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不動産バブル中に家を買う@New Zealand

2020年の後半から急上昇を始めたニュージーランドの不動産。このHousing Crisis と呼ばれる不動産バブルは、2021年4月現在、まだ勢いを落としていません。

私はクライストチャーチに住む日本人です。数年前に夫を病で亡くし、女一人でこのhousing crisis に立ち向かっています。2020年7月に家を売り、賃貸で暮らしながら新しく家を買おうとしているうちに、不動産バブルに巻き込まれてしまいました。9ヶ月たった今もまだ、買えていません。非常に困難な状況ですが、同時に貴重な経験でもあると思い、書き留めようと思います。

100軒近くのオープンハウス巡りをして、ようやく諦めがついた12月。初めの頃はあれもこれも欲しいと条件が多かった私も、どんどん値上がりしていく状況の中、色々と諦めないと買えないのだと悟りました。そこで、小さくて古いけどリノベーションが済んだ家を見つけ、入札することに決めました。プライベートリストでdeadline sale の売り家でした。

プライベートリストというのは、不動産業者を通さず個人で売りに出している家のことです。私はtrademe というオークションサイトで見つけました。Deadline sale というのは日本で言う入札です。公共事業を取りたい建設業者が入札するというイメージでしたが、家の入札も大体同じです。決められた期日までに、弁護士を通して自分の入札金額を書いて売主に渡します。

まずは売主が提示する書類をダウンロードし、それを弁護士に精査してもらい、さらにビルダーレポートという日本でいう家屋診断を手配して保険に通るか調べます。ところが、この家の場合はオープンハウスから入札日まで2週間もないという、とても詰まったスケジュールでした。ビルダーに入ってもらう時間がありません。こういう場合は、入札金額とともに、subject として「ビルダーレポートと保険の見積もりで問題がなかった場合にのみ全額支払う」という条件をつける方が安全です。

あとは金額を決めて、書類にサインするだけです。

入札だと他の競争相手がいくら出してくるのか分かりません。できる限り高額で勝負をかけます。目安となるのがRateavleValue=RV と呼ばれる行政が決めた家の値段です。今までなら、この前後の金額で売れることが多かったようですが、housing crisis の中では、RVより1000万オーバーで売れることもザラです。とても痛いけれど、それに近い金額でオファーすることに決めました、数千万の買い物です。たった一人で決める心細さよ!誰に相談しても、自分で決めなさいと突き放されました。それはそうでしょう、私が相談されても同じように答えるはずです。決断するのは、とてもとても怖かったです。この日、歩きながら金額を考えようと家を出て、2時間のウォーキングをすることになりました。陽に焼けながら、この額で行こうと決めました。

弁護士事務所で金額を告げ、サインをして、送り出しました。

そして3日後、私のオファーは受け取られなかったという残念なメールが届きました。

クリスマス前に、かなりの打撃でした。半年近く探して、ようやく決めて、自分なりに精一杯の金額を書いたのに、受け入れられなかったのです。もっと高額で入札した人がいたのでしょう。また一からやり直しです。弁護士費用の請求書だけが届きました。

精神的に苦しい年越しになりましたが、1月の半ばを過ぎた頃から、売り家の数が一気に増えました。クリスマス休暇を終えた売主たちが、本格的に売り出し始めたのです。


1月の終わりに、これだ!と思える一軒に出会いました。Trademe に載った写真を見て、実際の家を見る前から惚れ込み、準備を始めました。

今度の家は入札ではなく、オークションです。早速、業者が提示している書類をダウンロードして、弁護士に転送しました。法的な問題がないかをチェックしてもらいます。そして今回は時間があるので、ビルダーレポートを手配します。売り家が増えているということは、調査会社のエンジニアたちも忙しいので、予約を早めに取らなければなりません。

オープンハウス当日は、私にとっては確認作業でした。実際に見て問題はなさそうか?自分が持っている家具はどう配置していくか?リノベーションは必要か?住むつもりで、見ていきます。私の本気が見てとれたのか、不動産エージェントの女性も熱心に勧めてきます。

すぐにビルダー会社にレポートを頼みました。5日後に家に入って調べられるそうです。金曜日の朝でした。エンジニア、売主、エージェント、そして私の4人が揃っています。挨拶を交わして、エンジニアが調べるのを見守ります。全員が、なんとなく緊張しています。日本のコロナの状況などを聞かれながら、私は売主がなぜ売りたいのかを、それとなくエージェントに聞きました。彼らも、私がなぜ家を買うのか聞いてきます。マイホームなのか、投資目的なのか?腹の探りあいが続きます。

2時間ほどで調査が終わりました。その後5日間かけてレポートに仕上げるそうです。再来週にはオークションなので、ギリギリです。あんなに早く動き始めたのに・・・好きだと思った家には速攻で動かないと間に合いません。もしもオークションで落とせたら、条件(subject)なしで必ず支払わなければいけないのです。Deadline saleの時よりも、さらに前準備が大切です。

