見出し画像

棚の本:長い一日

滝口悠生さんの、暮らしについての長編小説。

くまとら便り

小田原行きの急行の中で、冒頭の一行を書きました。
いつもの電車でない電車に揺られながら、「悠生」というお名前と、「長い一日」というタイトルは、なるほど関係があるかもしれないと、ふと思いました。
暮らしていく、という意味において。

引越しすると、毎日乗る電車とか、生活環境が変わります。
暮らしと、人生が、大きく変わります。

引越は、自発的なものと、そうでないものがありますが、「長い一日」の主人公夫婦の引越しは、自発的なものです。
自発的で、なおかつ運命的な感じのする引越しです。

住む家が変わると、スーパーも変わります。※
「長い一日」の主人公(滝口さん)は、スーパーオオゼキがお気に入りで、確かなオオゼキ愛と、自発的な引越の影響による、あれこれを物語ってくれます。

棚主個人の話ですが、ごく稀に、雑談でスーパーの話題になります。
みんな結構お気に入りのスーパーを持っていて、系列・チェーンが同じだと、駅が違っても話が通じます。別でも、特色を紹介してくれます。
スーパーには、発見、悦楽、解放の要素があります。時に、店との駆け引きやジレンマも。

数年前に、年配の女性から、自転車でとても遠くのスーパー(OKだったと思う)に通っているという話を聞いて、びっくりしたことがあります。
膝が悪くても、途中に何軒もスーパーがあっても、自転車を漕いで、すごく遠くのスーパーに行く。 
ご本人は、スーパーを全く遠いと思っていません。それは「愛と距離」の話だ、と書いたら収まりはよいけれど、多分「狂おしさと距離」の方がしっくりきます。

「長い一日」の話に戻ります。
主人公と妻が住む部屋の1階には、大家さんの老夫婦が暮らしていますが、彼らとの心安らぐ関係にも揺らぎがあります。
床屋のサインポール(赤と青のぐるぐる)、花木、との関係にも。
急な大変化なはずですが、四季の移り変わりのように感じられます。こういうところは、滝口悠生さんの特徴かもしれません。
「急に寒くなりましたね」という話をするとき、それが今日の話で、また季節の話であるように。

そういえば、「ラーメンカレー」の窓目くんも出てきますが※※、彼は変わりません。酔って、泣いて、愛を語ります。
安定の存在で、いてくれると少し嬉しくなります。



※スーパーの変化は、身体の組成にも多分、影響があります。
※※ ジョナサンも出てきます。「長い一日」では店名で人名です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?