「起業とは信じること」
小さい頃、幾度か書いた「将来の夢」。大人になったら何になりたい、何をしたいという自分の夢を書く作文ですが、私はずっと、医者になりたいと書いていました。
皆さんは、どういう夢を書かれたでしょうか。
卒業アルバムを見ると、1970年台は運動が得意な男子は野球選手になりたい!と書いた子が多く、女子の夢を見ると、先生やスチュワーデスになりたいと書いた子が多かったようです。
半世紀近くも前の話ですから、おそらく最近は、きっとYouTuberになりたいと書く子が増えているのではないでしょうか。
20世紀の時代は、こうした夢を語る時、起業する・会社を興して事業を創る、と語る子供はほぼ皆無で、大学生になっても極めて稀でした。社会への扉が近づくにつれ、就職しなくては…と考える学生が大半で、就活という言葉で示される様に、その傾向は未だに続いていると思います。
もちろん、最近では起業すると宣言し、大胆に挑戦する人が徐々に増えていますが、依然として圧倒的少数派です。
起業されない多くの方は、おそらくこう思っているのではないでしょうか。そんなの無理だよ。無茶だ。自分なんかに出来っこない。
起業して成功できるかどうかは、誰にもわかりません。
起業して事業を継続し、市場に生き残ることは容易ではありません。いえ、むしろ失敗する可能性が高いことは事実です。でも、新しいこと、自分の夢は、やってみなければ永遠に実現しません。
選択肢は実に明快です。
やるか、やらないか。
あなたが成し遂げること、あなたがなりうるものは、あなた自身が夢見て、強く願い、その実現に向かって挑んだことだけです。
あなたの夢と行動が、あなたの将来を決定します。
例えば、日本の偉大な起業家の一人である本田宗一郎氏。
彼は戦後、オートバイ製造を開始した後、苦しい経営状況の中でこう宣言します。マン島TTレースで優勝すると。世界有数のオートバイレースであるマン島TTで勝つなんて「何を夢物語を」と思った人が多い中、彼は見事にこれを達成します。そして次は四輪。自動車製造を始めてまだ日が浅い中、今度はF1で優勝すると宣言し、誰もが「無理に決まってる」と思う中、初の日本車優勝を成し遂げたのです。
優れた発明、イノベーションと呼ばれる劇的な変革、偉業、素晴らしい製品やサービス。いずれも誰かが挑み、そして成し遂げたもので、自然に出来たものはありません。そして、そのほとんどが、当初「そんなの無理だよ」と思われていたものばかりです。
飛行機。コンピューター。人工衛星。月面着陸。スマートフォン。電気自動車。Google。Airbnb。Facebook。Instagram。
どれも、無理だよ、非現実的だと誰もが思う中、クレージーとも思える夢を信じ続けた人達が創造し、成し遂げた偉業です。
最近、よく起業家育成が叫ばれ、多くの大学で講座が開設される様になりました。ですが、その講義の中身を覗いてみると、アイデアをどう創造するか、ビジネスモデルをどう考案するか、どの様に事業開発を進め、どの様にマーケティングを展開し、どの様に資金調達をするか...という様に、その大半はHOW、いわゆる方法論に偏り、最も大事な点が見落とされています。
起業は、その完成形やゴールは実に多様であるために、料理の様にはっきりと共通化された完成形が存在せず、そのため一概に正しい「レシピ」、つまり絶対成功する方法やプロセスというものもありません。他人の起業方法や体験を参考にすることは出来ても、忠実にそれをなぞったからといって、必ず成功出来る訳ではないのです。
起業にあたり方法論を学ぶ以上に大切なことは、あなたが求めるもの、成し遂げたいもの、創りたいものの最終形をはっきりイメージすることです。
自分の夢を描き、自分はそれを実現出来ると信じること。
あなたが描く夢が、あなたがやろうとしていることの限界になります。あなたが出来ない、無理だと思えば、それは実現出来ません。
起業とは、自分の夢を描き、自分を信じることです。
童(わらべ)のときは
語ることも童のごとく
思うことも童のごとく
論ずることも童のごとくなりしが
人となりては童のことを捨てたり
(新約聖書「コリントの信徒への手紙 一」13章11)
新約聖書にある様に、遠い昔からこの本質は語られています。
小さい頃は誰もがのびのびと、自由に夢を思い描きます。でも、歳を取り大人になるにつれ、自分には無理だと思い始め、夢を諦め、今ある現実の社会に合わせて、自らの選択肢を狭める様になってしまうのです。
このループの中にいたまま起業しようとしても、決してうまくゆかないでしょう。なぜなら、あなたは社会の現実の枠を限界と捉え、あなた自身を信じていないからです。
起業とは、もう一度童のように、その夢を取り戻し、夢を信じ、挑戦すること。
あなた自身を取り戻す旅です。
その旅の目的地はあなたが自由に描き、あなた自身で歩み、そして挑み続ける長い長い旅です。自ら無理だと思えば、どこにも行くことは出来ません。
出来る。必ず成し遂げる。
自分自身を信じることから起業は始まります。
これが起業家精神の最も大切な本質だと思います。
あなたも今日から、もっと自分を信じてみませんか?
きっと未来は変わります。
<ライター>
山下 哲也
山下計画株式会社 代表取締役CEO
Silicon Valley Venture and Innovation LLC 日本代表
BizWorld Japan アドバイザー
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NEC・Motorolaにて携帯電話のシステム開発及び国際標準化、NTTdocomoではi-mode及びスマートフォン戦略担当として、新技術開発・各種戦略提携・スマートフォン導入を担当。2012年に山下計画(株)を設立。Accerelator Program「500KOBE 」のLiaison Officer他、各種支援プログラムのメンター及びディレクターを務め、多数の起業家に対しメンタリングを提供。
岡山大ではEntrepreneurship教育プログラム「SiEED」(2019)を設計・講師を担当、文科省Entrepreneurship教育有識者委員を務め、Entrepreneurship学習の開発・普及にも挑戦中。
2007年、MITにてMBAを取得。