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コロナが企業不正に与える影響

コロナで企業不正はどのような傾向になるのでしょうか。公認不正検査士協会(ACFE)が2020年5月に調査を行い、その結果が「不正に対する新型コロナウイルスの影響ベンチマークレポート」として公表されました。本日はその調査結果を中心にご紹介をします。

1.調査の概要

今回の調査は、新型コロナウイルスによるビジネスにおける様々な障害が生じており、この障害が不正をはたらく要因となる不正のトライアングル(動機・機会・正当化)に影響を与えると指摘しています。その上で、コロナ禍で不正リスクや不正対策プログラムがどのように変化しているかを世界中のACFE会員に対してアンケート調査を実施したものとなります。

アンケートは無作為に選んだ77,198名の会員にアンケートを依頼し、そのうち1,851名から有効回答があり、調査結果はこの1,851名の回答に基づいています。回答者の勤務地は北米54%、サハラ以南のアフリカ13%、その他西欧、アジア・ 太平洋、南アジア7%となっており、北米の傾向が強く表れています。また回答者の企業規模は、従業員100名未満の中小企業から10,000名以上の大企業まで幅広い規模の企業の実態を示しているものと思われます。

有効回答率は大変低く、また回答地域もかなり偏りがあるため全世界の実態をよりよく示すものということではないですが、このような調査結果についてタイムリーに集計・分析し、報告書を出すこと自体は大変興味意義深いのではないかと思います。 調査の詳細はこちらのURLからレポートをダウンロードしてご覧ください。https://www.acfe.jp/study/download-library/

2.調査結果

コロナで不正は増えるのでしょうか。

この調査報告書では、「新型コロナウイルス発生後の不正の発生頻度」について回答者の68%が不正の増加を認識しているとの結果が出ています。さらに、回答者のほぼ全員の93%が今後1年間に不正頻度が増えると回答しています。このうち、「著しく増加する」と回答したのが51%となっています。今後1年間、大変不正リスクは高い状況になるということが予想されているようです。

調査では全体の不正の発生頻度だけでなく、10種類の不正手口について現在の認識と今後1年間の予測について不正リスクが高まっているかどうかを質問しています。 その結果、最も影響を受けると回答があった不正は「サイバー不正」でした。報告書では、事例として「なりすまし」「ハッキング」「身代金詐欺」などを挙げていますので、これは企業の内部不正というよりは企業側が「攻撃」を受ける性質のものとなります。特にテレワーク等で各自が自宅から会社のシステムにアクセスすることになるため、適切なセキュリティ対応を取らない限りリスクは急激に高くなっていると思われます。

これについては、そのような不正の標的となり事業に支障が出たり、大切な情報資産を盗まれるようなことがあったりすればそれは企業としては不祥事となります。働く場所が変わったことで生じる新たなリスクを識別した上でリスクに応じた対応をとっていくことが必要です。情報セキュリティの仕組みを強固にしていくことだけでなく、例えばテレワークを前提にした業務プロセスの再設計やテレワークで生じるリスクや対応についての啓発等様々な対応を実施していく必要があります。

それ以外に、今後1年間の間で現在より増加するという回答が多い手口として 「支払における不正」「横領」「財務諸表不正」という調査結果が出ました。「支払における不正」は架空発注や割増発注などで会社のお金を引き出し、自分の懐に入れる行為で、「横領」も窃盗などの会社の資産を盗む行為です。このためこの2つの手口の動機は個人的な金銭欲によるものがほとんどです。例えば給与の減少などで生活が苦しくなるとより動機が生じやすくなるかもしれません。また取引先との打ち合わせがオンラインとなり、他者からの牽制をかけにくくなる可能性もあります。

このような個人犯罪的な要素が強い不正に対しては、人材のローテーションや業務分掌といった以前からあるような典型的な予防統制に加えて、特定の取引先との取引金額分析、案件ごとの利益率分析などの財務データを活用した分析を行ったモニタリングやメール解析、内部通報制度の適切な運用など早期発見のための取り組みがより重要です。

「財務諸表不正」の代表的な手口は粉飾決算であり、動機としては「業績を良く見せたい」というものが多くなります。ただ、今現在業績が思わしくなかったとしても、ある意味「コロナ」という言い訳ができてしまうため、「動機」が生じにくくなっていることも考えられます。

一方で今後業績の回復局面では非常にリスクは高くなるでしょうのではないでしょうか。業績悪化の理由が実はコロナだけのせいではなく、実は全く別に要因があり、「コロナが危機のトリガーに過ぎなかった」とか、「危機が来るスピードが速まっただけ」といったことが回復局面になると明らかになってくるでしょう。つまりは回復局面での業績については経営者の力量が問われることになります。そうなると業績プレッシャーなどによる粉飾決算リスクは大変高くなるのではないでしょうか。

3.企業の回復力の差

「財務諸表不正」については、回復局面に入ると企業ごとの差がはっきり出るため経営者にプレッシャーとなり粉飾リスクが高まるということは先ほど述べた通りですが、企業の回復力について興味深い調査結果があります。

前回の経済危機時であるリーマンショック時に売上10億ドルを超える上場企業1,100社を調査したものですが、この調査結果によるとリーマンショックを挟んだ2007年~2011年の間に「業績を大きく伸ばした企業群」と逆に「業績が停滞した企業群」があり、その差はリーマンショックの景気収斂期の前半ではほどんど差はなかったものの、景気収斂期の後半から徐々に差が開き、その後の回復期(2009年~2011年)で大きく差が広がっていることがわかりました。つまり、経済危機の初期には、どの企業も危機の影響を大きく受け、同じような割合で売上を落とすものの、危機から少し時間が経った時にその回復・挽回の速さで大きく差が付くということです。

さらに興味深いことに2011年~2017年にその後の業績の追跡調査をしてみると、回復期に大きく開いてしまった2つの企業群の差は二度と縮まることなかったとのことです。危機からの挽回力がその後長い期間の業績に影響を与え続けるという結果になりました。(以上、ハーバードビジネスレビュー 2021年2月号「永続的に成長するリジリ エントカンパニーの条件」より抜粋)

今回の新型コロナにおける危機でも1回目の緊急事態宣言下の2020年4月~6月にはほとんどの企業で売上が大幅に落ち込みました。この期間は、どんな企業においても想定をしていなかったであろう全世界での物流、人流のストップ、店舗の閉鎖等によるものでした。そこは危機の前半ですからそれほど大きな差はありません。ところがこの危機の間に何を考え、どのように対応したのかでその後の回復の速さにはおそらく差が出てくることになるでしょう。

もちろん業種による差異もあるでしょうから一概には言えませんが、「コロナでは仕方がない」とじっと通り過ぎるのを待っているだけの企業と、「ピンチは変化のチャンス」と従業員、取引先一丸となって取り組んできた企業とでは次の1年で決算数値には大きな違いが出てくるのかもしれません。(作成日:2021年2月17日)

■執筆者:株式会社ビズサプリ 代表取締役 辻 さちえ


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