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親子上場の問題②

1.親子上場だけじゃない


親子上場の問題①では親子上場の問題点を書いてきましたが、ややこしい話があるのは親子上場に限りません。

東燃ゼネラル石油という会社があります。この会社は世界的な石油メジャーであるエクソンモービルと提携関係にあり、かつてはエクソンモービルの子会社として親子上場をしていました。現在は持株比率が下がり親子上場ではなくなっています。

実は2012年まで、東燃ゼネラル石油のガソリンはエクソンモービルの子会社が運営するガソリンスタンドで販売されていました。大株主であり、提携先であり、名だたる石油メジャーであるエクソンモービルに流通網を押さえられていて、東燃ゼネラル石油はきちんとした販売価格を確保できるのか。疑心暗鬼になっていた投資家もいたようです。その辺の事情もあったのか、現在ではガソリンスタンドの運営は東燃ゼネラル 石油に移管されています。

親会社でなくとも特定の株主に事業を大きく依存する場合、その大株主による利益相反を抑止しにくいのは確かでしょう。そこには親子上場と同じ問題があります。

この点、移転価格税制や独占禁止法は抑止力になり得ます。利益が偏っていれば追徴や課徴金を受けるため、ある程度までは独立第三者価格での取引が期待 できます。とはいうものの、そもそも狙いとしているところが違うため、根本的な解決策とまでは言えません。

2.ルノーと日産、シャープと鴻海

皆さんもご存知の通り、フランスのルノーと日産自動車は資本関係を結んでいます。ルノーは日産に43.4%出資し、日産はルノーに15%出資しています。日産がルノーに出資している15%については、ルノーが日産の大株主(40%超)であるため、フランスの法令によって議決権が付与されていません。

長きにわたる販売不振が原因で1999年に日産はルノー傘下に入りました。ルノーはそこに資金や人材を投入し、大胆なリストラと車種入れ替えを行って日産を復活させていきました。

日産は資本的にはルノーの傘下ですが、両者はブランドとしては統合していません。また、今の日産であればルノーがいなくてもサプライチェーンはまわります。 その意味では、ルノー・日産は比較的問題が少ない親子上場にも思えます。

しかしながら、実はルノーの株式の15%はフランス政府が所有しています。 そしてフランスでは、株式を2年以上保有する株主に倍の議決権を与える「フロランジュ法」が成立しました。フランス政府の持分が15%の倍で30%となると、ルノーの経営にとってこれは大きな影響力となります。

フランス政府は、移民や支持率の問題もあって雇用はとても敏感です。 ルノーの経営にフランス政府の思惑が反映されると、雇用の調整弁とされる可能性もあります。それではルノーは上場企業として投資家に向き合えません。ルノーの影響を強く受ける日産も同様です。

こうしたことから、ルノーは日産への出資比率を下げ、日産のルノーへの出資に議決権を付与してフランス政府に対抗するなど検討している模様です。 フランス政府に対抗する点でルノーと日産の利害は一致しています。ルノーと日産、そしてフランス政府の問題は、親子上場の問題が2段階積み重なった珍しいケースといえます。

鴻海によるシャープへの出資のニュースも近年マスコミをにぎわせていますが、構図としてはルノー・日産と非常に似ています。鴻海はシャープの株式の66%を取得し子会社化しますが、シャープの上場は維持します。シャープの経営トップは鴻海から出すものの、鴻海とシャープはそれぞれ独立の経営主体であり続けるともコメントされています。

一連の構図はルノー・日産とそっくりですが、鴻海はEMS(電子機器の受託生産)の大手なのに対しシャープは高度な技術による差別化を得意とするなど、ビジネスモデルがかなり違います。鴻海とシャープの利益を上手く切り分けられるかは今後の提携スタイルによりますが、少なくともシャープとしては利益相反があれば対抗できる仕組みにしていかなければなりません。それはすなわち、上場子会社としてのガバナンスに他なりません。

3.やはりガバナンスの問題に

前回のメルマガに書いた通り、日本は安定株主による経営の安定を歓迎してきました。その結果、親子上場が例外的に多い国となっています。しかしながら、外国人投資家による東証の売買シェアは6割、株式の所有比率でも3割に達しています。海外マネーは今や日本の証券市場に不可欠で、日本は別という理屈は通りにくくなっています。

良い親を持つことは子供にとってメリットがあります。経営の安定、強力な業務パートナー、信用力の強化など。しかしながら親も上場企業として利益を追求することから、潜在的に利益相反があることは避けられません。それでも上場するなら、親が子供をいじめない仕組みにしなければなりません。

このためには、かなり高度なガバナンスが必要になります。機関設計の工夫だけでは難しく、株主との契約や、役員人事における歯止めのルール、少数株主の利益をモニターする外部者を置くなどしなければいけない でしょう。シャープと鴻海のケースでも、シャープが上場を維持する以上、鴻海に利益を吸い取られない仕組みであることを具体的に説明する必要があると思います。

なお、日本で上場していない親会社の場合、日本では開示情報が得にくいという問題もあります。完全に親会社である場合は「親会社等状況報告書」という書類を開示することになりますが、持分が過半数に至っていないルノーの場合は開示義務がないな ど、公的な開示制度だけで説明を尽くすのは難しいと言えます。

今の上場審査では余程の理由が無ければ親子上場は否定されてしまいます。子会社の利益を保証するガバナンスの組み方は簡単ではありません。それでも親子上場のメリットを「いいとこどり」してきた日本が、工夫をこらしたガバナンスを編み出していけば、日本のガバナンスも次のステージに上がって行くのではないかと思います。(作成日:2016年4月27日)

■執筆者:株式会社ビズサプリ 代表取締役 三木 孝則

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