翌週にレポートが上がり、すぐに保険会社に連絡を取りました。長い長いサービス業務担当に繋がるまでの待ち時間を経て、ようやく用件を話せました。用意してあった書類を提出して3日後に見積もりが出せるそうです。オークション2日前に保険に入れるかが分かるというわけです。

予定通り保険会社から連絡が来て、目当ての家は保険に入れると分かりました。それならば、買ってよし。初のオークションに挑むことになりました。

今までいくつもの家を売買してきた友人たちに、オークションでのコツを教えてもらいながら、当日を迎えました。数日前から、全然眠れていません。これから数千万の買い物をするという怖さ。Bid(競り)次第では、どこまで値上がりするか分からない。敵(買いたい人)は何人くらいいるのだろう。不確定要素が多くて、本当に緊張します。ああ・・・家が、野菜や果物のように決まった額で信用できるものを購入できたらいいのに。

本番までに何度か、別のオークション会場で下見をしてきました。大体の雰囲気は掴んでいます。みんなニュージーランドらしくカジュアルな服装です。とても数千万、時には億の金を動かしている人々には見えません。私も、あまり気張った服装はせずにいきました。不動産業者には、bidするかどうかを絶対に悟られてはいけないと友人たちに固く言われています。業者に知られると、値段が上がってきたときに煽られたり、自分のペースを守れなくなるかもしれません。他にもどんな技を持っているか分からない。こちらのカードを極力見せないで、勝負です。当日は、エージェントの女性に私の予算上限を聞かれましたが、笑顔でかわします「分かりません、競り次第です。」絶対に予算は教えません。

比較的、早い時間に私の目当ての家がオークションルームに登場しました。付き添いの友人の手を握り、いよいよ始まりました。

Bidは慎重に、できたらマーケットプライス=売主がこの金額なら売っても良いと決めた金額が出てから、手をあげた方が良いと教えられています。すでに2人が競り合い、どんどん値段が上がっていきます。私は付き添いの友人の存在を忘れて、パネルに表示される数字に食い入りました。まだマーケットプライスにならない。もうすぐR V価格から一千万を超えるのに。ようやくオークショナー=競売人が、ここから売ります!と叫びました。私がBidする頃合いです。手を挙げて、数字を大きな声で張り上げます。私の価格がパネルに出ました。しかし、すぐに別の人が上をいく数字を言います。私もまた指をあげ、百万を足した額を言いました。だめです、敵もまた金額を上げてきます。私とこの人との競り合いでした。百万、五十万、少しずつ金額を挙げていきます。私はどうしても、この家が欲しい。もうオープンハウス巡りも賃貸暮らしも、疲れた。半端な状態が長引いて、うんざりしている。この家は理想的だから。そう思って、どんどん吊り上がる値段に引けません。友人が、私の腕に手をかけて「ねぇ、本当にいいの?」と聞きました。気がつけば私の予算上限、ギリギリです。R V価格からしたら、全く馬鹿げた金額です。やめました。最後まで私と競り合っていた人が、落としました。

買えませんでした。

信じられませんでした。かなりの金額を覚悟して挑んだのに。それよりずっと高額で競り落とされました。RV価格の1800万超えで売れました。正直、落とせなくてホッとしました。ギリギリまで戦ったけど、もし勝っていたら、あの額を支払わなければならないのだ・・・オークションの空気とこれまでの家探しストレスが、私に高額Bidさせていた気がします。茫然自失と、ほっとしたのと、まさかの買えなかったというオチに、愕然としていました。友人もかける言葉がないようでした。ただ、オークションルームでの私の態度、競りの様子は素晴らしかったと褒められました。初めてのオークション、日本人女性一人で競りに参加して買えなかったけど、健闘できたようでした。

そして3月。まだ不動産は爆上がり中です。先日はRV5700万の家が9250万で売れたそうです。もう全然、手が出ません。一体どうしたらいいのか。

友人たちは、目当ての家に「売って欲しい」という手紙を出せと言います。そんなことをして、失礼ではないのか?怒られないのか?日本人の私にはとてもできないと思いました。でも、オークションであれほどの準備と金とエネルギーを使ったのに競り落とせなくて、切羽詰まっています。

私は英語で「あなたの家がとても素敵なので、業者を通さずに直接売りたい場合は、連絡をください」という手紙を書きました。そして十数軒の家のポストに残してきました。さらに別の友人が、あの家の主は体調が悪そうだ。老人ホームに行くかもしれないから、売って欲しいという手紙を出してこい。という情報をくれます。これにはさすがに笑ってしまいましたが、手紙は出しました。まだ誰からも返事は来ません。数ヶ月後に売ろうって思う人がいるかもしれないし、いないかもしれない。そして毎日trademe のリストをチェックしています。今日こそ、理想の家が売りに出されるかもしれない。


こんな風に、私は闘い続けています。Housing crisis 、たくさんの人たちが苦しんでいると聞きます。しんどいのは私一人ではない。それにしても日本人女性・海外一人暮らしの私、興味深い経験をしているなと思います。入札もオークションも、日本では絶対に出来ない体験です。

さて、家は買えるのでしょうか?






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