もし、正義が不要な社会になったら、
もう、この社会から正義はなくなったと感じます。
正義とは、倫理、合理性、法律、自然法、宗教、公正などに基づく道徳的な正しさに関する概念である。（出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』）
この定義を採用するなら、出発点から矛盾します。マスクが不足した時、高値で転売をした人が批判をされました。倫理的には、無償で提供をしていた人を正義とするなら、高値で転売した人は正義とは言えないでしょう。しかし、希少品の価格が高騰するのは経済的に考えれば合理的です。ブランド品は、加工と素材の費用の数倍の価格設定で販売されていますが、批判を受けることはありません。
なぜ、宗教戦争が起こるのか。それは自身の宗教を正義として、他宗教を正義としないからでしょう。
法律が正義とするなら、死刑制度が廃止されている国で死刑制度を復活させる動きがあるのはなぜでしょうか？死刑制度が廃止されている国で大統領が「麻薬犯罪者は殺せ」と公言するのは正義なのでしょうか？
物事は正義で語ることができなくなっているんではないかと思います。
正義で他人を取り締まる人々
新型コロナウィルスの感染者による誹謗中傷も猛威を奮っています。
感染者の個人情報がネットにさらされるだけでなく、勤務先や友人関係などのデマが拡散され、関係のない人にまで影響が及んでいます。
感染を公表することが正義なのか、隠して近しい人を守ることが正義なのか。
ある県は、施設名を公表した施設に5万円の支援金支給を打ち出しています。クラスターの特定に有効だからです。
ある県では、「企業の従業員が感染した場合、感染が広がる可能性がなければ、企業名を公表しないよう市として要請する」としています。スタッフのプライバシーを守ることを優先する正義もあるのでしょう。
自粛要請に従わない人を非難する自警団も活動していると聞きます。彼らにとっては、感染防止への自粛要請に従わない人に罰を与え、その他の人の安全を守ることが正義でしょう。両方とも、ステイホームではないのですが、自分の正義が根元となっているのでしょう。
正義は人の数だけある
テロリストが爆弾を仕掛けていたら、阻止するための行動をするでしょう。しかし、ウィルスの陽性反応が出ているにもかかわらず、県を跨いだ移動をした人はテロリストなのでしょうか。
「人が死んだら殺人と同じだ。菌をばら撒くのは、暴力でありテロだ」書き込まれたTwitterを見ました。この人にとっては、陽性反応で外出する人はテロリストなのでしょう。
生きるために、できる限りの感染防止策を施して営業をする飲食店店主や飲食店を支援するために来店する客と自粛要請に従わない彼らを非難する自警団。
県外ナンバーの車を攻撃する地元の人。
僕は東京に暮らしていますが、出身は地方の中堅都市です。住まいは、その中でも田舎に属します。近所は知り合いばかり。僕が今、帰省をしたら、地元の人は迎えてくれるのでしょうか。都会に住むウィルス保菌者として、家族共々に非難されるのでしょうか。
もう、正義を振りかざして、人を批判するのはやめませんか。正義は人の数だけあります。
もし、世界から正義がなくなったら？
もし、世界から正義がなくなったら、悪がはびこるのかというと、そんなことはないでしょう。
多様な価値観が受け入れられ、法律の整備も合理的になると思うのです。
未曾有の危機に対応する方法は、おおむね３つだと思います。
１：財産や資産を共有し、お互いに助け合う
持っている人は多くを差し出すことになるので、抵抗感があるでしょう。しかも、努力なく手にする人がいれば不満が高まるでしょう。
２：情報共有を拒み、他人から奪う
略奪や戦争による危機脱出を実行するほど、現代人は愚かではないでしょう。
３：ぞれぞれの人が自分の安全の確保を優先する
自己責任なのかもしれませんが、これでは愛が足りませんね。
おそらく、正義がなくなった社会は、３つのうちどれでもない社会なのだと思います。
人の行動を監視するために、国土の至る所に防犯カメラを設置し、警察や軍隊に見晴らせ、究極的にはスマートフォンを通して行動を追跡するような社会は、人の行動をコントロールすることができますが、リーダーの正義によって、一瞬で暗転してしまうことがあります。
それよりは、自らを律し、他人を思いやる社会の方が発展していくのではないかと思うのです。社会とは、そこにいる人の総和によって創られるものです。マルクス・ガブリエルが言ったように、「世界は存在しない」のです。考え方、見ているものが、人それぞれで違う以上、単一の世界を定義することは不可能でしょう。
世界を定義することが不可能だということは、正義を定義することも不可能だということです。
だから、僕は正義が不要だと思うのです。
正義のない社会を望みます。
正義のない社会とは、悪のない社会でもあります。
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