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ゴジラ-1.0~世界を席巻したマーケティング

世界興行収入が100億円を突破

2023年11月3日に国内で、12月1日には全米で公開された「ゴジラ-1.0」について、東宝は12月22日、全世界興行収入が100億円を突破したと発表と発表しました。
 
僕は12月2日に新宿のTOHOシネマズ、IMAXレーザーで鑑賞しました。封切の1ヶ月くらい前から、YouTubeに頻繁に予告編が表示されるようになり、「ゴジラ-1.0」というタイトルに違和感を覚えたものの、予告編を見たらすごい迫力で、「これは本当に日本でつくったのか?」と思うほどです。「映画館で観るしかない」と心に決めたのでした。

ゴジラ体験の歴史

僕がゴジラ映画を見始めた頃は、ミニラが登場する、かなりコミカルなゴジラの時代で、小学校の下校時におじさんが割引券を配り、家に持ち帰って親に観たいとせがむのが通例でした。東映は仮面ライダーやマジンガーZなどで対抗していたように記憶していますが、僕は東宝派でした。ゴジラのほかに、TVアニメなどを併せて東宝映画祭りなどと銘打って、学校の長期休みにぶつけていたように思います。当時のゴジラ映画は完全に子供向けでしたので、成長するにつれて遠ざかっていくもの、と受け止めていました。
 
大人になってから昭和29年公開の最初のゴジラを見て感動しました。水爆実験の影響で巨大化したゴジラと人間が対峙する映画で、核兵器を否定する日本人としての矜持を示すような映画でした。「ゴジラ映画の最高峰はこれだ!」「これしかない!」と思ったものです。それ以降、平成になってからのゴジラはほとんど見ることがありませんでした。
 
そのあと、ハリウッドでゴジラ映画が作られるようになりました。しかし、2014年のマシュー・ブロデリックとジャン・レノが主演した最初のハリウッド版ゴジラは、ゴジラではなく巨大なトカゲで、巨費は投じているものの、惨憺たる出来栄えでした。
 
2014年公開のハリウッド版ゴジラでは、渡辺が出演し、日本版ゴジラへのリスペクトが感じられつつ、さすがハリウッドといえるVFXで、昭和29年版を超えるとは言えないものの、僕にとってはお気に入りになりました。ただ、第2作、3作と作り続けると、だんだんストーリーが変になっていたのは残念です。特にキングコングと共演すると話がおかしくなります。口から熱線を吐くゴジラと、ゴリラが大きくなっただけのコングでは対等な戦いにはならず、別々に登場するほうがよいと思います。
 
2016年にシン・ゴジラが大ヒットします。ゴジラという未曽有の危機に直面した政府の狼狽振りを描くことによって、大人向けの作品として、深く考え楽しめる作品に仕上がっています。日本人の記憶に深く刻まれた東日本大震災を連想させることも成功要因だと思います。個人的には、政府機能が立川に移転することにハマりました。ぼくは一時立川で勤めたことがあり、東日本大震災の輪番停電にあってもピンポイントで停電にならず、政府の重要施設が存在するからだと噂されていたので、「これだったのか?」と膝を打ったわけです。真偽のほどはわかりません。ただ、話題がドメスティックで、登場人物の家族など人間的な物語を排したことから、国内では大ヒットしたものの、海外ではほとんど話題になりませんでした。
 

「ゴジラー1.0」をヒットさせたマーケティング

「ゴジラ-1.0」を映画館で見た感想は、間違いなく昭和29年の初代ゴジラやハリウッド版を含めたゴジラシリーズの最高峰であり、IMAX レーザーで見てよかったというものです。
 
この映画は 米国や全世界でヒットすると思いましたが、その後の快進撃は予想以上でした。
 
「ゴジラ-1.0」が大ヒットした理由を、マーケティングの観点からいくつか書き連ねてみたいと思います。
 
YouTubeに挙げられた山崎貴監督のインタビューを見ると、とりたててマーケティングはやっていないと答えています。
 

ペルソナ

では何をやったのかというと、具体的に映画を見てほしい人が100%満足するように 脚本を作り込んだというのです。
 
これは マーケティングの手法として ペルソナの設定として知られていて、4 P (Product, Price, Promotion, Place)などの伝統的手法がマーケティング教科書の玉座に鎮座していた頃にはまだ存在しなかったのですが、顧客のニーズが多様化した現代では最も重要といっていいくらいの手法になっています。
 
ターゲットとする実在の人物を決めて、そのプロフィール、性別や年齢だけでなく、趣味や好きな書籍、休日の過ごし方にまで掘り下げて、ひとりの顧客が満足する製品やサービスを作りこむ、という手法です。これによって、よさそうなんだけど、そして万人受けしそうなんだけど、実際に発売してみるとあまり売れない、といったよくありがちな失敗を避けようとするものです。
 
「ゴジラ-1.0」の場合は、映画を見てほしいと思う想定顧客数人(二桁だったかも)に脚本を読んでもらってフィードバックを得るというやり方を何度も繰り返しています。監督のインタビューによると 最終的には30回ぐらい書き直したそうです。特にフィードバックによって脚本を大きく書き直した箇所は最後の戦闘シーンで、簡単に決着がつきすぎるという感想を踏まえて脚本を作り込んでいます。

