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匠の扉

※写真は発売中の『ボクシング・マガジン6月号』と前号5月号。2ヵ月にわたって、三代大訓の登場となった

 知る人ぞ知る、知らない人は知らない(当たり前)。そんな連載ページがボクシング・マガジンの『匠の扉 MY CONCIOUSNESS─私が強く意識していること─』である。

 いやぁ、ボクシングファンでも知らない人が圧倒的に多いなぁ。何なら、ボクシング・マガジンを毎月購読してくれている奇特な方でさえも。何せ、この連載に対する反応が全くないに等しい。「おもしろい!」というのは最高に嬉しいが、「つまらない」という感想すらない。目を細めてチ~ン、という状態。完全スルーというものほど、切なくて苦しいものはない。

 唯一、熱烈に支持してくれているのが京口紘人チャンプだ。顔を合わせる度に、「匠、めっちゃおもろいので続けてくださいね!」とラブコールをくれる。涙が溢れ出しそうなほど、感極まる言葉である。彼自身にも第4回で登場してもらったが、それ以来、熱心に読んでくれているらしい。

 まあ、ライター同士もそうだけど、同業者を褒めたり、同業者の言葉を一所懸命追いかけたりするということのほうが稀かもしれない。自分だってそうだ。他のライターが書いたものは、極力読まないようにしてるから。
 それが頭にインプットされてしまい、その選手を取材する段になったとき、別のライターが引き出した言葉を、あたかも自分が聞いたり書いたりしたと錯覚する可能性があるから。もちろん、ボクシング・マガジンの記事は校正をしているから読むけれども。あとは、読んでも当たり障りのないものだけ。

 でも、この連載は選手たちに読んでほしいと考えている。特に、まだ肩書きを得ていない選手や、少年少女ボクサーに。小難しい表現などがあってわかりづらかったら、親や周囲の大人に訊いてみてほしい。それか、自ら読解力を身に着けてほしい。「おまえがわかりやすく書けよ」と言われたらぐうの音も出ないが。これ以上わかりやすく書けないってくらい、わかりやすく書いているつもりなので。

 また、前置きが長くなってしまった。

 今、発売中の2022年6月号で12回目。前号に続き、三代大訓(みしろ・ひろのり、ワタナベ)の登場だ。早くも前後編。取材したとき、三代本人は「いやぁ、今日は調子が悪いです。言葉が出てきません」って頭を掻いていたが、そんなことはない。おもしろすぎて、とても1回で終えることができなかった。

 スタートは、藤木邦昭編集長の「本間くんが、徹底的に選手に技術を聞く連載をやってみない?」というひと言から。自分も前々から技術特集の企画ばかり出してきていた(ほとんど実現せず)から、色めき立った。まさか、連載とは想像もしなかったけれど。
 念頭にあったのは、NHK BSで長く続いている『球辞苑』だった。当初から大好きな番組で、ほぼ欠かさず観ているもの。
 毎回ひとつのテーマ(たとえば「ポジショニング」とか「ツーシーム」とか)について、過去の名選手だけでなく、現役選手も登場し、それについて、それぞれの“こだわり”などを披露していくもの。そこで明らかになった深い言葉の数々が、『広辞苑』よろしく、辞書に書き込まれていくというかたち。プロ野球に造詣の深いナイツ塙さんが司会を務め、おもしろおかしく、だがおそろしく深く、プロ野球のプロフェッショナルぶりに迫っていくのだ。

「これのボクシング版をやりたいなぁ」という想いがずっと頭にこびりついており、「ここだ!」と思った次第。複数名に登場してもらうという形式は温存(いつかやるぞ!)し、毎回ひとりの選手に様々を語ってもらうということにした。

以下がこれまでの出演者リストである。

★2019年
11月号…栗原慶太(一力)「右ストレート」
12月号…天海ツナミ(山木)「ディフェンス」

★2020年
1月号…吉野修一郎(三迫)「逆算」
2月号…京口紘人(ワタナベ)「アッパーカット」
3月号…井上岳志(ワールドスポーツ)「拇趾球」
4月号…ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)「ジャブ→右ストレート」
※コロナ禍により、取材規制、自粛
12月号…長濱陸(角海老宝石)「緩急」

★2021年
2月号…赤穂亮(横浜光)「ディフェンス 距離と頭の位置」
3月号…丸田陽七太(森岡)「洞察力と客観的眼差し」
4月号…西田凌佑(六島)「負のイメージと鬼ごっこの感覚」
5月号…三代大訓(ワタナベ)「試合に近づけるための英断」
6月号…三代大訓(ワタナベ)「股関節を駆使したバランス」

 どの選手、どの話にも思い入れが尽きない。ここに登場後、試合に負けたり、引退してしまったりした選手もいるが、そんなことはまったく関係ない。そのとき、選手がこだわっていたこと、いや、それまでのキャリアの中で築き上げてきたことが、たっぷりと詰まっているから。しかも、なるべくボクシングの話を離れようとしている傾向もある。選手の日常に多大な興味があるので、そこを突っついてみたり。

 だいたいの選手が、「これ、おもしろいですか?」って恥ずかしがりながら、自分の感覚や日常的に考えていることを披露してくれる。それはやっぱり、唯一無二のものだから、おもしろくないわけがない。大袈裟にいえば、その選手の生きてきた人生さえ見えてきたりするのだ。

 連載の前文にも書いているとおり、「選手の数だけ“個性”“こだわり”がある」。どうしても雑誌の連載なので、“肩書き”優先になってしまっているが、本心は「現在戦っている全選手に訊きたい」である。いや、もうこれはライフワークにして、世界中を飛び回って片っ端から訊いていきたい、というのが今後のライター生活の柱になるのかも……。生活できて、家族を養えて、取材に行けるくらいの収入がほしい。。。

 もちろん選手だけでなく、『トレーナーバージョン』だっていける。それこそ、『球辞苑』のようにワンテーマを設けて、複数名を一挙に登場させることだってできる。座談会のように一堂に会することだって可能だ。

「マニアックすぎる」って毛嫌いしてる人もたくさんいるだろう。読んでみてそう思ったら、そう言ってください(この連載に関しての批評は受け付けます)。読まず嫌いだったら、ぜひ1度読んでみてください。

 あ、最後に言っておきますが、もちろん自分の売り込みもありますが(笑)、それ以上に「ボクサーの感覚、頭脳」を知ってほしいのです。ボクサーって本当に繊細で、明晰だから。

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