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おかえり

佐藤孝亮が復帰しました。
ここまでの1年半、彼の欠場に関してハッキリとしたことは言わないまま時間が経ちましたが、本日の試合後のコメントで本人の口から「パニック障害」と言うことをお伝えさせていただきました。
本人の許可を得た上でこの一年半を振り返りたいと思います。


2022年6月17日

この日は新木場大会。
翌週に組まれた岡林裕二vs佐藤孝亮に向けた大切な試合が予定されていました。
その前の後楽園ホールで佐藤自身が要求したシングル。横浜武道館で関札皓太に敗れたとは言えジュニアに留まらず無差別級とも言える活躍が期待された3年目。

新木場に向かう途中、佐藤から「今、電話したいのですが大丈夫ですか?」とLINEがあり社用車が渋滞で遅れるとかそんな感じかな?と電話をかけたら、いつもと違う息も絶え絶えな声にすぐに何かあったと察しました。吐息のような声で話す佐藤が事件・事故に巻き込まれたのではと「いまどこにいる?何があった?」など質問しても呂律の回らない感じの返答。幸いご家族が近くにいたようで変わってもらい状況を聞くことができました。

前から時々こう言うことが起きていたこと、電車に乗ることも出来ないこと、しばらく安静にしていれば戻るはず、などなど色々と把握できましたが、先述の通り今日は大切な試合直前。
電話で話している限り試合ができる状態では無いのは明らかでしたが本人の意思を確認すると、遠慮しながらではありながらも試合は休ませてほしいと言われ、佐藤の性格からしてここまでハッキリと出来ないと言うことは相当だなと感じたのを覚えています。

ただ、本人から症状のことは内外にも言いたく無いとお願いされ、突発的にコロナを理由にするしか無いなと考えました。時はまだコロナ禍でしたのでそれが良いとか悪いとかよりも佐藤を休ませてあげたかったので、こう言う形で今日は休ませる。明日以降はまた考えよう。と伝え電話を切りました。

頭の中はグルグルでした。
発熱、コロナ陽性、濃厚接触者、どのパターンも直近の試合に穴を開けることが確定します。
他団体出場も決まっていたので、仮に明日元気になって試合ができるとなった場合はどうするのか?
そして対外的だけではなく団体内にも知られたく無いと言う佐藤の気持ちをどう処理したらいいのか、悩みましたが時間がないので、各所に連絡をいれ、家族の事情と言う形で欠場させてもらいました。

まぁ、辻褄が合わないことが出ても、僕が会場でそれぞれと話すしかないと腹を括りました。普通に考えればなんで佐藤から連絡してこないのか?なんで今日に限って高塚からなのか?おかしなところだらけですが、理由はさておき、あの状況で僕を選んで電話してきた気持ちには応えてやりたい一心でした。

パニック障害

その日の夜にも電話で話しましたが、比較的時間が経つと落ち着く様子でいつもとあまり変わらない感じに聞こえました。
新木場に着いた後、団体としてはしばらくは欠場させるの言う話をしていたので、思っていたよりも普通な会話に
「あれ、これ休まなくてもよかったパターンか?」と思ったりもしましたが、後日病院の診断は【パニック障害】とのことでした。

数日後に近くの駅で昼飯を食べに行くことにしたのですが、待ち合わせて顔を見た瞬間に「あ、これはダメだな」と思いました。なんと言うか表情がないと言うか、佐藤の爽やかさがなくなっていました。

写真だけの復活

順調に体調も戻ってきた夏頃。
この写真がなんだったかちょっと忘れてしまったのですが😅何かの企画で使う写真にサインを入れて告知するための写真を撮りました。この時はいつの写真とも何も言わずにSNSにアップしましたが、欠場後初の顔出しだったと思います。少し不安そうにしていましたが、少しづつ表に出る事を後押ししたいと、今になって思えば僕が焦っていたんでしょう。

兵頭彰の引退

9月、兵頭が引退することになりました。
この頃の佐藤は表には出ないながらも裏方作業を手伝ってくれている姿を見てだいぶ安心していました。
この時、バックステージだけでも顔出しに来たら?と話をしていて前向きに考えてくれていたようですが、やはり難しかったため断念。
でもこの時、佐藤が欠場後、はじめてツイートをしてくれました。人に注目されることやプレッシャーを感じることに立ち行かない中でまた一歩前に進んだ瞬間でした。

2023年1月2日

2022年が終わるにつれて、佐藤の調子もどんどん戻っていきました。彼は常に次の目標を設定して一つづつクリアしていく堅実派。この頃の目標は「お客様の前に姿を現す」ことでした。話し合った結果2023年1月2日の入場式に参加することを決めました。ただやっぱり注目されることに不安を覚えていた佐藤からリングサイドにいてほしいと言われ、興行進行中はリングに近づかないようにしていますが、この日はその禁を破ることにしました。とは言え、正直この時の僕はもう大丈夫だろうと思っていました。この日を境に佐藤の復帰が駆け足に進んでいくことを疑いませんでした。

