとても苦手でした。

 一口に「怖いもの」といっても様々ありますが、単純に幽霊的な怖さ、人形などの不気味な怖さ、大きな音による怖さ、排水溝を見たときや暗闇に感じる未知への怖さ、そんな考えうるすべての「怖いもの」が、幼い僕に対して牙を向いているように感じられました。

 ある程度歳を重ねた今でも、幼いころの「怖かったもの」というのは恐怖感とは言わないまでも、うっすらとした嫌悪感は感じています。そのためか、「恐怖」をエンターテイメントととして楽しめる人の感性がよくわかりません。お化け屋敷、肝試し、怪談話、廃墟巡り、コックリさんなどの儀式……etcどれもこれも通ってきたことのない僕が、遂に初めてホラー映画に興味を持ちました。

 その映画というのが『ミッドサマー』。この映画は、スウェーデンの奥地で90年に一度開催される祝祭が舞台で、タイトルにもある通りミッドサマーつまり、「夏至」がテーマになっております。スウェーデンの夏至というのは白夜なので、光量的な意味で暗いシーンがほとんど無く、それどころか真っ白の衣装や青空、美しい花々など色彩豊か、なのに、おそろしい。といったホラー映画の中ではかなり異色な作品なのです。しかし、この映画を見るにあたって、「ホラー映画の予備知識を一切持たずして、『ミッドサマー』を鑑賞しにいくのは甚だ失礼かもしれない。まるで、『カイジ』を友情確認ゲーム編から読み始めるのと同義ではないか」と謎の使命感に終われるように、有名どころかつポスターのインパクトがあまりにも強い映画『シャイニング』を、僕が初めて見るホラー映画として捧げました。
 

 アメリカのモダンホラー小説家で『IT』でも有名なスティーヴン・キング氏が原作で、『時計じかけのオレンジ』などで「狂気」の巨匠とまで呼ばれたスタンリー・キューブリック氏が監督を手がけた作品がこの『シャイニング』。

 あらすじは、小説家志望のジャック・トランスが冬の間閉鎖されるホテルの管理人の仕事を請け負い、一家でそのホテルに住むところから物語は始まります。このホテルの以前の管理人が孤独に心を蝕まれ、自分の妻と娘二人を斧で殺してしまったという事件があったため、ホテルには強い力が宿ってしまい、ジャックを狂気の淵へと落とし込んでしまう。というものです。余談ですが、ホラー映画のあらすじってどうも薄っぺらく見えがちですよね、まぁ、ホラーをどう映像で表現したのかが主題だから仕方ないのかな。

 この映画ですが、とても主観的な感想を一言で表すとすれば、「見ている時はそんな怖くなかったな」です。これは自分が今まで、ホラーというものを避けてきているので、僕が怖いものに耐性があるのか、それとも、この映画自体がそこまで怖くないのかはわかりませんが、どちらにせよ「そんなに怖くない」というのが見ている時の率直な感想です。

 しかし、この映画はホラーではなく、モダンホラーなのです。とにかく怖いものを映像としてバンッと見せるのではなく、ジリジリと「なんとなく怖いな、不穏だな」という焦らされるような感覚、そしてその「焦らし」が最高潮に達した時に映し出されるものは、ボディブローのように、後を引いて怖さが伝わってきます。映画を見終わった後、日常の中にいる僕をいつ襲って来てもおかしくない。そんな体験ができる映画でした。

 しかし、この映画ただ「怖かったな」だけで終わらせるのは勿体無い。映像の「美しさ」にも注目して見ていただきたい。左右対称を極限まで追求した映像は、どことなく感じる違和感や不自然さ、人工的な感じによって「美しさ」と「恐怖」が黄金比で表現されています。また、ステディカムという手ブレを一切感じさせないカメラで撮られた滑らかな映像は、カメラで取っているということを忘れさせるくらい、リアルな目線で撮影されています。
 

 そんな「狂気」「恐怖」「美」を追い詰め、こだわりにこだわり抜いた映画『シャイニング』をぜひ、見ていただきたいです。僕は早く『ミッドサマー』を見に行きます。

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