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ゲッツーは“流れ”を左右する。しかしドラゴンズはあっさりと手放し、チャンスを手にできない

※写真は中日スポーツ(8月5日付)より。ビシエドの“引っ張り”は、確変状態だったカープ3連戦の影響もある!?

 小笠原慎之介の好投により、0-0のまま迎えた8回裏。先頭の阿部寿樹が初球をセンター前に運んで出塁し、打席は4番のダヤン・ビシエド。1発を期待したいところだが、とにかくチャンス拡大が使命の場面。だが、初球のストレートをいつものように打ち損じてファウル。3球目の外角低めストレートを引っ掛けてショートゴロゲッツー。一瞬にしてチャンスを失ってしまった。
 
 野球とは、スポーツとは“生き物”である。そこには“流れ”が脈々と存在し、リズムやテンポなどの“呼吸”がある。

 続く9回表のベイスターズは、「4番ビシエドのゲッツー」で流れもリズムも手に入れていた。先頭打者の関根大気は、ドラゴンズの守護神、ライデル・マルティネスに追い込まれていたものの、デッドボールで出塁。桑原将志がきっちりと初球で送りバントを決め、代打・タイラー・オースティンは三振に終わったものの、続く佐野恵太が1塁への内野安打。“4番”牧秀悟のライト前ヒットで得点した。

 佐野の当たりはたしかにヒット性だった。しかし、1塁手ビシエドは横っ飛びして捕らえた。が、グラブからボールがこぼれてしまい内野安打。ビシエドが抑えていなければ、セカンドランナーの関根はホームに生還していただろうが、“流れ”がドラゴンズ側にあれば、捕球してアウトにできていたかもしれない。だが、“流れ”に乗ったまま、牧はマルティネス─木下拓哉バッテリーの揺さぶりにもついていき、落ちの甘いスプリットボールを捉えた。バッテリーの外角一辺倒の攻めを責める声もあるだろうが、ここは得点圏打率セ・リーグ1位の牧の勝負強さを讃えたい。

 昨日に続き、“初回”がひとつのポイントを握っていた。ベイスターズは先頭の桑原がヒットで出塁。1アウト後、佐野に対し、小笠原は外角にナックルカーブを投げて引っ掛けさせ、3-4-3のゲッツーに仕留めた。これで乗っていきたいドラゴンズは、大島洋平、岡林勇希と倒れ、阿部がヒットで出たものの、ビシエドが凡退に終わった。ゲッツーで流れが来かけていたはずなのに、あっさりと終えてしまう。初回、いや打者ひと回り目を淡白に終えるドラゴンズの姿は、Bクラス慣れしてしまってからのいつもの形だ。ここに大きな問題があると見ているが、それはまた別の機会に。

 ここまで読まれた方は、もうおわかりだろう。「ゲッツー」は取った側は乗る。取られた側は落ちる。ゆらゆらと揺れうごめいているゲームの“流れ”を、一瞬にして決めてしまう効果がある。が、それを簡単に手放してしまうのが、いまのドラゴンズだ。そして、前日もそう。1回表、先頭の桑原にフォアボールを与えてしまった大野雄大は、楠本泰史のバント飛球を好捕。飛び出していた桑原を刺して、鮮やかなダブルプレーに仕留めた。
 このまま乗っていきたいドラゴンズはその裏、先頭の大島がデッドボール。1アウト後、阿部のヒットで1、2塁。しかし、4番ビシエドが、3ボールと不安定な大貫晋一の投じた甘いツーシームを見逃し、インハイにみせる誘いのツーシームに手を出してしまい、ショートゴロゲッツー。“流れ”をものの見事に返上してしまったばかりでなく、チームの天敵・大貫を立ち直らせてしまった。そんな中での5回のレビーラのプレーだった。

 2日続けての4番のゲッツー。ビシエドひとりに責任を負わせるのは酷かもしれないが、4番打者とはそういうもの。来日7年目、チーム内でも一目置かれ、ファンには人柄も含めて愛されているビシエドは、私も大好きな選手である。だが、元々「4番気質」でないと思っている。それは、打球もさることながら、メンタル面においても。ビシエドを「アベレージヒッター」「3番、5番タイプ」と言う識者も多く、自分も同様に思っている。けれども、「4番」を打てるバッターがいない。だから、ビシエドに打たせるしかない。

 セ・リーグに絞って話したい。スワローズには村上宗隆、タイガースには佐藤輝明、カープはライアン・マクブルームが今季を担っている(マクブルーム不在時は坂倉将吾が対応)が、昨年までは鈴木誠也。ベイスターズは牧で、ジャイアンツは岡本和真。各チーム、日本人選手を軒並み育てている。今季、ドラゴンズも石川昂弥を“将来の4番”として育てようとした(今季は5番を打ったことはあったが基本的に下位)が、ケガで離脱。まだまだ時間がかかりそうだ。

 ビシエド不調に業を煮やした立浪和義監督は、アリエル・マルティネスに4番を任せたこともあったが、彼も負傷して抹消。結局、ビシエドに頼らざるをえない状況に収まったが、ゲッツー(併殺打)数は12球団でトップの16。その中身は、強引に引っ張ろうとしてのショート、サードへの打球ばかり。強い打球を打ちたいという気持ちが強すぎてのものだ。

 アウトコースの球をセンター、ライトへと打つ巧さがあり、かつ飛ばす能力のある彼だが、年々スランプとも言える不調期間が長くなっているのは、強い打球を打つ=引っ張る思いが強すぎるからだろう。傍からはわからないが、彼の中で「ボールが飛ばなくなった」感覚が芽生えているからかもしれない。

 昨日、大非難を浴びたペドロ・レビーラは、今日も6番レフトでスターティングメンバ―に入り、1打席目はホームランバッターらしい角度で打ち上げたレフトへのフライ。ここ数試合、らしい打球を打てていなかった(変化球を空振りするシーンが増えた)が、このフライで“何か”を取り戻した感。2打席目は鮮やかに打ち返してレフトへのツーベース。3打席目はレフト前ヒット。ツーシーム、カットボールといずれも変化球を見事に捉えた。
 英断かもしれないが、ビシエドとレビーラを並べる打順が効果を発揮するかもしれない。何なら4番に入れてみても。昨日、悔し涙を流したという気の強さ、汚名返上とばかりに即打ってみせたメンタルの強さ。レビーラは“4番”の資質を持っていると思う。

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