しかしホールで会った時印象が変わりました。
表情が暗いなと。
話してても少し虚ろな目線が気になり、大丈夫か尋ねるとかなり緊張している様子。入場式の参加も見送るか聞きましたが、それはやりたいと。
不安がよぎりました。

入場式の直前、ゲート奥にスタンバイしている時の佐藤の表情も虚ろな感じでした。周りの選手が「今日は佐藤に持ってかれちゃうな」みたいな軽口を叩いて和ませていても表情は変わりません。吉田和正に続きゲートをくぐってリングに向かう佐藤の表情は決して明るくなく誰とも目線を合わせないようにしているのがわかりました。
僭越ながらコーナーポストに陣取らせていただき佐藤の表情を見てても俯きながら手をグーに強く握っている姿にコレは持たないかも、と思いました。
そしてロープに手をかけた瞬間に立っていられないのがわかったのですぐにエプロンから佐藤を支えようとした瞬間、社長や中谷くんも来てくれてバックステージに引き上げることにしました。
かの有名なK選手の「吉田!佐藤隠せ!」の迷言(四方から見られているんだから隠しようがない)はこの時生まれていたらしいのですがそんなことは聞こえもせず。

ゲート裏で座らせた佐藤は「すいません、すいません」を繰り返すばかり。僕はガラにもなく佐藤の手をずっと握っていました。20代半ばの青年が心と身体が分離したように思い通りにいかない事。本当に悔しかったんだと思います。

少し落ち着いてご家族と一緒に帰るためホールの入り口まで送って行く際、運営する立場として彼の現場復帰を急がせこのような事態を招いたことをお詫びすると、自分が決めた目標なので気にしないでください、と言っていただきこの半年のご家族のご心労は計り知れないのにあの場に戻ろうとする本人の糧を奪わずに支え続けたご家族全員の強さを感じました。

同時に佐藤はこれで諦めてしまうのではないかと思い始めましたが、それでもお客様の前に立つと言う目標を達成した彼の決断は受け入れてあげるつもりでした。

復帰に向けて

僕の心配とは反対に佐藤はあの日あの形でもお客様の前に、リングに立つことが出来たことを肯定的に捉えていました。

2022/1/2の佐藤のツイートより

「次はセコンドにつきたい」

強い男だと思いました。その姿は本当に凛々しかったし、心から凄い男だと思いました。お客様と接点を持つのは難しいと思いながらも、見られる場所にいる事は勇気のいる決断だったと思います。

会場に来る時も売店には立たせませんでした。まだ会話をするのは早いし、あれこれ聞かれて答えづらいことも多いと思ったからです。そうやって僕らの中では段階を一つづつクリアして行きましたが、セコンドに着く佐藤を狙った写真が数多く投稿されたり、
「佐藤が復帰を渋ってる」
「公式に発表しない団体への不満や不信感」
「(復帰したくて堪らない佐藤なのに)大日本プロレスでは復帰したくないのでは?」
などなどの憶測や、知らず知らずにプレッシャーをかけてしまうファンの方の行動に内心やめて欲しいと思っていました。完全にこちらの勝手な考えです。でもそれでまた佐藤の復帰が遠のく可能性は少しでもない方が良いと思っていました。本人よりも僕の方がナーバスになっていたのかも知れないです。佐藤に関して聞かれることにそっけない態度をしていたと思います。この場をお借りしてお詫びいたします。

出る側の世界へ

その後の2023年は皆様がご存知の通り、徐々に姿を現すようになりました。4月にBJ-Xのお店番をする際も付き添わせてもらいました。久しぶりに現れた佐藤と会話する機会にたくさんの方々がお越しいただいて、笑顔を見せている姿を見ると、やっぱり佐藤はこっち側(出る側)の人間だなぁと思った次第です。

お客様に見られていることにも慣れてきて、配信にも参加(これは実は結構ギリギリだったみたいです😅)、そして売店にも立つようになり復帰の足音が本格的に見えてきました。
本人的には6月、9月、と折々で考えていましたが、体調面と肉体面を鑑みて少しづつ延期し、今日に至ったわけです。

明日から

さて、復帰という一歩目をクリアした佐藤孝亮。本人には焦りに似た感情はあるのかもしれません。笑い話のように「吉田よりも(通算の)試合数が少ない」とか言っていますが、偽りない本心なのだと思います。
とはいえ、この1年半をクリアしたのですからここで焦る必要はないと思っています。
全国のファンの方は各地方に来て欲しいでしょう。お見せしたい気持ちも当然ありますが、当面は首都圏のみ、連戦を避ける、など出来るステップを確実にクリアしていく事を最優先させてください。

あの電話を受けたあの日から、そしてパニック障害と診断された後「大前提として復帰はしたいのか?」の問いかけたら不安げに「はい」と答えた佐藤との、僕個人としての二人三脚は一旦終わりました。正直、僕よりも同い年である熊川や石川、他のレスラーの方が彼の支えにはなっていたと思います。でも今日の彼を見届けるまで降ろせなかった何かを大切に抱えてきた1年半だったと思っています。

今日まで待っていただいたファンの皆様には深くお礼申し上げます。ここからプロレスラー・佐藤孝亮の第二章が始まります。応援して頂けたら幸いです。

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