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PERFECT DAYS ~ライフシフトで見つける幸せ~

映画「PERFECT DAYS」は、役所広司が主演、ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースがメガホンを取り、東京で撮影した映画です。
 
第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては『誰も知らない』の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞しています。最高賞であるパルムドールは、「落下の解剖学」に譲っていますが、年100本の映画を観ている僕としては、数年に一度しかない深くて静かな感動を呼び起こす作品です。

あらすじ
この映画「PERFECT DAYS」では、東京の押上にある古いアパートで一人暮らしをする、中年の清掃作業員・平山の静かで単調な日常が描かれています。平山は毎日、渋谷区内の公衆トイレの清掃を担当しており、彼の日々は一見すると単調な繰り返しに見えます。しかし、彼には小さな楽しみや日々の生活の中で見つけた美しさがあります。例えば、移動中に古いカセットテープを聴いたり、神社の境内で昼食を取りながら木洩れ日を眺めたり、モノクロ写真を撮ったりします。平山の生活には、仕事の単調さや孤独感を超えた、深い満足感と平和があります。

ある日、平山の日常に変化が訪れます。彼の若い姪・ニコが家出して平山のもとを訪れ、彼と一緒に仕事をすることになります。ニコの突然の訪問は、平山にとって予期せぬ出来事であり、彼女の存在が平山の静かな世界に新たな意味をもたらします。
 
麻生祐未が演じる平山の妹が彼のもとを訪れるシーンは、映画の中で重要な転換点となります。彼女は家出してきた姪・ニコを連れ戻しに来るのですが、運転手付きのレクサスで古びたアパートの前に乗り付けます。妹は、「トイレの掃除をしているって本当なの?」と問いかけ、父は施設で暮らしており、以前より丸くなったから、家に戻るよう促しますが、平山は、今の生活に満足しているからと断ります。
 
この訪問は平山にとって過去との対峙を強いる瞬間となります。ニコの訪問によって、平山の日常には新たな動きが生まれ、姪との交流を通じて彼の内面に微妙な変化が生じ始めます。しかし、妹が現れることで、彼は自らが捨ててきた過去と向き合うことを余儀なくされます。
 

 ライフシフトで見つけた幸せ
一見すると平凡で繰り返しの日々を描いた作品ですが、その中に深いメッセージと生き方の哲学を秘めています。この物語の中心にいるのは、役所広司が演じる平山という人物です。平山は、経済的な安定と名声を約束された道を捨て、公共トイレの清掃という地味で目立たない仕事を選びました。彼の選択は、自分自身の内なる声に耳を傾け、本当に価値のあるものを追求するという強い意志を表しています。
 
映画を通じて描かれる平山の日常は、起きてから寝るまでのシンプルなルーティンの繰り返しです。しかし、この繰り返しの中に彼の人生哲学と幸福への追求が見え隠れしています。平山の日々は、アパートを出て自動販売機で缶コーヒーを買い、車で仕事に向かい、一心不乱にトイレを清掃し、仕事の後は銭湯でリラックスし、居酒屋で一杯やりながら一日を振り返り、家に帰ってからは音楽を聴いたり本を読んだりして過ごします。このルーティンは、彼にとって完璧な日々を構成する要素であり、彼はこの単純な生活の中で真の満足と幸福を見出しています。
 
この物語は、ビジネスパーソンにとって非常に重要な示唆を与えています。多くの場合、私たちは社会的な成功や物質的な豊かさを追い求めますが、それが必ずしも幸福を保証するわけではありません。「PERFECT DAYS」は、自分にとって何が本当に重要なのか、どのような生き方が自分を満足させるのかという問いに対して、ひとつの答えを示しています。それは、外部の期待や社会的な基準に囚われず、自分自身の内なる声に耳を傾け、自分の価値観に基づいて生きる勇気を持つことです。
 
この映画は、「ライフシフト」の概念を体現しています。それは、一人ひとりが自分の人生の主人公となり、自分自身の価値観に基づいて生きることを意味します。平山は、社会的地位や経済的利益を求める代わりに、自分自身の心の平和と満足を選択しました。彼の生き方は、多様な生き方や働き方を模索し、何度でも新たな挑戦を続けることが可能な「マルチ・ステージ」型社会の理想を示しています。彼は、自分の道を切り開き、新しいロールモデルとなっています。
 
ビジネスパーソンがこの映画から学べるもう一つの重要なポイントは、日々の小さな習慣やルーティンが、長期的な幸福や満足にどのように貢献するかを理解することです。平山のように、単純だが意味のある日常の習慣を大切にすることで、人生における大きな幸福を実現することができます。彼の物語は、私たちが日常の中に美しさと満足を見出すためのインスピレーションを与えてくれます。
 
最後に、この映画は、役所広司の卓越した演技によって、平山の内面の葛藤と平和を見事に表現しています。彼の静かで力強い演技は、平山の人生観と彼が選択した道の美しさを際立たせています。映画の終わりにかけて、平山の表情からは、彼が自分の人生の選択に対して深い満足と平和を感じていることが伝わってきます。これは、ビジネスパーソンにとって、自分自身のキャリアと人生において、何が本当に重要なのかを再考する機会を提供してくれます。

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