家族向け

もう一つの大きな要素は家族みんなで楽しめる作品になっているということです。「シン・ゴジラ」の日本政府を軸にしたストーリーは、それまでの特に日本で上映された映画の、子供向けというイメージを払拭するために不可欠な要素であったかもしれません。
ですが、米国でヒットするためには主人公とその家族のストーリーが十分に組み込まれていないとただの怪獣映画になってしまうということがあり、主人公の、事情を抱えた 家族を描くことによって、怪獣が出てこなくても見応えのある映画になっています。山崎貴監督の「三丁目の夕日」と同じで、ちょっとストーリーがくさい気はするのですが、そこヨシとしましょう。
 
家族向け映画として、とても大切な点なのですが、R指定がされていません。つまり、子供を含めた家族連れが安心していられる内容になっているということです。同じ時期に上映している「ナポレポン」はPG12です。
 
これは残虐なシーンを避ける工夫が功を奏しています。例えば、ゴジラが人間に噛みつくシーンがあるんですが、ゴジラは人間を嚙み潰さずに放り投げています。この時点では人間が生きていることがわかります。そして放り投げた後の様子は画面には映し出されません。映画館で観ているときには、若干違和感があったのですが、ブログを書くために考えてみて納得思しました。

核爆弾の描き方

次に核爆弾の描き方です。
昭和29年のオリジナルのゴジラでは、水爆実験によってゴジラが誕生する、反核の主張が色濃い仕上がりになっています。
 
ですが、今回の作品では)太平洋戦争中の(時代設定が異なるので水爆ではなく原爆の)核実験によってゴジラが生まれたと、はっきりわかるようになっていますが、核爆弾に対する嫌悪は色合いを薄めています。
このことによって一般の米国人が受け入れやすくなっていると感じます。今でも米国民の半数以上は広島・長崎の核投下を妥当だったと感じているわけですから。
 
政治的な観点では、核爆弾よりも戦争そのものに焦点が当たっています。ウクライナ戦争と結びつく今日的テーマです。そして、ゴジラを見終わった米国人の感想に耳を傾けると、PTSDという言葉が何度も出てきたのが印象的でした。
 
特攻兵として出陣したものの期待が故障したことにして中継基地に不時着し、ゴジラに直面した時には逃げだしてしまった主人公の心の傷が映画の序盤で描かれます。米国人にとってはイラク戦争など、比較的最近自国が引き起こした戦争によって多くの兵士が PTSDを抱えており、日本人が考える以上に大きな社会問題となっていることが伺えます。 

VFX

VFXの素晴らしさも印象的でした
米国の報道では「ゴジラ-1.0」の制作費は1500万ドルで、日本円では20億円ちょっとです。これはハリウッド製のゴジラ 映画 に比べると、1/10くらいの製作費であり、ハリウッド基準では低予算映画に分類されるそうです。これはこれでショックですが、そういうことです。
 
にもかかわらず、米国アカデミー賞視覚効果賞の候補としてショートリストに挙がっており、尊敬の念をもって見られているようです。
 
日本の技術者の優秀さを表すものとして称賛されるべきものですが、これも監督のインタビューの中で、ハリウッドと同じソフトウェアを使っていることに言及していました。
 
考えてみれば当たり前です。ソフトウェアは、完成した後はなるべく多くの人に使ってもらい、開発費用を回収し、さらに利益を上げるという収益構造です。VFX用ソフトでも基本は同じでしょう。
 
ですが、例えば「ターミネーター2」で未来からやってきたアンドロイド(警官の姿でシュワルツネッガーを追いかけてくるアレですね)が、銃で身体に風穴が空いてもすぐに再生する様子は、予算が潤沢なハリウッドでは可能でも日本映画には太刀打ちできないと思ったものです。
 
このあたり、私は詳しくないのですが、その当時はコンピューターグラフィック用のソフトウェアはまだ市販されておらず、または出回っておらず、ハリウッドではプロトタイプを使うことによって他国の映画産業に差別化していたか、ハリウッドにしかソフトを使いこなすエンジニアがいなかったのかもしれません。
 
同じソフトを使えるなら日本のエンジニアは負けていないということでしょうか?今回VFXを担当した白組は日本のVXFを牽引する存在で、監督の山崎貴はVFXにも責任を負っていてVFXをやりたいから映画監督になった人なので、一様に比べてよいのか疑問は残ります。
 
ちなみに、映画のエンドタイトルで「白組」とあったのを見て、どこかで見た覚えがあるがなぁ、と思っていました。もちろんいろんな映画を手掛けている技術者集団なので名前は何度も見ているはずですが、毎週1-2回通っているオフィスの同じビルに白組のオフィスがあったことに、後から気づきました。見てないはずはないですね。
 

(参考文献)
『ゴジラ-1.0』世界興収100億円突破 米アカデミー賞視覚効果賞ショートリスト入り (msn.com)
https://www.youtube.com/watch?v=vvuD5bPYimU (サムネイル画像)



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